第13話『ごー!2階ごー!』
「うーん、やっぱ上になんかしらあるっぽいな……」
「さすがリュシオル様……素晴らしい洞察力です!どうかその偉大な思考の一端を、浅学非才の凡夫である俺に示してはいただけないでしょうか……!」
「フツーに聞けアホキラキラ」
ミダース=ゴーゴンが髪に魂を移し替えて作った逃亡用の分体を追いかけ、無駄に長くて広い階段を上りながら、無駄に長くてやかましいルズの口上を適当にあしらう。こいつ独り言も一個一個拾ってくるから正直しんどいな……。
まぁ確かに?偉大なる天才魔術師ことボク、リュシオル=エンバーズグロー様の話を一言もらさず傾聴するのは殊勝な心掛けだとは思うけどね?
思うけどめんどい。だるい。シンプルに。
てか普通に気づかないか?階段に大量に転がってる黄金化した連中を見たら。
どいつもこいつも、上から下に逃げるような姿勢で、振り向きざまに黄金化されてる。それに、派遣された調査隊であろう奴以外は、袋を掴んでいたり、何かしらを抱え込むみたいなポーズも多い。
まるで、上の階から何かを持ち出そうとしてゴーゴンに見つかったみたいだ。
「つまり、この上にはお宝があって、それを盗もうとした村のアホどもがミダース=ゴーゴンを怒らせた……ってのが行方不明事件の真相なんだろうね。で、その宝ってのは多分……ホレ」
適当に近くにあった、手すりにしがみつきながら何かを抱えている黄金化した村人杖で殴り倒すと、手に持っていたものが散乱する。それは、鮮やかな宝石だった。
「さっきのオッサンも持ってたけどさ、まぁこの大きさと輝くなら結構な額で買い取ってもらえそうだしね。危険を顧みない間抜けなら手を出すでしょ」
問題はその間抜けがこの人数いることだけど。
全く、弱っちいくせに欲をかくからバカを見るんだよホント。宝探しで自分が黄金になってりゃ世話ないね。
だいたい、遺跡探索とか財宝探しとか、そういう夢とロマンがあることをできるのは強いやつの特権なんだよ。そう!例えばボクのような!!
「なるほど……それにしても、この状況を見ただけでそこまで見抜かれるとは……さすがはリュシオル様です!!まさしく大陸一、いや世界一の知恵者!全てを紐解くお方!魔術を識るものは全てを識るということですね!」
「ふふーん!ま!それほどでもありすぎちゃうかな〜?ま、わからないことがあったらこれからもドシドシ聞きなさい!」
「承知しましたリュシオル大先生!いや、名探偵リュシオル様というべきでしょうか──?」
「あ、それ気に入ったから今度からパクるわ」
「なんと!光栄です!」
お、とか言ってる間に2階だわ。
さてさて一体何が──
「うへぇ……この部屋、趣味悪ぅ〜」
2階に上がって早々、思わずゲッソリした。おそらくこの遺跡はもともと古代のお貴族様の邸宅かなんかだったんだろう。
1階が客間だとするとここは私室的な?お貴族様の家の構造なんて知らないけど、ベッドとかあるし多分プライベートな空間だったんだろう。一階以上に黄金化された連中が積み上げられていて、間抜けな光景だ。
しかも──
「これは……黄金化していますが、モンスターの剥製だらけですね」
そう。2階は壁一面、どこをみてもびっしりとモンスターの剥製が飾られているのである。一目見てわかるくらいには、どれも珍しいやつばっかりだ。
「元は博物館か何かだったのでしょうか?」
「いや、ただの悪趣味でしょ。何いい声でアホなこと言ってんの」
まぁアホは放っておいて、だ。
いやマジで趣味悪いな〜〜〜!!
成金趣味もここまでくるとある意味圧巻だ。
黄金化しているからギリギリ目立たなくなってるけど、モンスターの種類から見るに多分元々は相当ケバケバしい色合いだったんだろうなぁ〜。
センスないわ〜。げろげろ〜。
全く、これじゃぁ屋敷の持ち主のお里も知れるって話だ。いくらデカい家を建てて飾り立てても、根っこが洗練されてないからこういう下品な感じになっちゃうんだよね〜。
もっとボクみたいに内面を磨くべきだと思う。
「あの、リュシオル様リュシオル様」
「ん?」
指先ちょんちょん。
んだよアホルズ?お前がそれやっても可愛くないぞ?
「なに?」
「リュシオル様……今、『なにいい声でアホなことおってんの?』と……?俺の声を……お褒めに……?」
ん?
あ。
……。
「だーーーーーー!!しまったーーーーーー!!」
うっかりアホのルズを褒めちゃったじゃんかこんのボケがーーーーーーーーーーーーー!!
クソ!クソ!いい声なのは事実だけど絶対認めたくなかったのに〜〜〜!!
「リュシオル様……俺はきっと、この時のために生きてきたのですね……」
「黙れ!!ニコニコすんな!!両手を胸に当てて感動を噛み締めるなウルトラマックスアホキラキラ!!!!」
「リュシオル様、今のお言葉、この聖剣に刻んでも?『何いい声でアホなこと言ってんの?』by大魔法使いリュシオル=エンバーズグロー様、と」
「お前今日1番話通じないな!?!?やめろ恥ずかしい!!」
(それは我も本当にやめてほしい)
ありゃ。ナマクラ聖剣のアホロの声が聞こえる。
(アポロだ。時間はかかったが貴殿の遮断防壁を解除させてもら──
はい再度遮断〜〜〜
(おい待てーーーーーーー!!)ブツッ
……あれだな。
「時間を盛大に無駄にしている気がする……」
「俺は今までになく有意義な時間を過ごせていますよ?」
「おう、よかったな。どこが?」
「全てです。リュシオル様の一挙一動が瞬間瞬間まぶたに焼き付けられ、声の一つ一つが耳に染み入り、このやり取りだけでこれまでの人生10回分の価値を感じております」
「キモい!死ね!!」
「はい」
「やめろーーーーーーー!!そんなすごい速さで首筋に剣を当てるなーーーーーー!!」
こいつ軽口って概念をどっかに置き忘れてきたわけ???……距離感と同じところに落ちてんのかな。
……
……ダメだ。こいつとくっちゃべってると何も進まん。
えっとなんだっけ。そうだ。部屋がめちゃくちゃ剥製だらけで趣味悪いんだった。元々の屋敷の持ち主もよくもまぁここまで集めたもんだ。
しかもありえないくらい荒らされていてあちこちに散乱している。どこをみても黄金化した剥製が視界に入って、ギラギラ目が痛い。
黄金ユニコーン、黄金バイコーン、黄金ケルベロス、黄金オルトロス、黄金オピオタウロス、黄金ヘルハウンド、黄金カトブレパス、黄金カルキノス、バシリスク、黄金コカトリス、黄金ヒポグリフ、黄金マンティコア、黄金ハルピュイア、黄金スキュラ、黄金ホラディラ、黄金チュパカブラ、黄金エトセトラ……ん?
部屋の趣味の悪さに気を取られて気づかなかったけど、よく見ると家具や他の剥製の死角にまだ黄金化されていないものがある。
「んだあれ」
「なんでしょうね?」
流石にアホのルズも気づいてるっぽく、2人で部屋の中を歩いていく。黄金化された連中を蹴ってよけながら部屋の中程に着いたあたりで、隠れていたものの全容が見えた。
「なっ」
「これは──」
そこにあったのは、天を仰ぐようなポーズで飾られた巨大なモンスターの剥製だった。
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