第14話 大量の魔物
バーン。
轟音がダンジョン内に響く。
俺が戦っていたゴブリンは全て魔石の爆発で倒れ、数秒のうちに魔石へと姿を変える。
「これがさっき言ってたスライム爆弾ですか。すごい威力ですね」
ホタルの方も戦闘を終わらせたらしい。
20体はいたのにこの短時間で仕留めたのは流石としか言えない。
「威力はあるけどコスパ悪いからなー」
スライム爆弾の愚痴を吐く。
スライムの魔石をベースに作るのは槍と変わらない。だけど、爆弾は槍と違って大量の魔石を使う。
作り方は簡単だ。スライムの魔石の形を変えずに他の魔石でコーティングを重ねて最後に俺の魔力で覆うだけ。
コーティングに必要な魔石の数に目を瞑れば最高の武器だ。
「魔石の費用なんですけど、それはパーティーの共通出費にしませんか? この際、刻印も私がやります。私にクロの武器を任せてください。まだ私を信頼できませんか?」
「信頼してる、してないとかそういう問題じゃないんだ。これを共通出費にすれば大部分をホタルが担おうとするだろ。刻印なんて論外だ。あれは気楽に行えるものではない。ホタルも分かっているだろ?」
刻印が刻まれた魔導武器が高いのは付与術師の少なさだけではなく、刻印を刻むのに莫大な魔力を消費することによって起きる生産性の低下によるものだ。
刻印の作業を終えた付与術師は大体3日は寝込むと言われている。
そして、動けるようになっても魔力が回復したという訳ではなく、体を動かす最低限のことができるようになっただけだ。
全ての魔力を失った場合、平均的な付与術師の魔力の全回復には最低2週間かかる。
「確かにダンジョン攻略に支障が出ます……ごめんなさい、この提案は身勝手なものでした」
「いや、いいんだよ。ホタルの提案はとても魅力的だった。だけど、俺が人に借りを作るのが嫌いな性格というだけなんだ。気にせず2階層を目指そう」
「はい」
ホタルはそう言って前を向いた。
俺はその姿を見て少し心配になった。
ホタルの提案を断ってよかったのか。
俺は今本当にホタルと歩み寄って話し合えていたのだろうか。
心に溜まっていく重みを気にしない振りをして、蛍の背中に着いて行く。
それが正しいと信じて。
#
「ふんッ」
切り捨てたゴブリンを視界の隅に置いて、走り寄って来る狼の魔物へ薙刀を向ける。
俺とホタルの間に会話はもうない。
2人とも止まることの知らない襲撃の対応に必死だ。あのホタルが息を切らしながら刀を振っている。
俺はそんなホタルが目の前の敵に集中できるように露払いをする役割だ。
ホタルが相対しているのは2体のゴーレム。
しかも、奥へ進むほど空間が広くなったせいでダンジョンは甲子園ほどの大きさになり、走っても壁に肩をぶつけることも無くなったゴーレムは、存分に力を発揮している。
しかし、ホタルも前回とは違う。既にゴーレムに致命傷を与えることに成功している。
2体のうち1対は重心が安定していない。右腕が肩からごっそりと斬られた影響が大きいようだ。
ホタルは今日から新しく『グラビティ』という付与術を使用している。
『グラビティ』は対象にかかる重力を増大させるもので、ホタルはそれを刀に使っている。
ダメージは速度と質量によって変わる。つまり、『ブースト』と『グラビティ』を使っているホタルはめっちゃ強いということだ。
「クロ、今のうちに進みましょう」
ホタルの声が遠くから聞こえる。
見れば、ホタルはゴーレムを倒し、魔石を拾い終わっていた。
俺もいつの間にか少なくなっていた取り巻きたちを安全かつ素早く切り捨て、ホタルがいる奥へと向かう。
しかし、ホタルは少し歩くと立ち止まっていた。
「ホタルどうしたの?」
「これはやばいかもです」
そう言ったホタルは俺の手を取って『ブースト』を使って走る。
「やぶぁいってなに゛」
ホタルの付与術を使ったスピードを実感しながら尋ねる。
「大量の魔物が現れました。逃げましょう」
端的にそう言うと、更にスピードを上げて走り始める。
俺には魔物がどこにいるかなんて分からない。
ホタルはどうやって気付いたのか。
音か、それとも気配か。
鯉のぼり状態の俺を引っ張るホタルがぼそっと「来ます」と言った。
流石にその時には分かった。
飛行機が近くを通った時のような爆音と、暴風が吹く。
ちらっと後ろを見る。
すると、遠くからこっちを睨んでいるドラゴンがいた。
それも大量のワイバーンらしきものを連れて。
流石に意味分からない。
これまで入り口の近くに狼の魔物がいたり、壁からゴーレムが現れたりしたのはダンジョンって不思議だなで済んだけど、ドラゴンは駄目だろ。
アリを殺すために太陽がやって来るようなものだ。
オーバーキルが過ぎる。
「いちかばちか、スラッシュを使います。クロは先に走って行ってください。5秒後に私は止まります」
「そんなことじなぐでもいい。2階層が見えた。右だ」
風に煽られて上手く喋られない中、どうにか2階層の入り口の目印として知られている青い光が見えたことを伝える。
この暗いダンジョンで2階層の入り口の場所が分かるように付けられたものだ。
「——私が囮になる方が確実ですよ」
最初からホタルはスラッシュなど使わず、囮になるつまりだったのだろう。
刻印のスラッシュを使うには前回一分かかった。ドラゴンも少しずつ近づいている。
ホタルも無理だと分かっていたはずだ。
「今後のダンジョン攻略にもホタルは必要だから死なれたらごまる」
何とか噛まないように喋ろうとしたけど最後でミスった。
恥ずかしい。
「そうですか、では捕まってくださいね」
ホタルは右へと急転回して地面を蹴り出す。
そのスピードはさっきより速い。
ドラゴンたちが右折に手こずりながらも俺たちを追いかけて来る。
最初は微かに見えるほどだったのに、もう今は目と鼻の距離だ。
ドラゴンは俺たちを確実に仕留めるため、高度を少しづつ下げ始める。
2階層の入り口まで後100メートルもない。
それと同時に俺たちとドラゴンの距離も200メートル程になっていた。
ホタルは加速を続ける。
しかし、ドラゴンは非情にも前脚をこちらに向け——
——空振る。
ホタルが跳んだ。
2階層の入り口、下へと続く階段へ。
強烈な青い光に照らされた俺たちは、1階層を抜け、緑が生い茂る2階層に寝転んだ。
「あはははは」
俺の笑い声が響く。
それにつられてホタルも笑う。
「ふふ、2階層に来ちゃいましたね」
「そうだな」
まさか辿り着くとは思わなかった2階層の空を見上げる。
ダンジョンの中とは思えないほど青い空が広がっている。
「ダンジョンって楽しいですね」
その声に反応して、ホタルの方を見る。
学校では絶対見せないような柔らかい表情で、こちらに微笑みかけていた。
「あぁ、本当にな」
大人になっても、こんな風に傭兵として働くのも悪くないな。
——そんな淡い夢を抱いてしまった。
金欠傭兵が英雄になる方法〜青春をダンジョンに捧げる〜 真田モモンガ @N0raken
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。金欠傭兵が英雄になる方法〜青春をダンジョンに捧げる〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます