第10話 円卓会議
後日のこと。
大事な話があるということで
カレンがもう一度魔法の鍵を使い、イシェトの結界内に入り込んだ矢先、待ってましたというかのように身体はテレポートした。
移動したそこは荘厳な雰囲気の漂う円卓の部屋だった。
大きな窓から差し込む不思議な光が、テーブルの上に散らばった古い地図や計画書を照らす。
壁には歴史的な絵画や武具が飾られており、この円卓がただの会議室ではなく、僕らの運命を決める重要な場であることを物語っていた。
円卓には僕とカレン含めて合計7人の男女がいた。
初めてイシェトと会った時に結界内に居た人達そのままだ。
あの時は、色々と忙しくて名前すら聞いてない人もいくらかいた。
僕たちはぐるりと円卓を囲むように座り、僕はこれから始まるであろう大事な話に耳を傾けていた。
「さて、新しい仲間も加わったことだし、まずは一人一人自己紹介をしてもらうさね。
名前と自分の持つ能力を話してもらう。
じゃあ、セトからさね」
イシェトの指示に、僕は一瞬戸惑った。
皆の視線が一斉にこちらに向けられ、圧倒される。
「え?僕から?」
「こういうものは新人から始めるものだからさね」
イシェトの笑顔と声は優しかったが、その瞳からどうにも断れない雰囲気を感じ取る。
指名されたなら仕方ないと僕は立ち上がり、緊張に身体を強張らせながら自己紹介を始めた。
「え、ええ。
皆さん、初めまして…の方もいますね。
セト・ソフィールです。精霊召喚魔法を使えます。
呼び出せるのは鎌鼬っていう鼬の精霊と
身体能力も高く結構強く頼りになるやつです。
美鷹は戦えませんが人を乗せて空を飛ぶことができ便利です。大人二人くらいまではいけます。けど、美鷹は絶望的に脆いから戦闘には参加できません。
えー。こんな感じでいいですかね?イシェト様?」
「うん、完璧!はい!みんな拍手!パチパチー!」
イシェトの指示で皆が手を叩いた。拍手の音が部屋の中に響き渡り、少しの恥ずかしさを感じながら僕は席に座る。
うん、一番手で良かったかもしれない。
これから先は気持ち楽に話を聞ける。
「じゃあ次は、隣のイズナさね」
僕の右側に座るイズナがイシェトの指示で立ち上がった。その際イズナの鋭い視線が一瞬だけ僕に向けられる。
え、こわ。
その目線の意図はなんなのだろうか。
全く分からなかった。
「イズナ・フレンジャーです。
後は…イシェト
能力の使用条件は
その代わりに、自分の身体ならどこにでも好きに移動させられます。
自分以外は触れないと移動させられません。
どちらも距離制限は10メートルほどです。
何より暴力が得意です。そのようにして使っていただきたいと思います」
「はい拍手ッーー!!そのままどんどん横に回ってってーー!」
イシェトの合図で、次に立ち上がったのは物腰柔らかな、黒髪の高身長メイドだった。
彼女は優雅な動きで立ち上がり、柔らかな声で話し始めた。
「イシェト殿下の近衛兼メイドをやっております。
マリア・エフランと申します。
ワタクシ自身は奴隷でもなく、ペルディシオにもいませんが、ワタクシ自身の魔法によって皆様のバックアップができます。
能力は自然治癒能力の強化。
この能力は、エフラン家に代々伝わるもので、過去には多くの王国兵士の命を救ってきたものです。
ワタクシに触れられ、この能力をかけられた生物はその日一日の間は骨折すらも一時間程度で回復します。
しかし弱点もあり、この能力で回復した箇所は能力が切れた瞬間からしばらくは想像を絶する痛みに見舞われることになります。
ですので能力の使用の判断は個人に任せます。
が、マザーエンジンの破壊作戦は激しい戦闘が予想されますので、少しでも死にたくないと思う奴隷の皆様はこの能力を活用されるのをお勧め致します」
拍手が終わり次に立ち上がったのは、男だった。彼は大柄な体を持ち上げるようにして立ち上がり、少し緊張した様子で自己紹介を始めた。
「ボブル・ガードマン。
同じくイシェト殿下の私兵だ。
5種類の動物に変身できる能力を持っている。
鷲と猫と鼠、豹と人間だ。
この能力は遺伝じゃない。
俺が昔、儀式を通じて獲得した。
話すのはあまり得意じゃない、が能力は高い方だと自負している」
ボブルに続いて立ち上がったのは、メガネをかけた老年だった。
「ライン・チェンバレンと申します。
他の方々のような魔法は扱えませんが、紅茶を美味しく淹れられます」
ラインのそっけない紹介にイシェトが口を挟んだ。
「ラインはウチの代わりに他方に取り合い、活動してくれる、いわばウチのアシスタントさね。
直接的ではないけど、必要な人材さね」
イシェトの言葉に、ラインが軽く頭を下げた。多分謙虚な人なのだろう。それに優しそうなオーラが漂っていた。
ラインの横にはカレンが座っていた。
順当にいけば次はカレンの番なのだが、イシェトが順番を飛ばして立ち上がる。
「ウチはイシェト・ザビ・グレーディア。
グレーディアの第二王女さね。
能力は瞬快移動。
そこはイズナとあまり変わらないさね。
さぁ、最期はこの奴隷解放作戦のリーダーを紹介するさね」
イシェトの声が響くと、カレンは驚きの表情を見せた。
「俺がリーダー?」
「誰が奴隷解放なんか言い出したさね?
