第12話『きゅ、きゅうになにしてんだっ!?』

「オマエさ、魔力ないだろ?」


「え……」



 お、ルズくんったら戸惑ってる戸惑ってる。ま、検査でもしなきゃわからないことだしね。普通は。



「そう、でしたか……リュシオル様もご存じだったのですね……」


 

 ぬ。なんか声が湿っぽいな。眉毛もヘニョってなってるし……地雷踏んだ?うわー、ダル。


 べっつに気にすることじゃないと思うどねぇ?

 絶対本人にはいってやらないけど、強いんだし(『黄金の夜明け』の三馬鹿が魔力なかったらそりゃ3時間は爆笑するけども)


 ……てか、「ご存じだったのですか」ってなに?もしかして有名だったりする?アホのルズに魔力ないのって。


 いや、知らんですが?ご存知じゃないですが?

 

 なーにナチュラルに有名人アピールしてるわけ?

 

 「まぁ……冒険者界隈にいればオレの話も当然入ってくると思いますが」……ってこと?何様??


 いっとくけどお前の話なんて名前とどんなクエスト解決したかみたいな話しか知らな……結構話入ってきてるーーーーーー!!うぜーーーーー!!


 ……落ち着け、リュシオル=エンバーズグロー。

 ボクはクールな天才魔術師……ボクはクールな天才魔術師……よし。



「別にご存知じゃないよアホキラキラ。

 オマエ、ベヒーモスを剣で倒しただろ?」


「?は、はい……そうですが……」


「だからだよ」


「?」


 察せや!


「……だーかーらー、普通は剣じゃぁ倒せないモンスターなんだよ。アレ」

 

「……剣では倒せない、ですか?しかし、斬れましたけど……」



 それがおかしいって話をこれからするんだボケ。

 

 え?てかマジでピンと来てない感じ?だとしたらモンスターの知識無さすぎない?


 ……しゃーない。説明してやろう。うーん、今日説明多すぎるな。小説だったらそろそろ飽きられる頃だわ。


 ……ま、ルズはちゃんと全部読むタイプだろ。仮にルズが飽きててもボクが気を使う理由もないしね。ボクのありがたーい話なんだから、長くてもちゃんと聞くべし。べしべし。


 ではでは、リュシオル先生のありがたーい講義です。



「えー、前提としてですが、魔力ってのは、何も魔術だけに使うものではないんですねこれが」


「そうなのですか?ところでその喋り方は一体……」



 そうなのですかじゃない!基礎知識だボケ!


 魔法を使えない冒険者でも、普通戦う時は武器に魔力を込めて強化している。これはある程度、戦いの心得がある人間なら無意識にやってるもので、込めないぞ!と思ったところで勝手に流れ混むものだ。常識だぞ?冒険者なら。


 そして、だ。こっから本題、


 ベヒーモスは力を持ったモンスターだ。


 ……そして魔力をこめた剣は、魔術学的には……つまり大地に属すると見做されるわけだ。よって、当然ベヒーモスの外皮にはどんな名剣も傷一つつけられない。本来は。


 なのにベヒーモスを斬れたとすれば……魔法攻撃判定を受けなかったということ。そんなことがあるとしたら、理由は持ち主が魔力をそもそも持たないとしか考えられない。


 そう、それしか考えられないのだ。


 考えられないけどさぁ……いや、にしたっておかしくない??


 魔力強化無しの剣でベヒーモスを倒すとか、どういう斬り方したらそうなんの??うーん、こいつと一緒にいるとずっと頭痛いな……もういいや、とりあえず以上



「どうかなぁルズくん?理解できまちたか?」


「はい!名講義でした、リュシオル先生!」


 ぬ?先生?


 ふむ……先生か……ふーん……ふーん?ふーん 

 悪くないじゃん!先生か〜!でっへへ!先生か!


「ま、知らないことはなんでもこのリュシオル大先生に聞くといーさ!」


「承知いたしました!ルズ大先生!それにしてもたった一度の戦闘でそこまで見抜くとは……オレはまだまだあなたを見誤っていました!」


「ははは!まぁ間違いは誰にでもあるさ!」


「なんと寛大なお言葉……」


「まぁね。……あー、それでなんだけど……あれだよ。魔力がないとか、いくら強くたってこの先困るだろ?


