第5話『れっつごー!』
「で、なんでこんなに混んでるんだよーーーーー!!」
稀代の天才魔術師にしてS級冒険者であるボク、リュシオル=エンバーズグローと、その子分であるルズ=エストレイヤ(こいつも一応S級)は今、馬車に乗っていた。
そう、馬車。この世で徒歩の次にローテクで不便な移動方法。
遅いし揺れるし、金はかかるし──何より、渋滞に巻き込まれるのが最悪!
現在地点は目的地と街のちょうど半分くらいの場所。
ボクらの乗った場所の前方には、同じような馬車や荷物運びの台車がずらりと並んでいた。もう1時間はロクに進んでいない。
「しょうがねーでしょお客さん。もうすぐ祭りなんで、運搬やらで王都の出入りも激しいんでさぁ」
御者は振り向いて、面倒くさそうに言った。
クソ!だから馬車は嫌なんだよ……周りの都合に左右されて移動するなんて、このボクにふさわしくない!
「俺はリュシオル様とゆっくりお話しできて嬉しいですよ」
「黙れアホキラキラ!」
「これは手厳しい。そう言ったところも、大魔術師の風格を感じます」
同乗者のルズはというと、こんなタラタラと進む馬車の中でも上機嫌であれこれ話しかけてくる。
こっちはイライラしてるってのにヘラヘラするのはやめて欲しい。だいたい、ボクは人前で笑ってる人間ってのが嫌いだ。
相手が嫌な気分だったり、落ち込んでいたりする時にそんなやつを目にしたらどんな気分になるか、配慮ってやつが足りない。バカなんだと思う。
我慢できずに親指の爪を噛む。ガリ、という音がして爪の白いとこが取れた。
と、色々考えている間にも馬車は進まず、だ。
あーーーー!!もーーーー!!!
「だいったい!なんで馬車なんだよ!」
「えっと、先ほどの受付嬢によると、どうせ道に迷うから、とのことでしたね」
いやまぁ、迷うけど。絶対。
「にしたって馬車はないだろ馬車は!もうやだぁ……すっとろくてイライラする……アルミのクソ女……飛空挺くらい手配しろよ……」
さっきも同じこと言ったんだけど「いやー、流石にそこまで一個のパーティーに予算かけられませんよ」とのことだ。
ボケが。このボクのパーティーだぞ??
「あはは。まぁ、そこには同意します」
「あ?そこってどこだよ」
「あのアルミという受付嬢……リュシオル様に無礼なことばかり……あそこがギルドでなければ、いっそ斬り捨ててしまおうかと」
ルズはそう言って、かちゃり、と剣に手をかける。
……。
はい?
「いや、オマエ何言って……」
「あ、いえいえ!冗談ですよ!場を和ませようと」
ルズはハッとしたような顔で剣から手を離し、顔の前でブンブン振る。困ったような笑顔は、通常運転のキラキラ野郎って感じだ。
いや。
いやいやいや。
冗談じゃなかったよね?
絶対本気だったけど?
めちゃくちゃ殺気漏れてたけど?
なんだろう、こいつ、ただのキラキラ野郎ではないかもしれない。めちゃやばキラキラ野郎かも……
「それよりリュシオル様!遺跡の調査というのは、具体的には何の調査なのですか?」
「それより」じゃないが?
こちとらお前のせいで色々考え込んでたんだが?
「お前、それよりって何?どんな立場で勝手に話の優先順位決めてんの?」
「も、申し訳ありません!決してリュシオル様を軽んじるつもりは!大変失礼いたしました!!」
うーむ。素直だ。そしてアホだ。
やっぱりさっきの殺気(爆笑)は気のせいだったのか……?
うーん、まぁいっか!ルズが多少ヤバくても僕の魔法があれば誰にも負けないし!寝首かかれそうになったら逆に倒しちゃえばいい!
え、ていうかそれめっちゃかっこよくない?自分の命を狙うA級の剣士を返り討ちにするボク……
いいねいいね!それなら絶対みんなにすごいって言われる!『黄金の夜明け』の三馬鹿だってボクを賞賛しにわざわざ出向いてくるかもしれない!
よし!ルズ!
いつでも寝首かいてこい!ばっちこい!
