第7話『モンスター出現!』

「魔術で黄金化した人間……ですか」


「ああ。間違いない」



 よく当たりを見渡してみれば、ソル王国の甲冑を纏った兵士の黄金像もちらほらいる。というか黄金化されて全滅かよ!根性ないな。



「ということは、この遺跡には魔術師が?」


「アホキラキラ。そうとも限らないよ。モンスターの中にもこのくらいの魔術を使う種はいる」


「そうなのですか?」



 お?これはもしやマウントチャンス?

 よーし、モノを知らないルズくんに、このリュシオル先生が一つ授業と行きますか!



「そもそもモンスターってのは、生まれつき練習や修行なしで固有魔法を使える生物の総称だからね。

 ボクが瞬殺したベヒーモスだって、【大地に属する全ての魔法攻撃を無効化する魔法】を持ってるんだぜ?」


「あの獣にそんなすごい力が……なるほど、それで地に属さない、雷魔法で倒していたのですね!」



 むむっ。

 名推理だけどボクの前でベヒーモスなんかを褒めるのはいただけないな。



「ま、ボクも同じ魔法使えるけど!倒したモンスターの魔法は解析して覚えることにしてるんで!」


「さすがリュシオル様です!モンスターの力まで使いこなしているとは、もはや神の領域ですね!」



 ふんふん。そーだろそーだろ。褒めろ褒めろ。



「まぁ、このくらい一般常識っていうか?冒険者やるならモンスターのことはある程度知っとかなきゃねー」


「おっしゃる通りですね……自分の無知を恥じるばかりです」


「うんうん!頑張りなよ!」


 うーん。気分がいい。やっぱりアホ相手にマウントを取るのって最高!



「ですがとなると……なおさら敵が何もなのかわからなくなってしまいますね……」


「まぁ自動発動の呪いで術者は死んでるパターンもあるしね……」


「うーむ……奥が深い」


「ま、魔法は奥が深いけど、この件に関しては簡単だよ。聴きゃいいじゃん?」


「聞く、ですか?一体誰に……」


「アホ。これだよこれ」



 首を傾げるルズに、ボクは足元のものをチョンチョン蹴って示してやる。そう、黄金化した人間、張本人医に聞くのが1番手っ取り早い!



「し、しかし黄金化してしまっていては……」


「ふふーん!それも簡単!戻せばいーじゃん!


「戻せるのですか!?いえ……愚問でしたね」


「まぁねー。魔法ってのはさ、人間のものだろうとモンスターのものだろうと、必ずなんらかの構造式で成り立ってる。それを分析すれば、解除できるってわけ。ってわけで──術式解除」


 杖を振って、かるーく魔力を流し込む。うん。簡単な式でよかった。


 あっという間に、さっきまで黄金だったら人間は、元の生きた人間に戻った。


 うーん。黄金だった時はわかんなかったけど、みすぼらしい中年男だな……。男は相変わらず両手を強く握ったまま、辺りを見回す。


「は!?あ、あの化け物は!?」


 おおう。開口一番有益情報。

 つまり犯人はモンスターか。


「おはよ。あんた、調査隊の人?」


「調査隊……?ワシはこの遺跡の近くの村から来たもんだが……あ、いや、それよりさっさと逃げんと!やつが、奴が来る!」



 ふむふむ。つまり遺跡の近隣住民。そして何者かに襲われた、と。



「あ、あんた達も逃げたほうがいいぜ!じゃぁな」

「あ!ちょっと!」


 え??なに走り去ろうとしてんの!?

