第15話 『ひらめいた!いやがらせ大作戦!』

「……弔いたかったぁ?」


 ボクが間延びした声を上げると、足元でミダース=ゴーゴンの分体もぺこぺこうなづいた。なんだ。そうなのかよ。


「何オマエ、モンスターの言葉とかわかるわけ?」


「まさか、獣はしょせん獣ですし、意思疎通なんてできませんよ。俺なりに人間に当てはめて考えてみただけです。リュシオル様を見習って頭を回してみようかと!」


 そーですか。オマエもたいがい獣っぽいけどね。ソードモンスタールズ。


「で?アホキラキラのキラキラな脳みそを回して一体どんな考察にたどり着いたわけ?残念ながらボクは他人の立場に立つとか凡人臭いこと出来なくてさ」


「俺の凡庸さが役に立つのなら幸いです」



 くっ。強いなこいつ。



「いいよそういうのは。で?」


「ああはい。その、これは完全な想像なのですが……宝石ウロコのゴーゴンと黄金化能力を持つゴーゴン……リュシオル様が呼ぶところのミダース=ゴーゴンは、ただの同族以上に特別な関係なのではないかと思いまして。というより、ミダース=ゴーゴンが執着していた、というか」


「ほうほう。まぁ続けてみなよ大作家アホキラキラ先生」


「大作家などと……こんなものはとんだ妄想で」



 嫌味だよボケ。まぁ、筋は通るか。



「つまり大事な人の死体を雑魚が剥がして金に換えるのが許せなかったって?」


「はい!さすがリュシオル様は俺ごときの意図はすぐさま理解されてしまいますね!」


「ほいほい。どうなん?実際」



 ミダース=ゴーゴンの分体は首がもげそうなほどうなずいている。……ずっと『ミダース=ゴーゴンの分体』って呼ぶのめんどいな。分体くんでいいや。


 ルズくんったら分体くんの気持ちクイズ大正解。

 アホと畜生で通じ合うもんでもあるんだろう。


「じゃぁあれか?モンスター除けの結界が死ぬほど張ってあったのもお前が取り戻そうとしたから?」


 再びのうなずき。なるほど、あの多重結界はそんな涙ぐましい戦いの跡だったわけね……いや、城全体に結界かけとけばよくないか!?!?


 まぁそこはなんか事情があったのだろう。すでに終わったことにたいして100パー考察しようってのも無駄な話だ。


「モンスターって案外繊細な情緒あるんだね。まぁカラスでも仲間が死んだら悲しむっていうし、おかしかないか」


「博学ですねリュシオル様……!」


「常識」


「勉強になります」


「おう。たくさんしろ」


 ま、だからって話ではあるけども。しょせん相手はモンスター、そこまで同情する気にはなれない。ただ、あれだな。


 輪をかけて村の連中がしょうもなくなるっていうのは、悪くない。


 あらら~?これは完全に正当防衛ですね~~?モンスターとはいえ、身内が剥製にされた子の気持ちをさらに傷つけてまでしょっぱい盗掘やって、あっさりやられちゃって、これはもう明日からどんな顔で生きていけばいいのかわからないね~~??


 あれかな?子どもとかにも言うのかな?


「こら!人として恥ずかしいことをするな!父さんは自分で倒したわけでも無いモンスターの死体から一部をちょろまかそうとしてそいつの身内に黄金化されちゃったけど!せこい盗みで騎士団まで動員させたけど!父さんの背中を見て立派な大人になりなさい!」


 っていうのかな~~~~~??うっける~~~~!!


 ……待てよ?

 待てよ~~~!


 ピッコーーーン!


「ふっふーーん!いい事思いついた」


 ふっふっふ。我ながら天才的アイデアが下りてきてしまった。


 そう!サプライズのアイデアが!

 せ~~~っかく村人が黄金化してるんだし、やっぱり何かしらのサプライズいやがらせをしてあげないとだよね~~!うんうん


「リュシオル様?いかがされたのですか?」


「いや、せっかく人の気持ちがわかるアホキラキラ君に聞きたいんだけど~もし、命がけで盗み取った宝物が目の前で消え去ったら、普通の奴らってどう思う?」


「リュシオル様が俺を頼ってくださるとは感激です!」


「はよ答えろや」


「しゅん」


 いま口に出してしゅんって言った!?


