第8話『バトル&決着!!』

 ゴーゴン。主に古い城や神殿に住み着く上級モンスターだ。


 髪の代わりに無数の蛇を生やし、その下半身も蛇。黄金の羽で空を飛び回り、口には猪の牙がびっしり。


 そしてゴーゴンの目を見たものは、石になってしまうという。


 姿を見ることが出来ないというのは、戦いにおいて致命的に不利だ。目を瞑るにしても後ろを向くにしても、五感のひとつである視力を制限されることになる。


 その被害は尋常ではなく、却ってガチガチに対策されてしまい、今から100年以上前に徹底的に狩り尽くされて滅びた。ボクも昔、王立博物館が無料解放されていた時に骨格標本を見たっきりだ。


 そう、滅びたはずなの、だが。


『ゴォオオオオオオオオオオルドォオオ!!!』


 うん。いるね。バリバリにいる。しかも人を石ではなく黄金に変える変異体。名付けてミダース・ゴーゴン。


 まぁおそらく、生き残りなんだろう。ゴーゴンの寿命は長かったらしいし。


 察するに、他のゴーゴンと違っていたことから群れに馴染めず、孤立してこの遺跡に籠り、今日まで生き延びてきたというところなんだろう。


 そして、自分の縄張りに入った人間を襲った、と。まぁ生物としてなんらおかしなところのない、自然な流れだ。


 ひとつ何か間違えたとしたら、ボクに出会ってしまったことくらいかな。


 この天才魔術師リュシオル=エンバーズグローに!ふふーん!



「あはははははは!!!ほらほら!どーしたの?そんなに見つめてもなーんにも出ないけど!?」

『ゴォオオオオオオ!!!オ…オァアアアア!!」


 ゴーゴンは混乱したようにこちらを睨みつける。そりゃぁそうだろう。なにせ本来なら自分の姿を見た瞬間に黄金化するはずの人間が、目の前でピンピンしてるんだから。


 ま、相手が悪かったね。ゴーゴンの石化(こいつの場合は黄金化)は確かに無法な力に見えるけど、結局のところは魔法のひとつに過ぎない。


 そして魔法である以上、この天才魔術師リュシオルくんによって解析され、滞納される運命にあるのだ!


 今回に関しては、ゴーゴンの放つ光を眼球から取り込むことが魔法の発動条件。だから光の性質を中和して無毒化する魔力の膜を全身に張ってみた。


 いやーーーーはっはっは!!我ながら天才か!?

 こうなってしまえばゴーゴンはただのデカくて飛ぶ蛇みたいなもの!ミーダス・ゴーゴン敗れたり!


 ふふふーーーーーん!!


 ちなみに隣のキラキラ野郎──こと、

 剣士のルズ=エストレイヤにも同じ魔法をかけてあげている。



「ふふーーん!どう?どう?ボクの魔法!!見ただけで人を石にするゴーゴンの魔法を完全に無力化しちゃうとか、他の魔術師やオマエにできるかな〜?ほら!言うことは?」


「流石ですリュシオル様……やはり貴方の魔術は深淵にして至高……このルズ、感服いたしました」


「そーだろそーだろ!ま、お前ら剣士なんかとは出来ることの幅がちがっ……うお!!ま、【護れ】!!」


 ヒュン!


 得意になっていたら、なんか飛んできた。慌てて防壁を張る。ほぼ同時にルズが飛んできたものを剣で弾いたから無駄になったけど……って、え?なんで出てきたおい?



「リュ、リュシオル様!お怪我は!?」

「してるように見えるかボケ!てか後ろ向いてろって……なるほどね」

 


 なんとこのキラキラ、目を瞑った状態でボクを庇いやがった。ボクは天才だけど、こいつはこいつで普通じゃない。



「て、ていうか今飛んできたのなんか鋭いけど……」


 

 床を見てみると、何か尖った物が転がっている。なんだこれ?



『ゴァルルルルルルウルルルルルルル!!!!』


「うげ」



 状況分析をする暇もなく、ミーダス・ゴーゴンが叫ぶ。よく見ると、髪の毛の代わりに生えた蛇たちが一斉に大口を開けていた。


 

『シャァッ!!』



 直後、蛇たちの口から牙がぐるぐる旋回しながら一斉に飛びかかる。


「飛ばせんのそれ!?あ、じゃなくて、【護れ】!!」


 無数に降り注ぐ牙を、ボクの防壁魔法とルズの剣が次々に弾く。少しの攻防ののち、ミーダス・ゴーゴンが息を切らせ始めた。



『ゴ……ゴァ……ガッ……』


「どうやら弾切れのようですね」



 目ぇ瞑ったままよくそこまで状況把握してるなこいつ。ま、それはいいとして。



「はは!ちょーっとボクを倒すには少なかったかなーーー!!それじゃぁ……そろそろこちっから行ってもいい?飽きちゃったしさ!!あははは!!!」


『ゴアアアアアア!!!』



 苦し紛れめいた絶叫と共に、黄金の翼が大きく動く。天井の穴がガラガラと崩れ、ミーダス・ゴーゴンが滑空しながら飛びかかってきた。



「飛び道具がダメなら突進ってわけ?ふふーーん!好都合!!」

 

 

