第4話『まぁいいか!よろしくね!!』

「はぁ!?クエスト受けられないってどーゆーことなわけぇ!?」


 無事、森を脱出したS級冒険者で超絶つよつよ天才魔術師のリュシオル=エンバーズグローくん。つまりボクであるが、ただいま新たな問題に直面していた。


 ひとつ、森で出会ったキラキラ野郎こと、S級冒険者ルズ=エストレイヤがずっとついてくる。ウザい。


「リュシオル様、あまり大声を出されては喉を痛めてしまうのでは……」

 

 おい、そっと肩に手を寄せるな。


「黙れボケ!ゲホッゲホ……と、とにかく!なんでボクが依頼を受けられないんだよ!」


 そしてふたつ目。ギルドの受付が「リュシオルさんは現在クエスト受注が出来かねます」とかほざいて来やがったのだ。


 ざっけんなボケーーーーーーーーーーーー!!


 まず出来かねますってなんだ辺な敬語使いやがって!出来ませんでいいだろ別に!!


 っと、……それは置いておくにしても、流石に困る。理不尽だ。冒険者にとってクエストの受注は収入の大半を占める。もちろんダンジョン攻略で生計を立てるものもいるが、早い者勝ちだし、ダンジョンのお宝にも当たり外れがあって安定しない。


 だから、クエストを取れないというのはまさに死活問題……というか死だ。ドストレートに。


 いやまぁ?ボクくらいになると普段クリアしてるクエストの規模も全然違うから貯蓄だけでも食ってけるけどね?


 でもでも、でもだ!黄金の夜明けの三馬鹿を見返してやるためにも、早いところ出来るだけスーパーでデンジャラスなクエストをクリアしておきたい。


 リュシオル様すごーい!と世間に知らしめなくてはいけないのだ。


「ですからね、リュシオルさん」


 受付嬢のアルミは、似合わないピンクの髪を揺らして諭すように言う。偉そうに。


「なに?」


「基本的にうちのギルドでは、個人ではCランク以上のクエストは受けられないんですどんなに強くても」


それは知ってる。


「で、今日は月末というのもあってCランクくらいのクエストはもう埋まっちゃってるか、来月に回ってるんですよ」


 それも知ってる。


「ですからクエストは受けられません、と。理解できてます?」


知るかーーーー!!いや知ってるけど納得は別!!


「前から思ってたけどその規定なんなのマジで!?意味なくない!?」


「1人で突っ走って亡くなる冒険者を減らすためです。昔はそういう事故も多かったんですよ。もう遺族への補填金がえーらいこっちゃで」


「いや!大丈夫に決まってるじゃん!ボクが死ぬと思ってるわけ!?」


「まぁアンタ…こほん、リュシオルさんでしたらその心配はないでしょうが、規定は規定なので」


「今アンタって言おうとしなかった!?」


「えー、気のせいじゃないですか?」


「このカス……」


「アンタにだけは言われたくないわよ。おっと」


「おい!!」


「ま、とにかくクエストが受けたかったら新しいパーティーメンバーを探してください。そしたらB級でもA級でも急を要する奴がたくさんありますとも」


「今からメンバーを見つけろって?このボクに?一緒にパーティー組まないって周りの雑魚冒険者どもに頼んで回れって!?」


「まぁそうなりますね〜。ていうか……ぷぷ、実力不足以外でパーティーを追放された人なんて、ここで働き始めてから見たことないですよ!しっかも『性格が悪すぎて』って!だははは!いやぁ、ある意味快挙ですね!」


「オマエいまここで雷魔法撃ってもいいんだからなコノヤローーーーーー!!!」


「やってみればぁ?そんなことしたら二度とクエスト受けられないどころか、ギルドも出来んですけどね〜」


「ボケーーーーーーーー!!」


「キレすぎて人語忘れてんじゃん」


忘れてないわボケ!ウッキー!


「あの、リュシオル様……差し出がましいようですが、俺から提案が」


「提案?」


 見かねたようにルズが口を開いた。少し気まずそうな顔をしていて、なんか哀れまれてそうでムカつく。いや、憐れんでるなこれは。哀れんでるに決定。ボケが。


「俺とパーティーを組む、というのはどうでしょう?」


「は?」


「ですから、俺とパーティーを組めば、当面の問題は解決するのではないかな、と」


 なるほど、一理ある。


 え、どうしよ。絶対やだ。


「あ!いいじゃないですか!なんせあの人格者として有名な『輝ける星』ルズ=エストレイヤさんでしょう?同じS級同士ですし!リュシオルさんのそのねじくれた性根も一緒にいるうちに少しはマシになるんじゃないですか?」


 ボケがーーーーーーーーーーー!!!!!!!


