第32話 曜日ダンジョンが更新されました
【パーティ1が黄昏の聖域(エリア1)に入場しました】
「なんか全然違う場所じゃないですか?」
「そうだな」
鉄を目当てでルーンフォージ鉱洞に行こうとした俺たちだったが表された場所の名前は“黄昏の聖域”。
周囲を覆う薄い霧と、黄昏の光が差し込む幻想的な空間が包んでいる。
空には満天の星が瞬き、薄暗い道がまっすぐに続いている。
「未知の場所だ。気を引き締めろよ」
「装備を新調して腑抜ける何て真似はカイルさんの為にもできないわよ」
マリアは新しく手に入れた盾をしっかりと腕に固定している。
俺も胸当てがしっかりと体にフィットしているのを感じ、何度か腕を振って動きやすさを確認した。
「そうだな。皆準備はいいな?」
ダリウスが剣を軽く構えながら周囲を警戒する。
彼の隣でハンナが弓を手に取り、いつでも射撃できるように姿勢を整えている。
「それにしても、どうしてルーンフォージ鉱洞の代わりにこんな場所に?」
ハンナが小声で疑問を口にする。
いつもの鉱洞探索とは違う雰囲気に少し緊張を感じているようだった。
「さあな。とりあえず慎重に進もう」
ダリウスが言葉に力を込めるとマリアがその言葉にうなずき、盾を構える。
霧の向こうからは微かな音が聞こえてくる。
葉がこすれるような音。
そして何かが移動する気配が時折感じられるが視界は悪く、正確な位置を捉えられない。
「霧で見通しが悪いな」
俺が少し離れた場所を見つめながら言う。
視線の先には、暗がりの中でぼんやりと光る影が動いているのが見えた。
「何かいるな……。来るぞ」
ダリウスが声をあげた時、突然、霧の中から影が飛び出してきた。
それは淡い光を放ちながら静かに浮かんでいる。
影が周囲をぐるりと取り囲み、パーティを見下ろしているかのようだ。
「何こいつら?」
「精霊か何かだろう。初めて見るけどな」
ダリウスが剣を構え直し、視線を鋭くして言う。
精霊たちは薄暗い光をまとい、まるで俺たちを観察しているかのように漂っている。
「敵意がある感じのやつかな?」
ハンナが矢を構え、慎重に精霊の動きを見つめる。
精霊の一体が不意に光を放ち、静かにこちらに向かって進み出した。
「動いた!」
俺が呼びかけるとマリアが盾を前に構え、防御態勢を整えた。
すると霧の中から他にも精霊が現れ、数を増していく。
淡い光が重なり合い、周囲が一層不気味な雰囲気に包まれた。
「突っ込むぞ」
俺は剣を振りかざして精霊に向かって
しかし、剣は精霊の身体を通り抜けていく。
「なッ!?」
剣を振るうたび、精霊は霧のように形を失い、また再生するかのように元の姿に戻る。
「当たらない!」
俺は驚きの声を上げながら剣を引く。
精霊たちはまるで影のように剣をすり抜け、淡い光を放ちながら元の位置に戻ってくる。
「物理では倒せないのかもしれないわね」
マリアが冷静に分析しつつ、盾を前に構え直す。
物理攻撃以外、つまりは魔法。
だが、今ここに攻撃型魔法を使える者はいない。
精霊たちは薄暗い光を放ちながらじわじわと接近してきた。
俺たちを取り囲むように位置を変え、まるで逃げ場をなくそうとしているかのようだ。
「何か策はないのか」
俺が焦り気味に尋ねると、ダリウスが周囲を冷静に見渡しながら言った。
「とりあえず退路を確保しつつ様子を見よう。全員、後退だ!」
俺たちはダリウスの指示で少しずつ後ろへと下がり始めたが霧の中から更に精霊が現れ、道を塞ぐように浮かび上がる。
「くそ…逃がさないつもりか!」
剣を構え直すと、目の前の精霊が淡い光を瞬かせる。
次の瞬間、鋭い光の矢を放ってきた。
「来るぞ、避けろ!」
ダリウスの叫び声が響き、俺たちはとっさに身を低くした。
光の矢が俺たちの頭上をかすめ、背後の木々に突き刺さって消えていく。
「思った以上に強敵だな…!」
マリアが盾で防御しながら叫ぶ。
精霊たちは次々に光の矢を放ち、俺たちを執拗に攻撃してくる。
俺は回避に集中しながら、何とか突破口を見出そうと必死だった。
「数がどんどん増えてる!」
ハンナが弓を放ちつつも、効果がないことに歯噛みする。
「くそ、何か突破口はないのか?」
精霊たちの数は増え続け、四方八方から光の矢が飛んでくる。
俺たちはかろうじて攻撃をかわしつつ、逃げ道を探すが精霊たちは行く手を完全に遮っている。
手ごたえのある攻撃ができないままでは、このまま追い詰められるだけだ。
その時、クソ神の作り出す道が視界に表示される。
そして、ハンナが霧の向こうに何かを見つけたかのように小さく叫んだ。
「あれ…!光ってる石碑がある!」
「石碑?」
ダリウスが振り返ると、確かに霧の向こう側に青白い光を放つ古びた石碑がぼんやりと浮かび上がっている。
「何か手がかりになるかもしれないわね!」
マリアが盾を構えながら叫ぶ。
「よし、全員あの石碑に向かえ!」
ダリウスが叫び、俺たちは精霊たちの間を抜け、石碑に向かって走り出した。
精霊たちは俺たちの動きに反応してさらに攻撃を激化させ、光の矢を連射してくる。
俺たちはかろうじて避けながら、ついに石碑の前までたどり着いた。
「これがどうにかしてくれるのか……?」
俺が半信半疑で石碑に手をかざすと、石碑の表面が柔らかく光り始めた。
次の瞬間、まばゆい光が石碑から放たれ、周囲を包み込む。
精霊たちはその光に反応し、後ずさりするように漂い始めた。
「効いてる…?」
精霊たちは光を恐れるかのように一瞬後退し、霧の中にゆっくりと姿を消していく。
「どうやら、この石碑が彼らにとっての結界のようなものだったみたいね」
マリアが息をつき、周囲を見渡す。
霧が薄れ、精霊たちの気配も次第に遠のいていく。
俺たちはほっとしたように安堵の息を漏らし、剣や弓を下ろした。
「とりあえずは切り抜けたか……」
ダリウスが剣を収め、少し疲れた様子で笑みを浮かべた。
「だが、結構やばい場所に来ちまったな」
拠点に帰るための門からかなり離された。
今、この石碑から離れればまた奴らに襲われる可能性が高い。
「とりあえず一旦休憩して、拠点に帰るための作戦を練ろう」
俺たちは石碑の周囲に腰を下ろし、少し休むことにした。
辺りは静まり返り、先ほどまでの精霊たちの恐怖がまるで嘘だったかのような穏やかさが戻ってきている。
しかし、いつまた精霊たちが現れるか分からない。
緊張感はまだ完全には解けなかった。
「まさか鉱洞じゃなくて、こんな場所に来るとはな……」
俺は溜息をつきながら、周囲を見渡した。
「これは帰るのも一苦労かもね」
マリアが盾を降ろし、疲れた顔で答える。
「でも、この石碑が精霊たちに効いたってことはもしかしたら他の場所にも同じような仕掛けがあるかも」
「そうだな。これを目印にしながら進めば、精霊たちの出現を避けて通れるかも」
ダリウスが冷静に分析しながら頷く。
「だが、帰るための道にそれが見つかるかだな」
俺が口にすると、全員が黙り込む。
ふと、マリアが小声で呟いた。
「地図さえあればね」
「来たばかりでそんな物はないですよね」
ないものねだりをしても仕方がない。
今ある情報で帰る方法を下がるしかないだろう。
「……待って。何か光ってる!」
突然、ハンナが石碑の向こう側を指差した。
俺たちが視線を向けると、遠くに淡い光がぼんやりと浮かび上がっている。
それは星明かりや霧の光とは異なり、少し不規則に揺れているように見えた。
「なんだろう、あの光?」
「調べてみる価値はあるかもな。もしかしたら帰る手がかりかもしれない」
全員が静かにうなずき、再び準備を整える。
装備を確認しながら俺たちは慎重に歩き始めた。
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