人にばっか任せてないで欲しいさね」
カレンは少し照れくさそうに頭をかきながら、立ち上がった。決意と迷いが交錯していた不思議な表情を浮かべた後、話し始めた。
「カレン・ブレイズだ。
俺にはみんなのような魔法も特別な力もない。
戦闘では目立つこともできないし、時には頼りないと感じるかもしれない。
でも、俺には一つだけ、誰にも負けないものがある!
それは、奴隷たちを解放したいという強い意志だ!
今まで多くの奴隷の命が失われた。それを俺はただ立ち尽くして見ることしかできなかった!
無力感ばかりを感じた。
その時気づいたんだ。
俺は一人では何もできない弱い男だと。
でもそれは一人だからだ。
人は力を合わせれば奇跡を起こせる!
島の奴隷を解放するためには、ここにいるみんなの力が必要不可欠だ!
奇跡を起こすのはたった一人の力では不可能だ!
だから助けて欲しい!
お願いします!
みなさんの力を俺に貸してください!」
カレンはそうやって頭を深く下げた。
それこそ円卓に両手をつき、擦り付けるくらいに深く。
カレンの言葉は間違いなく、この部屋の空気をより良いものに変えたのだろう。
カレンを包み込む拍手がそれを示していた。
僕は感動していた、目頭が熱く泣きそうだった。
あのカレンがこんなことを言えるようになるだなんてを人はやっぱ成長するんだなぁと、しみじみ手を叩きながら思った。
「少し暑苦しかったけど、
まぁまぁ悪くはない自己紹介だったさね。
さて、みなの自己紹介も済んだことだし、次の段階に移ろう。
これからウチが説明するのは奴隷解放計画。
心してきくことさね」
ーーー
「大まかなステップはこうさね。
ステップ1。
マザーエンジンは奴隷島の中にいる。
カレン、セト、イズナ、ボブルの4名で破壊する。
ステップ2。
マザーエンジンの破壊で奴隷全員のインジケータシステムが無力化。奴隷達の反抗を封じる機能がなくなり脱出の機会、隙ができる。
その際、島では解放された奴隷達による大規模な暴動が起こると予想されるさね。
ステップ3。
インジケータの無力化を確認後、近海にいるウチらグレーディアの船が2隻ほどペルディシオの港に着き、そこで兵を放出し教団員の殲滅と奴隷の回収を始める。
以上、質問は?」
「質問ではありませんが一ついいですか」
僕は手を挙げ口を挟んだ。
「はい、セトくんどうぞ」
「その、僕を使ってマザーエンジンを破壊するのは構いません。元からそういう約束ですから。
ですが、その後は僕の勝手にさせてもらいます。
わがまま言ってるとは自分でも思います。
けど、島には僕の妹がいるんです。
島の戦争に妹を関わらせたくない。
兄として妹の安全を第一に考えたいんです」
「うむ、許可しよう。
セトはマザーエンジンさえ破壊してもらえばあとは何をしようと構わないさね」
「ありがとうごさいます」
本当にありがたい。
これでもし許可が降りなければ、僕は土壇場でここにいる人たちを裏切りソフィアの元にいかなきゃいけなかった。
「次は具体的なマザーエンジンの破壊計画について。
これはウチじゃなく…ボブルからの説明さね」
イシェトは座り、次にボブルが立ち上がった。
大柄な男。彼は…たしか動物に変身できる人だ。
「ボブルだ…。
俺は鼠や猫になり教団の内部に潜入して情報を探っていた。
そこで得た情報の一部をここで共有しようと思う。
まず、マザーエンジンはペルディシオの中心部、最も厳重に守られた地下施設「ソディスの心臓」に設置されている」
ソディスの心臓…。
聞いたこともない場所だ。
まぁ、そりゃ隠してるからなんだろうけど。
「スパイとして潜り込み、内部の構造図、警備の状況、マザーエンジンの位置の詳しい情報は既に手に入れてる。地図に書き込んだ、後でそれぞれ確認してくれ。
俺、カレン、セト、イズナの4人でここを攻略しマザーエンジンを壊す、いいな?」
「4人は少なくないですか?