 アルミが今年度癪に触る言葉ランキング1位みたいな事をほざいてきて、頭から湯気が上がる。いやほんとに上がってはないけどね?そのくらいっていう比喩で。


「オマエ流石に失礼すぎない?ボクの性格のどこに直すところがあるわけ?」


「え、カスじゃん」


「やっぱ撃つわ。【とどろ──」


「りゅ、リュシオル様!お待ちください!」


「んだよキラキラ野郎!言っとくけどボクはお前と組む気なんてないからな!」


「はい!あの、そのことなんですが……すみません、俺の言い方に語弊がありました。語弊というか、失礼というか」


「は?」


「その、先ほどの言い方だとリュシオル様に対して俺が助け舟を出しているような物言いになってしまって……本来であれば、俺が礼を尽くしてパーティーに入れて下さいと懇願するべきでした」


「ん?」


 ん?


 どゆこと?


「リュシオル様ほどのお方とオレが、いくら同じS級だからと言って釣り合うはずもありません。S級冒険者と一口に言ってもその強さには明確に序列がある。そしてあなたはその頂点!正直に言ってしまうと、以前からあなたとは一緒に戦ってみたいと思っていたんです。ですからこれ幸いとばかりについ、先走ってしまいました」


 ふむ。


 ふむふむ。


 ルズは、頭を下げた後、その場に跪く。そしてボクの手をそっと握った。相変わらず全然不快じゃない。ムカつく。ムカつく、けど……


「リュシオル様、俺とパーティーを組んではいただけないでしょうか?力不足かとは思いますが、どうか、あなたのお役に立たせてください」



 ふーーーーーーん


 へーーーーーーー


 わっかってんじゃぁーーーーーーーーーん!


 そう!その通り!


 確かに冒険者の中には、S級に分類されるやつはボクも合わせて5人!


 だ・け・ど!その中でもさらに特別なのがボク、天才魔術師リュシオルくんなのだ!


 なるほどなるほど、そこをしっかり理解しているとはねぇ〜。


 ま、そこまで言われたら断っちゃうのもかわいそうかなぁ?最初からそう言ってれば、もうちょっとボクも話を聞いてやったのにぃ〜


「そっかぁ?ま、組んであげてもいいけど?」


 やべ、また声が上擦っちゃった。

 べ、べつに嬉しくなっちゃったりなんかしてないんだからな!(2回目)


 あ、でも


「言っとくけど、パーティーって言っても対等じゃないからな?ボクがリーダー!オマエが子分!なんか文句ある?」


 そう、やっぱりその辺はしっかりしとかないと。

 前のパーティーは誘われて入ったからすでにリーダーがいたけど、そもそもボクが人の下につくなんておかしいんだ!


 それにリーダーなら追放されることもないし……ごにょごにょ……


 と、とは言いえ、流石に初っ端にかましすぎた?どうしよ、もし「じゃぁいいです」とか言われたら…えーん!そんなのボクがかわいそすぎ


「はい。あなたの棋士として、従者として、身命を賭してお仕えいたします」


ぐ。


ぐぬぬ。


なんだこいつ。素直すぎるぞ。ウザ。いや、怖。



「えーと、話まとまりました?」



 アルミがこっちを怪訝そうに見てくる。

 

 いやいや、確かにルズはいいやつっぽいけど、鼻につくキラキラ野郎で、性格がいいからってみんなに愛されているずるっこ野郎で……



「ふふ……リュシオル様のお側で戦えるなんて、騎士として光栄の至りですね」

「ま、いっか!よろしねぇ!!」



まとまりました。



「了解でーす」



おい、了解ですっていうな。承知しましたって言え。



「ではでは、パーティーの名前を決めてもらえます?あとで変えられるんで、『ああああああ』とかでもいいですよ?」



誰がするかボケ。


ルズの方を向くと、にこやかに笑って「お好きにどうぞ」のポーズをしてくる。じゃぁ勝手に決めるか。


うーん……そしたら『黄金の夜明け』への当て擦りで……。



「『白銀の月』、とか?」

「はい!ではでは早速『白銀の月』のお2人に、A級のクエストをご紹介〜〜!」



 アルミはそう言って、後ろの棚から大きな紙を1枚取り出した。依頼の概要説明書だ。



「遺跡調査なんて、いかがですかね?」



お、悪くないね。天才魔術師っぽい。



「おっけ。受けるよ。で、場所は?」

「ここから山3つ隔てて森1個抜けたあたりですね」



訂正。ボケが。

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