金欠傭兵が英雄になる方法〜青春をダンジョンに捧げる〜
真田モモンガ
第1話 マイナースキル
「現在、日本には大小合わせて1000個程のダンジョンがある。これは世界でもトップクラスの多さだ。そして、その内300個ものダンジョンが群れるように集まっているのが、テレビでよく見る学園自治区だ」
メガネを掛けた担任は一拍を置くように息を吸う。
「学園自治区はダンジョン都市と呼ばれるほどダンジョンに重きを置いている。それは、ダンジョン攻略を仕事とする傭兵を大量に必要としていることを意味する。だからといって、素人はいらない。必要とされるのは学園自治区外のダンジョンで確かな実力を得た傭兵だ。——そういえば、お前らの中には傭兵としてダンジョンに潜っているやつが数人いると耳にした」
その担任の声にビクッと肩を振るわせたのが何人か見えた。
現在は歴史の授業だ。傭兵たちは気を抜いてしまっていたのだろう。
「俺はダンジョンが嫌いだ。もちろん傭兵も嫌いだ。命を粗末に扱っているからな。ここは学園自治区外なんだから、大半の人間は平凡に生きた方がいい。お前らは受験生だ。とりあえず今だけは高校受験の勉強に集中しろ」
クラスメイトの大半には関係ない話だ。傭兵なんてものをやっているのは学年を通しても20人に満たないほどの人数だ。
俺も昨日まではその大半に入っていた。傭兵についての話も特に興味がなかった。だけど、俺は今日から担任が嫌いな傭兵になる。
これには理由がある。
それは——金がないという下らないものだ。
色々あって今我が家にはお金がない。
高校受験よりも、明日の我が身の方が心配だ。
このままだと明日の昼飯——つまり弁当を抜かなければならない。
それを阻止するにはお金を稼がないといけない。
そして、中学生が金を稼ぐ方法なんて合法なのは傭兵しかない。だから俺は傭兵になることを決めたのだ。
ということで、ダンジョン前にやって来ました。
流石に制服では来れないから一度家に帰って、動き易い服装に着替えてから来た。
俺と同じような人が多いのか、周りを見渡すと学校のジャージとか、ネットで売ってる初心者セットを身につけている人が溢れている。
さっきウチの学校のジャージを着ている人を見かけた。担任に潜っているのがバレた理由はこれだな。ジャージには名前書いているんだからそりゃあバレるよ。
比較的軽装の人は俺と同じくらいか、少し年上の人が多い。逆に学生の人数と比較すればかなり少ないが、チラホラ見かける戦闘服って感じの人は大人が多い。
その人達は学生からの視線を集めている。恐らく戦闘服の大人は専業でやっている人達だろう。雰囲気が違う。
そして、俺は戦闘服の大人以上に注目を集めている。
理由は分かる。
俺の服装が問題なんだろう。
動きやすい服装として、部屋に落ちていた黒いパーカーを着てフードも深く被っているのは問題ない。全然一般人の分類だ。
だけど、他が問題なんだ。
黒マスクに黒のサングラス。
怪しすぎる全身黒ずくめ。
学校の近くで見かけたら即通報するレベルの不審者だ。
だが、これには理由がある。
俺がダンジョンに潜っているのがクラスメイトや担任にバレないためだ。
俺も最初はバレてもいいと思ってたけど、段々怖くなってきてタンスから黒マスクやらサングラスやらを取り出した。
これが俺こと石黒透の雑魚メンタルだ。
「黒ずくめの子、ちょっと待って!」
俺が昨日手に入れたギルドカードを、駅の改札そのまんまのダンジョン前ゲートに当てようとしたとき、後ろから声をかけられた。
黒ずくめの子……絶対俺のことだよな。
「何ですか?」
面倒くさそうだから気付かないふりして行こうか、という思考が一瞬横切ったけど、後方から駆け寄ってくる女性がギルド職員の制服を着ていることに気づいて止まる。
問題を起こすのはまずい。軽くて注意。重くてギルドカード停止だ。
ギルドカードを停止されるとダンジョンに入れないので、いわゆる出禁という扱いになる。
「君、見かけない顔だから多分ここ初めてだよね?」
「そうですけど……」
少し戸惑いながら答える。
何か違反でもしたのだろうか。
「あぁ、そんなに心配しなくていいわ。ちょっと武器を持ってないことが気になって話しかけただけよ」
あー、と俺は納得の声を出した。
確かに他の人は剣なり槍なりを持ってダンジョンに入って行っている。
対して俺は素手だ。しかもソロである。ソロはいない訳ではないけど、かなり珍しい部類に入る。
「俺、『武器錬成』スキル持っていて、ダンジョンの中で武器作れるので大丈夫です」
「『武器錬成』って……マイナーなの選んだわねぇ。いえ、別にダメって訳じゃないよ? だけど最近は『剣術』とか『炎魔法』を選ぶ人が多いから、ちょっと驚いただけよ。ごめんねぇ引き留めて。もう行っていいわ、頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
一礼して、さっさとダンジョンの暗闇へと入って行く。
美人だったな……と思いながら、ダンジョンの暗闇を歩く。暗すぎてこれでは戦えないと思ったけど、サングラスを付けたままだった。
これでは見えないのも当たり前だ。
周りに人がいないことを確認してから、サングラスとマスクなどダンジョンにいらないものを取る。
「マイナースキルかぁ……」
ギルド職員の人の言葉を思い出す。
俺も本当なら『風魔法』とかそういうのが良かった。ダンジョンの攻略動画でもまずは基本スキルと呼ばれる『◯術』系『◯魔法』系を買うべきだと言われている。
魔力の順応が低い内は、スキルを一つしか持てない。だから手軽に攻撃手段を得られるスキルを買う必要がある。
しかし、みんな基本スキルを買うため、基本スキルは結構高いのだ。普通に10万とかする。
俺はお金がない。当然基本スキルなんて買えない。だから、隅っこにあった大特価の『武器錬成』を買った。なんと100円で売っていた。逆に怖いレベルだ。
『武器錬成』はその名の通り武器を作ることができる。魔石をダンジョンに溢れる魔力でグニョグニョと形を変えて作るらしい。
何でこんなにフワッとした説明なのかと言うと、『武器錬成』がクソマイナースキルで研究が進んでいないからとしか言えない。まず探索者を志して最初にこれを選ぶ人はいない。そして、魔力の順応が進んでスキルを持てる数が増えても、普通は『武器錬成』を選ばない。それは単純に、そこまで順応が進めば良い武器を何個も買えるくらいには、お金が稼げるようになっているからだ。
別に『武器錬成』だけではない。『武器錬成』のような攻撃手段を得るわけではない補助スキルと呼ばれているものは、マイナースキルになる傾向がある。
まぁ、だけど『武器錬成』は俺にぴったりのスキルだと思う。武器は消耗品だ。武器は馬鹿にならないほど高いので何度も買い替えていたら大赤字だ。
だけど、『武器錬成』があれば幾らでも武器を作れる。金欠の俺のために存在するスキルだと思う。
適当に考え事をしていると、少し開けた場所に出る。
ダンジョンの暗闇が少し和らぎ、周囲の景色がよく見えるようになった。
それでやっと気づく。
数メートル先で、ピョンピョンと跳ねる青い流動体——スライムの存在に。
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