もう少し戦力をさけないんですか?」
流石に4人だけだと心許ない。
マザーエンジンを壊すのはスタートライン。
この奴隷解放の核に当たる。一番の重要事項のはずだ。
イシェトの国からもう少し戦力を当ててくれないだろうか。
「難しい。これ以上の戦力となるとイシェト様の管轄から外れた王国兵士を持ってくることになる。
いいか、大半のグレーディア人はこのことをあまり良く思ってないと考えてくれ。
中にはイシェト様の暴走と言っている輩もいるくらいだ」
「暴走だと!?どう言うことだ!?」
聞き捨てならないとカレンが立ち上がった。
「ウチは良い、黙れ」
それを止めたイシェト。
カレンは渋い表情で着席する。
「ここにいる俺らは、
いや、この作戦に関わるほとんどのグレーディア人は奴隷についてそう何かを思っちゃいない。
イシェト様に忠誠を誓ってるから協力しているだけなんだ、それを理解して欲しい」
…なるほど、無理と了解。
そしてイシェトもかなり無理をしてるのが分かった。
うーん。
そこまでしてイシェトが奴隷らを助ける理由とはなんなのだろうか。そのメリットは?
うー、あー、気になるなー。
あの女、なにか企んでる気がするなー。
信用できねぇなー。
でも、聞けねーなー。
あー、うー。
「それに奴隷らからこれ以上仲間を増やしても、戦力的に不十分。セトやイズナのように魔法が使えるのなら別だが、大抵の奴隷はそうじゃないだろう。
作戦が漏れる可能性が高まるだけだ。
この4人が適当だと考える」
「…私からも失礼します。
房の中から出られない私達奴隷3人はどうやってそのソディスの心臓に集まるんですか?」
続けてイズナが手をあげ、ボブルに聞いた。
「安心しろ3人の房の鍵…ああ鍵は二つか。
入手してある。
諸々をあとで渡す、それで房を抜けて来い」
「房を抜けた事がバレたら大変なことになるのでは?」
「どうせ後で大変なことになるんだ。
バレたところでその時はせいぜい3人の奴隷が脱走したって騒ぎになるだけだ。
まぁ、しかしそうは言ったがバレないことに越したことはない。だから頑張ってバレないようにこい」
無茶言うなぁ…。
そこは投げやりなのね。
「集合場所は奴隷房を出てすぐの広場だ。
銅像がある場所って言えばわかるか?
そこからソディスの心臓に向かい侵入する。
内部に入ったら分散作戦だ。
陽動部隊と、破壊部隊の二つに分かれる。
揺動部隊は破壊部隊の為、建物内の教団の目を惹きつける、とにかく派手に暴れまくれ」
「私がやります!」
いち早く手を挙げたのがイズナだった。
暴れるに反応したのだろう。
「もう一人欲しいな、セト。
お前できるか?」
僕にそう聞くボブル。
もちろん構わない。
「いいですよ、任せてください。
イズナほどじゃないけど、暴力は苦手じゃないです」
「ほどってなんですか…」
僕は召喚術を使ってそれなりに戦える。
それにイズナを一人にするのは少し怖かった。
うん、色々な意味で。
「それに私一人で十分ですよ…」
ちょっと拗ねた様子のイズナ。
自分の力を過小評価されてると思ったのだろうか。
「よっしゃ、じゃあ俺とバブルさんが本隊、破壊部隊…本隊ってことっすね」
「ボブルだ…まぁ、そうなるな。
いいか?俺ら本隊はなるべく見つからず動きたい。
その為にはセトとイズナの二人がどれだけ暴れられるかが肝だ」
拗ねたイズナを無視して話を進めるカレンとボブルだった。
もしかしたら聞こえてないだけなのかもしれないけど。んまぁどちらでもいいか、会議にはあまり関係ないことだし。
「もちろん俺ら本隊が壊滅、もしくは罠などで行動不能になった際はセトとイズナの部隊が本隊になり代わりにマザーエンジンを破壊してもらうことになる。
セトにはその際の動きと地下施設の構造を頭に入れさせるからそのつもりでいてくれ」
横のイズナを見る。
まぁ適任かな。
イズナは暗記が苦手ってわけじゃないだろうけど、精神的に不安定なイズナに任せるのは心配なものがある。一挙手一投足にあまり余裕のない僕らだ。
そういう意味で、僕の方がまだ適任だった。
「はい、分かりました」
「セトとの個人的な話はまたにしよう。
とりあえず今説明した中で質問ある人は?」
僕は特にもたなかった。
他の人はどうだろうと様子を見るも、挙手は見られない。
そこでパンと一回手を叩きイシェトが話し始める。
「どうやらマザーエンジン破壊組の話は終わったようさね。
では!会議の総括を始める。
奴隷解放作戦は今から2週間後の深夜に決行!
目的はマザーエンジンを破壊し奴隷を解放すること!
それまでに各人しっかりと準備しておくこと!
いいな?特に奴隷組!!
それまではくれぐれも騒ぎなんて起こしてくれるなよ!?
では、解散!!」
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