「ベヒーモス相手には運良くプラスに働いたけど、魔力無しだとダメージを与えられないモンスターとかだっている」


「だからさ、武器自体が魔力を持ってる聖剣なら、そういうのにも対応できるだろ?サブウェポンとして一本くらい持っててもいいかなってさ」


 あとボクが使えなくても、子分が持ってれば自動的にボクにも箔がつくし。


「リュシオル様……」



 わ、おい泣くな!気まずい!!


 別にいざって時に足手まといになられても困るってだけだから!


 ルズは、感極まった様子で涙をポロポロ溢しながら、完全にフリーズしてしまった。これが噂のフリーズ・エストレイヤですか(そんな噂はない)


 ……長いな。いつまで固まってんだこいつ。


「お、おーい?」


「リュシオル様!!」


「うわぁ!?急に動き出すな!!……って、え?」


 ぎゅっ。


 なに?ぎゅって、なに?なんか……すげーあったか……あ、え、これまさか……だ、抱きしめられてるーーーーー!?!?


「リュシオル様……こんなに嬉しいことは初めてです……最初からそのつもりでしたが……このルズ=エストレイヤ、一生かけてあなたにお仕えいたします」


 

 ちょ、重い重い重い!ていうか、抱きしめられたのとか初めてなんだけど?何かってに奪ってんの?


 ……ひ、人肌ってこんなにあったかいんだ……じゃなくて!!!!!!!


「お、おいコラバカアホクソマヌケセクハラキラキラ!!きゅ、急に何してくれてるんだこのクソガバパーソナルスペース!!」


「こ、これが失礼いたしました!その、リュシオル様の偉大さを過剰摂取してしまったと言いますか……つい、胸から溢れるものを抑えきれず!」


「抑えとけバカ!ば、ばか!あほ!ありえない話!!どてかぼちゃ!!おたんこなす!!きゅうり!!とまと!!すいか!!」


 

 いや、落ち着けボク。野菜は別に悪口じゃない。


 えっと、だから、つまり……


 りゅしおるはこんらんしている。


 ど、どうしよう……最悪だ……

 

 なにが最悪って、いきなり抱きつかれて(人肌ってこんなにあったかいんだ……)とか女みたいなこと思ってるボクが最悪!!がーーーーー!違う!感想!ただの感想だから!!


 て、てか、いつまで抱きしめてるつもりだこいつ!


「いい加減離せバカタレ!!!!!」


「……かしこまりました。名残惜しいですかご命令とあらば」


 名残惜しがってんじゃねーーー!!キモいんだよ!!……そう、キモい。キモいに決まってる。決してドキドキなんかしてない……ボクに限って、そんなことはありえない……。



「と、とにかくその剣は、ボクのありがたーい気遣いなんだからな!大事にしろよ!」


「はい!寝る時も食事をとるときも入浴の時も。肌身離さず持ち歩かせていただきます!」


「アホか。錆びるだろ」


 よし、ツッコミ入れたら冷静になってきた。やっぱこいつはただのアホキラキラだ。


 は〜。ったく……不良品の聖剣のせいで無駄に疲れた……


 しかもこの後、黄金化したマヌケを戻す作業もあんだよな……あーあ、ちょっと休んでからに……


 ガサ


 ん?また音?今度は何??


 ガサ、ガサガサ



「リュシオル様!ゴーゴンの髪の毛が!」

「え?」



 ルズの指差した方を見ると、輪切りにされたミダース・ゴーゴンの頭から、蛇が1匹だけ抜け出し、這いずっている。


「おー、無事だった髪の毛に魂を移したわけね」


うーん、生命の神秘だね。ちょっと感動(笑)


「殺します」


 おいまて。


「殺さなくていいよアホ。あの体じゃどうせもう大したことができないだろうし……それより、どっかに向かってるっぽいよ」



 蛇は、ヨタヨタとした動きで何かを探すように進んでいく。その先には、2階に上がる階段があった。



「追いかけてみよっか。なんかあるかもしれないし」


「かしこまりました!あ、あとリュシオル様……」


「なに?」


「さっきから耳元で、聞き覚えのない声で“貴殿こそこの剣に……”と聞こえるのですが……」


「幻聴じゃね?」


「幻聴ですかね」



 なるほど、一応魔力のないルズのためにプレゼントって形で渡したわけだし、今さら文句を言う気もないけど、なるほど。

 

 聖剣アポロ自身もルズを選んだわけね。ボクを差し置いて。いや、ボクもルズにピッタリだと思ってくれてやったんだから別にいいけどね?いいけどね?


 ……


 一旦遮断防壁切ろっと。


 おい


(ん?なんだ魔術師よ)


 ボケがーーーーーーーーーーーーー!!!!!!

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