 まだ質問は終わってないんだけど!?誰のおかげで戻れたと……


「いやー、助かっ、て、え?」


「申し訳ありません。リュシオル様があなたのお話を聞きたいそうなので、もう少し待っていただけないでしょうか?」


 オッサンの体が、電撃が走ったようにビシッと伸びる。

 よく見ると、ルズがオッサンの首根っこをガッチリ掴んでいた。なんかやっぱコイツちょくちょく怖いな……。


 オッサンも戸惑ってるし。それはまぁいいか、別に。



「え、いや、ワシは……」


「お願いします」


「はい」



 お、オッサン諦めたか。ビビりめ。

 まぁその方が都合がいい。

 ……しっかし大の大人が小動物みたいにフルフル震えて……その、クソウケる。



 っと。まぁ笑うのは後でいいや。とりあえずさっさと情報を聞き出そう。


「ここで何があったの?アイツって何者?簡潔に答えてね」


「あ、えあ、あの」


 簡潔に答えろっつったろ。


「簡潔に、ですよ」


「はい。遺跡の中で探しものをしていたらバケモノに襲われました」



 お、ルズったらナイスアシスト。簡潔で素晴らしいね。……あーでもルズを褒めるのムカつくから今のやっぱ無しで。



「それで、そのバケモノってどんな姿してたわけ?具体的にはオマエはどうやって黄金にされたの?」


「え、えっと……簡潔に、だよな……その、でもわからねぇんだ。ワシがここから出ようとした時……頭の上にでっかい蛇が姿が見えて、一緒に来てた奴らも黄金になってて!それで気がついたら目の前が真っ白に……」


 蛇……蛇か……。

 ひとつ、思い浮かぶモンスターがいる。でもなぁ……あれは確か黄金じゃなくて、人を石にするんじゃ……


「うーん、でも違うとなると……」


「そもそもあなたはなんでこの遺跡に入ったんですか?」


 ボクが考えている横で、ルズが質問……ほぼ尋問だな、尋問を続けている。


「え、いやそれは……」


「?どうしたんですか?口ごもって……」


 声が優しいから余計に怖いな。なんなんだこいつ。……まぁいいや。うーん……でもやっぱり蛇で人を無機物に変えるって言ったらなぁ……うーん、でも根拠が……


「そ、その、行方不明になった妻をさがしに!そう!妻を探しに来たんだよ!」


「……ウソをついてません?」


「いやいや!そんな……と、とにかくここはヤバいからさっさと……あっ」


 急に男の声が怯えたものになる。ん?どうした?ついにルズのやつなんかやった?


 ずる。


 ん?


 ずるるっ。


 この音……。


 直後、背後から雲が晴れたような激しい光がさす。擬似太陽の灯よりも、さらに鮮烈だ。


「ひ、ひぃいい!きた!あいつが来た!わ、悪かった!返す!返すから!!」


 オッサンは意味不明なことを言いながら、ずっと強く握っていた手を離す。きん、と高い音を立てて真っ赤な宝石が地面に落ちた。


「あ、いや、いやだ、たすっ、たすけっ」


 パキパキとオッサンの皮膚が黄金に変わっていく。頭の上で、ずるずると音が響く。あーあ、せっかく戻したのに。まぁまた戻せばいっか。


「あー、やっぱりね。キラキラくん、まだ振り返るなよ?」


「……はい」


 ボクの予想が正しければ、の目を見るのはまずい。一瞬でもそいつを見れば、全滅が確定する。だから、目を瞑って戦うしかない。


 ……ま、普通の冒険者ならね。


 さっきオッサンを元に戻す時に読みとった構造式から、黄金化魔術への防護術式を構築。自分の肉体に付与。

 

 ふわん。


 よしよし、これでだいじょーぶ。体の周りに張られた、薄い魔力の膜が黄金化の魔法を中和してくれる。


 さて、と。


 振り返るとそこには、大蛇の下半身に巨人の上半身がついた、巨大な怪物がいた。


 天井に空いた穴から乗り出すようにして、こちらを睨みつけている。背中には翼が生え、頭には髪の毛の代わりに無数の通常サイズの蛇。


 うん。ここまでくれば、悩む余地はない。


 モンスターの正体は、ゴーゴンだ。それも、人間を石ではなく黄金変える突然変異種──ミダース・ゴーゴンとでも呼ぶべきかな?


 遺跡と同じように黄金に輝く瞳から放たれる光が、ボクやルズの体に届いては分解されていく。防護術式は良好みたいだ。とはいえ、まだ黄金化を防いだだけ。戦いはこっからだ。


 ガラガラと瓦礫が落ち、空気が揺れる。いいね。実にいいね。


「ま、キラキラくんはせいぜいボクがコイツを倒すのを


「え!?リュシオル様!?オレは振り返ってはいけないんですか!?」


「黄金になりたきゃいいけど。いや迷惑だからやっぱやめろ」


「はい……」


 お、しゅんとしてる。ウケる。


『ゴォオオオオオルドォオオオオオオオ!!!!』


 ウケてる場合じゃないか!


 地響きみたいなうねり声が、遺跡いっぱいに響き渡った。

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