第13話 2階層
「今日は2階層を目指しませんか?」
久しぶりのホタルとのダンジョン。
その第一声は死地への誘いだった。
「ホタルは2階層がどんな場所か分かってる?」
入り口に留まっていると他の傭兵との遭遇率が高まるので、歩きながら話すことにする。
「確か……専業とお遊びの線引きを担っている場所ですよね?」
「まぁ、言い方はキツイけど大体合ってるよ。付け加えるとすれば、専業は傭兵登録している内の上位15パーセントだけっていうこと。ホタルは俺の言いたいこと分かる?」
「私たちのような新米が上位15パーセントに入っている訳がない。2階層に行くのは危険だ。そう言うことですか?」
ホタルは一瞬で刈り取ったスライムの魔石を俺に投げ渡す。
「その通りだよ。ホタルは確かに強い。だけど、それだけじゃダメなんだ。専業の傭兵は必ず3人以上のパーティーを組んでいる。それは単純に戦闘面だけの問題じゃない。誰かが負傷すれば他の1人は負傷者を運ぶ必要がある。すると結果的には2人が戦闘不能になるんだ。2階層に行くなら、せめてもう1人。できれば2人欲しい」
「私はクロと2人で2階層に行きたいです」
「だから、それは——」
「他の人とダンジョンに潜りたくないんです。これは私の我が儘です。だけど、ダンジョンに来て初めて、怖いという感情が分かりました。戦闘中に逃げられたらどうしよう。後ろから斬られたらどうしよう。そんなことを考えてしまいます」
それは俺も理解できる。
俺が最初ソロだった理由の1つがそれだから。
ホタルがクラスメイトでもなく、本当に赤の他人だったら一緒にダンジョンに潜るなんてことは絶対しなかった。
「最初はクロのことも信頼できませんでした。だけど、クロはどんなに弱い魔物との戦いだとしても、いつでも私の助けに入れるようにしていました。それは私が強さを見せても変わりませんでした」
「……そうなんだ」
気づいてくれてたんだ、と少し嬉しくなった。
「2階層に無理やり行くのではなくて、今日の目標にするだけです。ダメですか?」
「うーん、まぁそうだね。目標にするだけならいいよ。だけど少しでも危ないと思ったら即撤退。これだけは約束して」
「はい、約束します」
ホタルはそう言って小指を差し出して来た。
「その手は、何?」
「指切りげんまんですよ。知らないんですか?」
「いや、知ってるけど……まぁ、いいや」
ホタルの小指に俺の小指を絡ませる。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本の飲ます、指切った」
ホタルは歌い終わると勢いよく指を振り切る。
かなり強く振り切られたので小指が少し痛む。
「なんで顔赤くしてるの?」
「……思ったより恥ずかしかったからです」
「ホタルが始めたことでしょ……」
俺が呆れる感情が混じった声で言うと、ホタルはダンジョンの奥へスタスタと歩いて行った。
「ホタル! 約束したばっかりなのに危ないことするな!」
俺はその後ろ姿にバタバタと走って着いていく。
#
「クロ、後ろ任せます!」
「了解」
ポケットから魔石を取り出し、放り投げる。
ポケットごとに魔石の種類を変えているので、今投げた魔石は全てスライムのものだ。
つまり、その魔石は魔物どもを殺す武器に姿を変える。
「ガギャ」「グギャ」「グギャ」「グジュ」「ブァギャ」「ガギャ」
ダンジョンに潜って3時間。
かなり奥まで来ており、初めての人型の魔物——ゴブリンの集団に遭遇するようになった。
「今回の集団は数多いな」
ここに来るまでも何度か集団との戦闘はあったけど、多くて10〜20体。
なのに、今回は軽く50体を超えている。
倒しても倒してもキリがない。
なぜかコイツらは今回に限って追加の人員が存在する。
あと少しだと思ったらゴブリンが集団でおかわりされる。
さっきも戦闘中に後ろから追加の集団が来て俺とホタルが別々で戦うことになった。
俺が対応している後ろの集団はあと10体もいない。ホタルの方は20体ぐらいいるけど、まぁ大丈夫だろ。
ここで決めよう。
「出血大サービスだよ」
俺はそう呟いて魔石をゴブリンたちに投げ込む。
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