第3話 ロマン武器
数時間が経った気がする。
おそらく本当に経ったのだろう。
お腹の音が主張を始めている。
未だに魔力が纏まる気配を見せない。
それでも魔力への理解が深まった。
魔力は気体でもあり液体でもある。
気体のように空気中に存在しており、液体のように流動性を持つ。
そのため、魔力は1つにしようとすると飛び散る。
魔力は物理的に押さえ込むことができない。
魔力を押さえ込むのは魔力だけが可能だ。
だから、スライムの魔力とはまた違う魔力を使えば——
「あ、そうか」
何で思い付かなかったのだろう。
自分の魔力を使えばいいんだ。
『武器錬成』が難しい大きな理由は、自分の魔力ではなく魔石の魔力を操るからだ。自分の魔力を操るというのは意外と難しくない。例えば『炎魔法』スキルを手に入れたらすぐに魔法を使えるようになるのも、自分の魔力を使うからだ。
「ふふふ」
口から笑みが溢れる。
俺は今かなりワクワクしている。
昔からこういうのが好きだ。
一見難しそうに見えても、実は簡単にできる方法があったり、自分なりの解決策を用意して成功したりするのは気持ちいい。
脳汁が溢れるってやつだ。
とりあえずやってみよう。
まず、魔力を無理やり一纏めにする。
そうすればさっきと同じように反発し合い、今にも霧散しそうになる。
それを俺の体にある魔力でコーティングするように周りを囲む。
「いい感じだ」
今のところ自分でも驚くほど順調にできてる。
問題はここからだ。
槍を作ったときはスキルという設計図に沿うように魔力を動かしたら完成した。
だけど、今回はそんな親切な設計図はない。
自分で一から組み立てていくんだ。
「魔石の魔力は流れるように、俺の魔力はコンクリートのように固く……」
スキルをアレンジするように、設計図を作り変える。
スキルでの錬成の時と同じところもあれば、全く違う部分もある。
少しづつ、仕上げていく。
次は何をすれば良いのだろうか。
魔力を1つに纏めれたのは良いものの、魔力に均一性がないからこのままではフニャフニャの槍が出来てしまう。
「いや、別にそれでもよくないか?」
独り言が増えていく。
そう自覚しても俺の口は止まらない。
「そういうものと考えれば全然良い。とりあえず1つの槍にしようって話だし。だけど、このまま完成させるとあまりにも耐久性がないから、何かの拍子で壊れてしまう。槍としてはおかしいけど鞘みたいなのを作るか? それだとスライムの魔力とも、俺の魔力とも違う種類の魔力が必要になるけど——あっ」
ポケットをごそごそと漁る。
今更適当に入れていたことを後悔する。
指の感覚を頼りに探して、他の魔石より大きなものを取り出す。
狼の魔石だ。
これで槍の外枠を作る。
スライムと俺の魔力で形作ってるのを壊さないようにしながら、狼の魔力を魔石から抽出する。
その抽出した魔力を既に形のできている槍に新たな層を作るよう覆う。
これでやっと完成だ。
外見は弁慶が持ってそうな薙刀になった。
しかし、これはあくまで鞘である。
本体はこの中にある大量のスライムの魔力で作った投げ槍——
「——おぉ」
鞘の留め具として付けた鎖を全て外して中身を出すと、青い棒状の物体が現れた。
中にあった物体は、まるでスライムのように見える。実際、中の槍はスライムの体のような構造で作っている。1本にした槍は持ち手も全て液体のような見た目をしており、スライムがそうであるように強力な酸で出来ていて、触れるだけでもダメージを与えられるようにした。
名付けてスライム槍だ。
俺は小躍りするように地上へと戻っていき、満面の笑みで受付の人にスライム槍を鞘付きで渡して家へ帰った。
今日は収入が0円であること以外大満足である。
探索者の収入源である、魔石を使って効果を発揮するスキルだったから元々覚悟していたことだ。
初期投資だと思えば割り切れる。
俺は軽く夕飯を食べてぐっすり眠った。
——俺はこの時知らなかった。
スキルのアレンジは本来秘匿されるものであり、新人がスキルから逸脱して自分で魔力を操るのは異常だということを。
俺はこれが原因で、青春をダンジョンに捧げることになる。
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