第9話『なんか出てきた!!』

「おー、見事にバラッバラだね」



 床に落ちてるミダース・ゴーゴンの破片を指差して言うと、ルズは気まずそうに頭を掻く。くそ、なんかそう言う仕草も品があってウザいな。



「申し訳ありません。つい、カッとなって」


「いや、別に怒ってないけど?は?それとも怒ってるように見えた?ていうか決めつけた?何様のつもりなのかな?」


「重ねて申し訳ありません……」



 おい、謝りながらその「たははー」みたいな顔すんのやめろ。はー……まぁいいや。今はあんまそっちに気持ち向ける自分でもないし。


 それより、ミダース・ゴーゴンの死体を解析して、黄金化魔法を覚えちゃいたい。石化よりも派手でいいし、天才魔術師であるボク、リュシオル=エンバーズグローに相応しい魔法だ。


 そ・れ・に〜!ボクを追放した【黄金の夜明け】の馬鹿どもに対するいい当てつけにもなるし!




 あれ?黄金の夜明けのみなさんですか?あれあれ?パーティー名に黄金とかついてるけど黄金要素あります?


 階級を示す腕輪は全員A級の赤だし……え?別に黄金系の魔法使えるわけでもないんですか?


 おっかしいなぁ〜?オマエたちに追放されたどこぞの天才魔術師くんは黄金化魔法使えるらしいですよ?しかもS級冒険者だから腕輪も金色!


 すっごいなー!そう言う人こそ黄金の〜とかって名乗るべきじゃないかな〜?


 一体誰なんだろうね〜?




 ──あ、ボクか〜!!




 いい……。


 いい!これいい!!さいっこう!!!スカッとする!!!!


 よしよし、そうと決まったら早速解析させていただきますかね〜



「にしても、中までしっかり金になってるんだね〜」



 ミダース・ゴーゴンの断面を見てみると、内臓や骨までしっかりと黄金に輝いている。石化系の魔物って大抵表面しか固められないから、やっぱコイツは結構すごい魔物なんだろう。


 ま、ボクの方がすごいけどさ。


 いくつかの肉片を触ってみて、だいたい魔法の構造は理解した。これでいつでも使える。

 ……ただ解せないのは、黄金化した後に動き出したことだ。


 そういう特殊な魔法が仕掛けられてるのかと思ったらそんなことないし……うーん、この肉片も、この肉片もただの黄金だな……あ、この尻尾のおっきい塊は……



「熱っ!」


「リュシオル様!?!?大丈夫ですか!?!?」


「声でかいっての!!ボケアホカスキラキラ!!もっと小さい声でしゃべれ!!」


「モウシワケアリマセン…」


「は!?聞こえないんだけど!?」


「申し訳ありません!!!」


「うるっせぇーーーーーーーーーーーー!!!」


「ぐ……このルズ、リュシオル様のご要望に応えられないとは……冒険者失格です……」


 

 ルズのやつ、拳を握りしめて悔しそうにしてる。やーいやーい。まぁ冒険者とはあんま関係ない気もするけど、とりあえずやーいやーい。


 ふふーん。悔しそうな顔。普段からそう言う顔してればカワイ……危ない危ない!こんなキラキラ野郎可愛くなんかない!ボクの方が断然可愛い!


 じゃなくて、だ。



「別に大した熱さじゃないよ。びっくりしただけ」

「ならいいのですが……」

「それよりさ、そーれーよーり!(さっきの意趣返しで強調)これ、多分中になんかあるかも」


 中から、薄くだけど異質な魔力反応が感じられる。多分熱源はそれだ。

 うーん、この魔力反応、前にどっかで覚えがあるような……S級授与で王宮に呼ばれた時……


「斬りましょうか?」


 おい。オマエ遺跡つく前はもう少し理性あっただろ。


「やめれ。中のものまで斬ったらどうすんだよアホキラキラ」


「確かにそうですね。それでしたら削って……」


「いいっての、無理に役に立とうとしなくて。どーせオマエにできることなんてボクの魔術に比べたら大したことないんだからさ」


「おっしゃる通りですね。このルズ=エストレイヤ、思い上がっていました」


「素直に謝んな!!」


「なぜ……いえ、すみません」



 ったく。やりにくいったらありゃしない。他のやつならもうとっくに謎の逆ギレしてるぞ?かえって張り合いがないって言うか……いや、文句言われたらそれはそれでキレてるけど、ボクの場合。


 と。また脱線。


「別に斬らなくても中のものは出せるよ。──【塵に帰れ】」


 軽くトン、と触れた先から肉塊が崩れて金の塵になっていく。指定した物質だけを分解する魔法だ。


 これで中のものを壊さずにちゃちゃっと取り出せる。それに、崩れた先から金色のチリがふわふわ舞って消えていくから綺麗だ。



「なんと美しい……この獣もリュシオル様の大魔術によって世界を彩れたのだから贅沢なものですね。リュシオル様を傷つけようとしておいて……全く身に余る……」



 おーい、また怖くなってんぞ。


「んなこといいからほら、もうすぐ中のもん出てくるよ」


「いったい何が出てくるんでしょう?」


「まぁ、ボクの予想だと魔法石とかかな?結構その辺に落ちてて、牛系の魔物が消化を助けるために胃袋に溜めてたりすんの。腹の中でガチャガチャ研磨し合うから取り出すと綺麗なんだよね」


「え!?もしかして露店とかで売られている魔法石って、そう言う経緯で研磨されているのですか?」


「そだよ」


「うーむ。せっかくパーティーを組めましたし、何かの記念日にリュシオル様に贈ろうと思っていたのですが……獣の腹から出てきたものをお渡しするのは……これは考え直すべきかもしれませんね^_^


「別に気にしないけど普通パーティーメンバーに宝石は贈らないと思う。キモい」


「そんな……そもそもの部分で……」



 いや、そんなに落ち込まれても……

 こいつ、やっぱなんかズレてるな。手を触る時の所作とか、尊敬してる人にって言うより女を口説くみたいだし。


 うーん、性格が良くてイケメンだと誰に対してもそうなっちゃうのかな。いや性格いいのかに関してはこの数時間でだいぶ疑問が湧いてるけど……


 お!無駄話してるうちに出てきたな!さてさて、一体何が……うお!


「うわ……すご……」


「これは……」



 ボクもルズも思わず感嘆の声を上げる。ミダース・ゴーゴンの腹から出てきたのは魔法石じゃなかった。でも、そこらの宝石よりずっとキラキラと輝いている。


 出てきたのは。赤い輝きを放つ一本の剣だった。



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