っと……まぁそれはいつになるかわからないから一旦置いておくとして、そうだそうだ、遺跡調査の詳細だった。
「オマエ、ちゃんと依頼書読んでなかったのかよ」
「お恥ずかしい……」
「たく、ほら、これ」
ボクは自分のバックの中に2人分押し込んでいた依頼書の写しを取り出した。
あれ?これボクが2人分持ってたから読んでないんじゃ……ま、いっか。
依頼書の内容は、こうだ。
◆◆◆
【クエスト依頼】
⚫︎依頼:ソル王国北東『ミダース遺跡』の調査及び行方不明者の捜索
⚫︎等級:A
⚫︎報酬:20,000,000ルクス
⚫︎資格:複数のA級以上の冒険者で構成されたパーティーであること
⚫︎経緯:
ミダース遺跡近辺での住民行方不明および、奇妙な光の目撃証言多数。
はじめに近辺を巡査する辺境騎士団員が行われるも、通信が途絶し、全員が住民同様に行方不明になっていることが発覚。
王都より調査隊が派遣されるも、帰還せず。第2、第3調査隊も同様。
最終的に宮廷魔術師1名と国防騎士団から小隊長5名によって構成された特別部隊を派遣したが、魔術師からの遠隔魔術による通信を最後にやはり帰還せず、一切の通信が絶たれたため、冒険者ギルドに委任された。
付記:魔術師の最後の通信には、「黄金」「宝石」「蛇」と言った単語が頻出するため、遺跡内にそれらの財宝が存在する可能性が高い。
◆◆◆
「なるほど……」
「ま、要するに国の手に負えなくなったから死んでも金で済む冒険者に丸投げしてきたってこと!国からの依頼なんだからもっとサポートしてくれてもいいのにさ!ソル王国の官僚はケチくさだね」
ボクがぼやくと、御者がこちらを振り向いて「お口チャック」のジェスチャーをする。ビビリめ。
「まぁ、国王はともかく、その臣下はあまり冒険者を重く見てはいませんからね」
「そうそう!王様はさー、立派な人なんだけどね」
なんせボクをS級に認定してくれたのは他でもない王様なのだ。ボクを認めてくれる人は立派に決まってる。
「ですが、どんなクエストであれ、リュシオル様の道を阻むものではないですよね!むしろ、これこそリュシオル様にふさわしいクエストだと、俺はそう思います!俺も未熟ながら、全力で助力させていただきますね!」
うーん。コイツを立派と認めるのは癪だからやっぱ前言撤回かも。
……にしても。
「まだ渋滞終わらないわけ!?」
依頼書を読み込んでいる間に少しは進むかと思ったのに、全然進んでいない!なんの時間なんだよこれは!!
「いや、多少は進んでますぜ?ほら、窓の外にある木……さっきと違うでしょ?」
「んなもん区別つくかボケ!!」
「うるせーお客さんですね。言っときますけど多分着くのは日暮れですからね?」
「(絶句)」
日暮れ……日暮まで馬車の中……?
「えーー!やだやだ腰痛い背中痛いつまんないーーーーーーー!!だいたい、前の馬車がどっか行けば……あ!」
そっか!どかせばいいのか!
「ぬふ。ぬっふっふ〜!そうだよ!簡単なことじゃんか!」
「リュシオル様、いかがいたしました?」
「お客さん?」
ボクとしたことが、自分が誰なのか忘れていたようだ。
そう!ボクは!天才魔術師リュシオル=エンバーズグロー!!
足元に置いてあった杖を拾い、外に向けてひとふりする。
「──【浮かべ】!!」
ゴゴ
ゴゴゴ
「え!?何だこれ」
「ちょ、キャーーー!」
「浮いてる!浮いてる浮いてる!」
間抜けな悲鳴に合わせて、前方の馬車がふわふわと浮いていく。あっという前に道はスッキリ!
「えっと、お客さん?」
「どう?魔法で他の馬車を浮かせてみたんだ!これですぐ行けるでしょ!ほら!ゴーゴー!行っちゃって!」
「な、なんて勝手なことを「素晴らしいですリュシオル様!!あれほどの量の馬車を一斉に!」
御者がごちゃごちゃいうのを遮って、ルズがボクの手を握り、ブンブン振り回してくる。やめれボケ。
「いや、大事な荷物とかが落ちたら」
遮られた御者は御者で、諦め悪く文句を垂れてきてるが、ふふん、もちろんボクだってそこは気を使った。え?ヤバくない?渋滞起こしてたバカどもに気を使うボク聖人すぎ……
「ふふん、大丈夫。馬車にかかる重力を固定してるから、浮いていても中の状態は地上にいる時と変わらないよ」
「そ、そんなことまで……さすがルズ様」
「けどよ、浮きっぱなしじゃ……」
「ふふふんふん。そこも大丈夫に決まってるでしょ?アホなの?トーゼン時間経過でゆっくり降りてくからご安心を!」
「だからって「さすがルズ様!」もういいよ……疲れる」
ようやく物分かりの悪い御者も諦めたようだ。
さてさて、というわけで
「ミダース遺跡に向けて、全力前進ーーー!!」
「前進です!!」
「あんたら……この仕事が終わったら2度と乗せないからなーーーーーーーーーー!!!!!!」
な、なぜ……
★目的地 :『ミダース遺跡』
★目標 : 遺跡調査と行方不明になった人々の捜索
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