「……そうですね、やはり絶望するものかと。多くの人間は、自分が欲するものを得るためにした苦労が報われないことに耐えられませんから。ああ、それを思えばリュシオル様のお言葉をいつでもいただける俺は何と幸福なのでしょ」


「一旦はしょれ。長い」


「しゅん」


 やっぱり口に出してしゅんって言ってる……。


 ……そこ言及するのめんどいな。やめとこ。


 さて……アホのルズの意見も聞いたことだし、一応こいつの意見も聞いてやるか~。一応関係者の同意があった方がボクの正当性も増すし。


 軽くしゃがんで、ミダース=ゴーゴンの分体くんに一つ質問。


「おい分体。オマエの仲間の死体、跡形もなく土に還るのと、誰も入ってこない場所に持って帰るのだったらどっちが嬉しい?みぎひだりどーっち」


 ジェスチャーで右「土に還る」左「持って帰る」を示してやると、分体は右を向く。おっけー、土に還すのね。


「おっけ~。じゃぁまずは──【爆ぜろ】」


 ドガン!


『き……きううう!?!?』


 派手な音を立てて、遺跡の壁を爆発させる。きれいに空いた穴からまぶしい光が差し込んできた。いつの間にか夕方だ。うーんいい天気。


「すばらしいですリュシオル様!これほどの破壊力とは!戦場であれば一騎当千ですね!」



 腰を抜かす(腰ないけど)分体と、笑顔で賛辞を述べるルズの図。いや、ルズはもうちょいビビれ。


 瞬きせずに見てただろオマエ……まぁボクの魔法が偉大だから見逃したくないんだろうね。もうある程度分かったこいつの事は。


「さてさて、続いて──術式解除っと」



 遺跡全体を対象に黄金化を解除。



「ひいい!?……あ、あれ?バケモンがいない?」


「おわっ!体が元に戻ったぞ」


「た、助かったのか……?」


「あ!ほ、宝石!宝石は無事か!?」



 あちこちで元に戻った連中が騒ぎ出す。


 んー。全員テンプレセリフしか言ってなくて逆にすごいな。根っからのモブなんだろう。かわいそうに。


 まぁでも、そういうテンプレモブっぷりは嫌いじゃない。


 ──コケにしがいがあるからね!


 さて、本番はこっからだぞ〜!まだアホどもが状況を把握できていないうちにっと



「【浮かべ】」


 浮遊魔法で宝石ゴーゴンの体を浮遊させ、さっき開けた風穴から遺跡の外に出してる。あえてちょっと羽ばたくみたいな動きにしてみたら案の定アホどもが



「剥製がうごいたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」とか叫んで走り回ってる。おやおや?ビビってる場合かなぁ〜?


「【集え】」


 ぼーっとしてると、せっかくパクった宝石が手元からすり抜けてっちゃうよ?



「な!?ほ、宝石が浮かんでっ!」


「あ、ちょ、ちょっと待って〜!逃げてかないでくれ〜〜!」


 ボクの魔法で、宝石ゴーゴンから剥がされた宝石を本体に紐付けして、一箇所に集めてやる。ふわふわと浮かびながら宝石が一箇所に集まってく様子は天の川みたいだ。


 それを追いかけて手足をバタバタさせてる奴らはさながら天の川で溺れる魚かな?ああ、実際魚だもんね?雑魚っていうさ!!


 っし、あとは〜


『き、きううう~~~』

「おお!体が!」


 ついでにボク&1人と1匹も浮遊させ、遺跡の外にGO!うーん、ずっと室内だったから風が気持ちいいな!高度をぐんぐん上げてくと、さっき通った山や森が見渡せる。絶景だね。



「どう?初めての浮遊体験は」


『きうきうきう~~~!』


「はい!リュシオル様の魔法をわが身にかけていただけただけでなく、このような得難い体験をできるなど、身に余る光栄です!」


 アホのルズはいつも通りとして、分体くんもなんだか嬉しそうに体を動かしている。……ちょっと可愛いなモンスターの分際で。テイマーとかいう連中の気持ちがちょっとわかった気がする。


「ところで、いったいなぜ俺たちや剥製を浮遊させたのですか?」



「ん?やっぱりいい景色は、特等席から見たいじゃん?」


「いい景色、ですか?ああ、確かに……この景色は空を征く雲になったようです。……自由とは、こういうことをいうのでしょうか」


 

 ルズが、しみじみと呟く。ふふん、そーだろそーだろ!でもまぁ……



「面白いのはこっからだけどね〜!ほらほら、見てみなよ」


 

 ボクが指を指した方では、村の連中や騎士たちが遺跡の壁に空いた穴に押し寄せてボクたちを見上げている。



「な、なんか宝石のバケモンだけじゃなくて人間も浮いてるぞ!?」


「どうなってんだよ一体!?」


「あ、あいつ!冒険者のリュシオル=エンバーズグローじゃねぇのか!?カスで有名なっぎゃああ!」



 最後のやつには電撃を喰らわせておいて……うーん、ギャラリーじゅうぶん!それでは!



「──【塵に帰れ】」



 詠唱と同時に、宝石ゴーゴンの体は無数の粒子となって砕け散る。


 足元では、村の連中の凄まじい悲鳴が響いていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る