ミダース遺跡編
第6話『キラキラ!』
「到着したぜ。ここがミダース遺跡だ」
やっと着いたーーーーー!!!!
ミダース遺跡に着いたのは、だいたい昼過ぎくらいだった。うんうん。やっぱりボクの魔法で道を開けたのは正解だったね。
うーん、でも全身バキバキ!やっぱ馬車はダメだわ!さっさと馬車から飛び降りると、さっそく遺跡が見えた。
おそらく古代の宮殿か城なのだろう。王都でもここまでの規模の建物にはなかなかお目にかかれない。うーん、いいね!調査しがいがある!
「じゃ、じゃぁおれはここで!お客さんたち、あとは頑張ってな!」
気合いを入れながら屈伸していると、御者が少し怯えた声で言った。
「え?もう帰るの?」
「あたりまだろ。おれはあくまで、あんたたちの送迎を頼まれただけなんだから
「ふーん、別にいいけど、なんか焦ってない?」
「焦りもしますよ。ここで何人も行方不明になってるんですぜ?おれが送ったやつらも誰1人帰ってこなかった」
あ、なるほど。
「ビビってるわけね。だっさー」
「ダサくて結構だよ。別におれは冒険者でもねぇしな。ま、あんたらもせいぜい気をつけるこったな」
そういうと御者は、そそくさと帰って行った。帰りはちゃんと迎えにこいよ〜
あ、ところで〜
「だってさ、ちなみにオマエはどうなの?不安だったりする?キラキラくん」
せっかくなので、ルズにも振っやった。もしビビってるって言ったら笑ってや……
「え?リュシオル様がいらっしゃるのになぜ不安を感じる必要があるのですか?」
うぐ。
こいつ、こいつホントこういうことをサラッと……マジで嫌い!信用されてるのは嬉しいけどそれはそれとしてなんかムカつく!
ていうか!勝手に安心されても困るんだけど!?
「言っとくけど自分の身は自分で守れよな?ボクは最低限しかサポートしないぞ?」
「当然です。リュシオル様のお手を俺がわずらわせるなんて、あってはならないことですから」
「オマエに何かあっても置いてくから」
「承知しました。その時は出来るだけ迅速に問題を解決し、リュシオル様に追いつかせていただきます」
「お、お前が死んでも怪我しても心配したり悲しんだりしないからな!」
「はい、リュシオル様は俺なんかに煩わされることなく、お心のままに動き、お力を奮ってください」
「言われなくってもそうするっての!ばーーーか!!」
あーーー!嫌味が通じない!なんなんだこいつは、ボクが何言っても嬉しそうにしやがって!!
今の問答全部「にぱぁ」って感じの満面の笑みだったぞ!?正気か!?わざととは言え、結構酷いこと言ってなかったっけ、ボク?
そんな……なんでもかんでも全肯定みたいな……
そんな態度ばっか取られると、好かれてるって、大事に思われてるって、勘違いするじゃん……
じゃん……
ん?
は?
いまボク何考えた?
うわーーーーー!!ナシナシ!!そんなダサいことボクが考えるか!!!
ボクは天才魔術師リュシオル=エンバーズグロー!寂しいとか大事にされて嬉しいとか絶対にありえない!!ゆ!!!
「あの、リュシオル様?」
「黙れボケ!さっさと行くからね!」
「はい!」
うわ!また絶妙なタイミングで声かけてきたし……!しかも逆ギレしたのに返事がいいし……!うっざうっざうっざぁ!!
もういい。知らん。全部こいつが悪い!
こいつがアホでバカ素直でリュシオル様リュシオル様うるさいのがぜーんぶ悪い!!はい終わり!
とりあえず今はクエストに集中しよう。余計なことを考えないためには余計なことを考えるリソースを頭の中から無くすのが1番なんだ!
とにかく今は遺跡!遺跡に入ろう!
ボクは初めて会った森の中と同じく、わざとらしくずんずん歩いて行く。ルズはそれに合わせるようにして歩幅を早める。
「リュシオル様」
「なに?」
ま、あの時と違って……無視はしないでやるけど!ボクは優しいから!特別に!