 ゴーゴンはかつて、人間にとって脅威であったためにガチガチに対策されて滅ぼされた。ではその対策がどんなものだったのかといえば──



「ゴーゴン退治といえばやっぱこれだよねっ!!──【凝れ】!!」


 詠唱と共に、周囲の水分が集まり、ミーダス・ゴーゴンの周りで凍結していく。1秒も経たずに、勢いよく滑空する巨体は氷のカプセルに閉じ込められた。


 ──より厳密には、水鏡のカプセルに。



 そう。かつてゴーゴンはその目の光を恐れられた末に逆にそれを利用され、鏡に反射した自らの力で滅びたのだ。



『ア゛!?ッギャアアアアアアアアアア!!!アアアアアアアアアアアア!!ア!!ゴァ……ゴ……ルァ………』



 しばらく断末魔が続き、氷のカプセルが溶けて消えると共に、巨大な金塊になったミーダス・ゴーゴンが地面に落下した。背中の翼が勢いよく折れる。



「名付けて──氷結鏡地獄!!」



 キマッた……。ひゅぅ。


 軽く髪をかきあげると、ルズがぱっちりと目を開けて、頬を高揚させながらボクの肩を掴んだ。


「素晴らしい名前です!!それにゴーゴンを鏡で倒すとは……正しく王道を征く大魔術師ですね、リュシオル様!」


「まぁね?ボクこう見えて結構教養あるからさぁ!!ふふーーーーん!!」


「真の知恵者はあらゆる道に通ずるということですね!」


「おいおい、褒めすぎじゃなーーい?いや、褒めすぎじゃないかーーーーーー!!なんせボクだしねーーーー!!」


「その通りです!!褒めすぎじゃないです!!!」


 

 わっはっは!ほめろほめろ!いや、でも流石にここまで来ると太鼓持ち感が否めな……いやいいや!こんなに褒められること滅多にないし、しばらく分貯めとこ!貯まるものなのかは知らないけど!


 あ、てか。



「オマエ、ボクがいいって言うまでは目ぇ開けるなよ。黄金化したらどうするつもりだったわけ?」


「あ、申し訳ありません……」


「ま、今回はモンスターの黄金かと一緒に光も止まったみたいだからよしとするけど」


「リュシオル様……」


「わ!おい!顔近い!」


「あ、すみません感動のあまり……」


「どこに感動する要素があるんだよ……まぁいいや、それじゃぁ黄金化した連中を戻してこっかな……このオッサンもそうだし……てか、よく見たら黄金化してる兵士、全員逃げるポーズしてるじゃん……情け無ぇ〜……」


「あはは。まぁ、ほとんどの人間はリュシオル様のような英傑ではありませんからね」


「お、いいこと言うね。勝手にこっち向くわ、不用意に目ぇ開けるわ、今日あんまり活躍してないわでどんな嫌味を言ってやろうかと思ってたけど、オマエの見る目に免じて特別に許してあげる」


「これは痛いところを突かれてしまいましたね……!結局すべてはリュシオル様の魔法のお陰で、いやはや、全力で助力するなどと言って情けない」


「ま、仕方ないよ。なんせ僕が強すぎ──

 

 キン!!



 突然、耳元で激しい音がする。顔の横で、何かがかすめたような感覚……。しかもいつの間にかルズが剣を抜いてるし!?な、何が……これは


 床に目を落とすと、黄金の牙が転がっている。



『ゴ……ゴ……ゴァ……』



 なっ!?


 振り向くと、全身黄金に染まったミーダス・ゴーゴンが、緩慢な動きで上体を起こしていた。少しずつ、動きがスムーズになっていく。



「黄金化した状態でも動けんのかよ!?」


『ゴアアアアアアアアアア!!』



 くそ!やっぱ雷の魔法で消し炭にしておくべきだった!



「──【とどろ


「おい」



え?



「え?」


 

 ドスの効いた声が聞こえ、思わず詠唱が止まる。




「おい、今リュシオル様の御身を傷つけようとしたのか?」



 声の主は、ルズだった。え?え?なんかこの1日で見たことない顔してない?



「リュシオル様の尊い肌に、傷をつけようとしたのか……?獣の分際で──」



 ミーダス・ゴーゴンは、蛇に睨まれた蛙よろしく硬直する。どうやら黄金化の魔法の方は使えなくなってるぽいな。ルズの目、ガンギマリのガン開きだし──いや、その、ルズさん?



「万死に値する──死ね」



 次の瞬間、細切れになったミーダス・ゴーゴンの残骸が宙を舞った。剣を抜く動作も、振るう動作も、全く見えないまま、瞬間移動したようにルズが遠くにいる。


 えっと……



「リュシオル様、万が一とは思いますが、お怪我はなかったでしょうか?」



 こ、怖い……。戦えば勝てるとか関係なく、怖すぎる。



「へ、いや、ないけど」


 

 ルズの頭が、ゆっくりと回り、こちらを向く。


 ひ、


「良かったですーーーーー!!リュシオル様のお体はこの世の宝ですから!!!!」


 こっちを向いたその顔は、ボクのよく知るへにゃっとしたアホ面で、ボクのよく知るイケメンだった。


 なんだなんだひと安し……


 いや、怖いわーーーーーー!?裏表どうなってんだオマエ!?!?

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