第3話『嫌いなヤツだった!』
ルズ……ルズ……ルズ……どこかで聞いたことがあるような……
頭の中で同じ名前を反芻する。数秒経って、ボクも優秀な脳みそはピカッと閃いた。
「オマエ『輝ける星』ルズ=エストレイヤかーーーーーーーーー!!!!!」
「わーーーーー!!知っててくださったんですね!!!」
「知ってるわボケ!!言っとくけどな!ボクはオマエみたいなキラキラ野郎、大っ嫌いだからな!!!」
「え!?!?!?!?」
ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。
そうだ、知らないわけがない。
ルズといえば、19歳のくせに(ボクより遅いとはいえ)Sランクになった剣技の天才!その剣筋はまるで星がきらめくが如く!
しかも性格も良くて礼儀正しく顔もいい、誰からも好かれる人気者!
人呼んで『輝ける星』ルズ=エストレイヤ!
実際会ったことはなかったけど、噂だけはよく聞いている。そりゃぁもう、イヤっていうほど聞いている。イヤーーーー!
そして、実際に会ってみても、なんだかちょこちょこ残念だけど、ほぼほぼ噂通りのつよつよイケメンだった。
なんか爽やかだし、なんか声もいいし、髪も目もキラッキラだし……
ぐぬぬ。
ぐぬぬ〜〜〜!!
「あ、あのリュシオル様……キラキラ野郎とは……お、俺は何か嫌われるようなことをしてしまったでしょうか……」
「うっさい!こっちの話!」
「そうでしたか。余計な詮索を失礼いたしました」
しかも謎に素直だし!
あ〜〜〜〜〜!!ムカつく!!!
何がムカつくって、酒場でも宿でも、コイツの噂を聞かない日はないってことだ。ボクだって同じS級で、最強無敵のつよつよ魔術師なのに自分の噂なんて聞いたことがない。
おかしいだろ。めちゃくちゃいろんなダンジョン攻略して色んなクエスト解決してるんだぞこっちは。しかも、魔法開発だってしてる!自慢じゃないが王都のインフラに使われてる魔法の3割はボクが作ったやつだからな?
おそらくだが、こいつは強いだけじゃなく性格がいいので評価にバフがかかってる。そのせいでボクの功績がみんなから隠れてしまってるのだ。
つまりこいつは、言ってみればボクの怨敵とも言える。
大体!こういうヤツは自分が大事にされて当たり前みたいに思ってるのがお決まりなんだ!
生まれた時から要領が良くて、誰からも愛されて、チヤホヤされながら、いい感じに努力して、いい感じに挫折して、いい感じに立ち上がってさぁ!
そんでなんかいい感じにヒネることもなく健全健康に生きてきたに決まっている!
何に怯えることもなく、何に焦ることもなく、ましてや普通にしてただけなのに、なんかいつの間にか嫌われて怒られてパーティーを追放されることもなく!
……
あーーー!!うっざぁーーーーーー!!!ずるいだろそんなの!!
いいヤツなくらいでみんなから愛されて努力も報われて正しく評価されるなんて絶対理不尽だ!!
「えっと、どうされたんでしょうか?先ほどから御身体がワナワナと震えていらっしゃいますが……」
「あー、どうしてだろうねー?どうしてだと思う?」
「もしや……俺はまた何か無作法でも……」
「うっさいバーーーカ!!まず自分の落ち度を疑ってんじゃねーーーー!!」
こんな時まで人格に出来を見せつけてきやがって!嫌味か!?
トボケたような表情でも、全然イケメンが健在なのがなおムカつく。ボケが。アホが。キラキラが。
「っち。もう行く!着いてくんなよ!」
ボクはキラキラ野郎ことルズに背を向けて歩き出す。さっさとこの場を離れないとウザさで脳みそが沸騰しそうだ。
「あ、あのリュシオル様?一体どちらに……」
ズンズン歩いて行くボクを、ルズが後ろから引き止める。うっさい。お前の言葉なんか絶対耳を貸さないからな。
とりあえずさっさと森を出て、街で新しいクエストを受注しよう。出来るだけデカいクエストがいい。
で、ボクを追放した『黄金の夜明け』の三馬鹿に戻ってきてくれと土下座させてやるのだ。
「あの、リュシオル様!」
ふふん、想像したらなんか気分が良くなってきたぞ!そうだな、最初は当然「あんなふうに追放しておいて今更虫がよすぎない?」だ。
「あの」
それで、多分あいつらは泣きながら「あの時はオレたちがバカだったんだ!」と言ってくるはずだから、全員靴を舐めるなら、特別にパーティーに戻ってやってもいい。
「あの、お待ちください!」
あ、でも戻った後はしばらくは「リュシオルさん」って呼ばせないとな。それが誠意ってものだ。まぁボクは優しいから、機嫌次第では前みたいに呼び捨てを許可することもやぶさかでは……
「リューシーオールーさーまー!偉大なる大魔術師リュシオルさまーーー!!」
「あーーーーー!うるっさいわボケが!!聞こえてるに決まってんだろ!!」
少しづつデカくなるルズの声に、ボクは反射的にブチギレてしまった。くそっ!無視するって決めてたのに。
「あの、リュシオル様、今どちらに向かわれていらっしゃるのでしょう?」
「ああ?そんなの街に決まってるでしょ?こんな森の中にいつまでもいたって……」
「あ、それでしたら……」
「なに!?」
歯切れの悪い物言いに、思わず言い方が強くなる。いやでもこれボク悪くないよな?
「なんか言いたいことがあるならさっさと言ってよ」
「その……森の出口、こっちです」
ルズが指差した先は、ボクの進む方向とは真逆だった。
ぐぬぬ〜〜〜!!
知ってたわそんくらい〜〜〜〜〜!!(知らない)
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