「楽しみですね」
「……まあね」
ふん。何を言い出すかと思ったら……
まぁ、そこは同意してやろう。
確かに、ワクワクはする。何人も行方不明になっているっていう遺跡だ。辺境騎士団も特別調査隊も、宮廷魔術師ですらなすすべもなかったという遺跡だ。
いったい何が起こるのか。いったい何が原因なのか。
知りたいし、知った上で、見事に解決してやりたい。どんな秘境魔境よりも、ボクの魔法の方がずっと深淵で偉大だって証明したい。
冒険者になった理由の半分は、それだと思う。
もう半分は普通の仕事だとすぐ周りと揉めるからだけど。あと半日遅刻したくらいで怒られるのもウザいし。
だから、ここがどんなところだろうが、ボクにとっては栄光の序章に過ぎない。この天才魔術師リュシオル=エンバーズグローの……
「リュシオル様!リュシオル様!すごいですよ!」
「あーーーーーーー!人が真面目なこと考えてる時に邪魔すんなーーーーーーー!!!」
「申し訳ありませんーーーーーーーー!!!!」
「うるっせぇーーーーーーー!!!で!?なんなんだよ!!!なにがすご……って、すごいね……これは確かに」
「ええ、俺も驚きました」
キレるのも忘れて、思わず息が漏れた。
ミダース遺跡は、その内側の全てが黄金でできていたのだ。
豪奢な食卓も、ところどころ穴の空いた天井も、落ちてひしゃげたシャンデリアも、部屋の隅で倒れている彫像も、その全てが、うすぐらいなかでキラキラと煌めいている。
黄金郷。そんな言葉が浮かんだ。
「え、これ純金なのかな?」
「どうでしょう……。これほどの大きさとなると流石にそれは……それに金は柔らかいですし」
「だよね……ちょっと見てみるか」
壁に近づくと、軽く手で触れてみる。
「──【語れ】」
うむうむ。
うーん、しっかり純金だわこれ……
「リュシオル様、今のは…」
「ん?ただの解析魔法だけど?素材とかがざっくりわかるの。外側は石だけど、なかは全部純金だったわ、この遺跡」
「今の一瞬で全てを解析したんですか!?素晴らしい……当たり前のことを言ってしまいますが、やはりリュシオルは天才ですね」
「本当に当たり前のことだなおい」
ま、その当たり前のことを理解できてるってのはえらいけどね?ふふーん、もっと褒めてもいいぞ。
っと、それはそれとして……。
え?やばくない?この規模の建物が全部黄金!?
それに……わずかに魔力反応を感じる。おそらく後から金に置き換えたんだろう。でも、この規模を??いや、まぁボクなら出来るけど……
マジな話、この遺跡の一部を適当に持ち出すだけでも普通の生活なら一生食っていけるんじゃないだろうか?
こりゃぁ、兵士や魔術師を何人失ってでも、なんとか調査したいと思うはずだ。財宝の可能性があるも何も、この遺跡が財宝じゃんか。
いや……知ってたら流石に依頼書に書くはずだから、この情報は王国に行ってない?外観以外も情報は伝わっていないのか?
「うーん、それにしても薄暗くてわかりにくいな──【灯せ】」
とりあえず明るくしよう。低音の擬似太陽を作って、空中に浮かべる。ぼんやりとしていた遺跡の全体像が、徐々に明らかになった。
え?
なに、これ?
擬似太陽の光を反射してキラキラ光る遺跡の中には、さっきざっと見て思った以上に大量の黄金像が倒れている。
しかも、その全てがもがいて逃げ出すような奇妙なポーズをしていた。
「趣味が悪いな……なんだってこんな……いや、まさか……」
ふと頭の中に、一つの可能性がよぎる。それを確かめるためにも一歩踏み出そうとすると、足がガコンと何かに当たった。くそ!
「いったぁ!!!なに!?邪魔なんだけ……いや、いいや」
うっかり蹴ったのは、両手で何かを必死で握りしめ、恐怖顔を歪めた黄金像だった──いや、おそらく彫像ではない。ボクはそっとそれに手を触れる。
「──【語れ】」
解析してみれば、やはりボクの予測は当たっていた。
「リュシオル様……この象は……まさか……」
「うん。これ、人間だ」
それは、魔術によって黄金に変えられた人間の成れの果てだった。
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