第13話 植物を増やしましょう
護衛任務があるとしたらこんな感じなのだろう。
ミアが山菜を探している近くにはハンナが警戒しつつ、共に山菜を探していた。
それ以外は周辺の警戒だ。
戦闘経験のないミアがいるからモンスターが奇襲してきた場合、対応は間違いなく遅れる。
発見の遅れは致命的になる。
「芋ですか?」
「フォレストヤムですね。煮込むと甘味が引き立って大変美味しいんです」
茎を引き抜くと何個も連なって一度にたくさんの芋が取れていた。
ぱっと見は完全に太い根だがあんな物が食べられるとは驚きだ。
森の中では基本的に木の実や葉っぱにしか目に行かないが掘り返して探すのも一つの楽しみになりそうだ。
「こっちにプランタビートも。この森なら食用野菜は困らないかもしれませんね」
周囲の音に敏感に耳を澄ませながら、ミアの発見に目を向けた。フォレストヤムやプランタビートの収穫は順調のようだが、ダリウスの表情は険しいままだ。
「気を緩めるなよ。俺たちの存在を嗅ぎつけているやつが近くにいるかもしれない」
ミアはダリウスの言葉に、少し身を縮めつつも笑みを浮かべた。
「分かってます。でも、これだけの野菜があるなら拠点に戻ったとき、みんな喜んでくれるはずです」
ダリウスはその言葉に少し和らぎ、周囲を再度見渡し始めた。
風が木々を揺らし、遠くで鳥の鳴き声が聞こえる。
だが、不思議と違和感があった。
ダリウスの表情が普段よりも険しく、そのせいか森の静寂が少し異常に思えた。
「何か来るぞ……」
低い声で警告を発するやいなや、茂みがガサガサと音を立てた。
次の瞬間、何か大きな影が飛び出してきた。
俺たちははすぐさま武器を構え、ハンナとダリウスはミアの前に立つ。
飛び出してきたモンスターは黒色の毛並みを持つファングウルフだった。
だが、大きさ通常のファングウルフの比にならない。
二回り以上の大きさだ。
「ミア、俺たちの近くから離れるなよ」
「わ、わかりました」
ミアは恐怖に震えながらも、ダリウスの指示通りに逃げ出すことはなくじっとしていた。
「ファングウルフじゃないのか?」
「それの亜種型ね」
ファングウルフは群れで動くがコイツ以外に気配を感じない。
俺は剣をしっかり握り、ファングウルフの亜種をじっと見据えた。
相手は通常のファングウルフの倍以上の大きさで、その黒光りする毛並みと鋭い牙が異様な威圧感を放っている。
これまで戦闘を経験してきたから体が強張ったりすることはなかった。
だが、今回はミアという守るべき存在がいる。それが戦いへの集中力をさらに高めていた。
ミアは山菜のカゴをそっと地面に置き、ダリウスとハンナの後ろに身を隠すようにして退いた。
賢い判断だ。
いつでも逃げられるように対応している。
「ミアに危険がいかないよう私達でこいつを引きつける。準備はいい?」
「問題ない」
「私が前に出る。盾で防ぐからその隙に反撃して」
「了解」
ファングウルフ亜種は低い唸り声を上げ、鋭い目で俺たちをじっと睨みつけた。
次の瞬間、その巨大な体が地を蹴り牙を剥き出しにして突進してきた。
マリアが前方に跳び出し、突進を迎え撃った。
彼女の動きには一切の無駄がなかった。
ファングウルフの亜種が巨体でぶつかる瞬間、盾を構えて攻撃を受け止める。
重い衝撃が彼女の体を震わせたが倒れず、そのまま踏みとどまった。
「今!」
マリアは瞬時に反撃のタイミングを指示する。
俺はその指示を受けて、素早く横から回り込むと鋭い一閃をファングウルフの脇腹に叩き込んだ。
だが、悲痛な咆哮を上げ、巨体を震わせるものの俺の攻撃は致命的ではなかった。
「硬いッ!」
肉質から体毛まで通常種とは比べ物にならない。
舌打ちしながら体勢を整え、振り下ろされた爪を回避する。
「もう一度いくわよ!」
マリアは盾を構え直した。
だが、追撃を恐れてかファングウルフはその巨体を後ろに飛び退かせると、着地と同時に再び攻撃を仕掛けてきた。
今度は前足を大きく振りかざし、俺に狙いを定めていた。
「ッ!?」
その攻撃の速さに驚き、回避行動を取ろうとしたが完全には間に合わない。
その瞬間、ダリウスが鋭く叫んだ。
「アレックス、下がれ!」
声と同時に放たれた矢がファングウルフの目の前に飛び込み、モンスターの動きを鈍らせた。
その隙を逃さずに体を低くし、攻撃の軌道から外れる。
ファングウルフの亜種は苛立ちの声を上げたがその隙にマリアがモンスターとの距離を詰める。
「はぁ!」
マリアは叫びながら、力強い一撃を繰り出し、モンスターの足元に強烈な攻撃を加えた。
その一撃は確実にファングウルフの足にダメージを与え、動きを鈍らせる。
俺はマリアがファングウルフの足を狙ってダメージを与えた瞬間を見逃さなかった。
ファングウルフは足を引きずり、体勢を崩す。
「ハンナ、もう一発援護を頼む!」
俺は叫びながら、ファングウルフの前に回り込み、今度はその喉元を狙って
ハンナは即座に矢を放ち、ファングウルフの肩に命中させ、俺への反撃意思を削いでいく。
喉元への一撃で激痛に吠え、さらに動きが鈍くなった。
その隙を突いて剣を引き抜き、もう一度喉元に剣を向ける。
「これで終わりだ!」
力強く叫び、渾身の力で剣を深く刺し込んだ。亜種の咆哮が一層激しくなり、その巨体が激しく揺れ、崩れ落ちた。
「やった……のかしらね?」
マリアが息を整えながら、盾を構えたままモンスターを見つめた。
しばらくの間、ファングウルフの亜種は地面に横たわり、微かに動いていたがついに完全に動きを止めた。
俺は深く息を吐いた。
剣にはモンスターの黒い血がべっとりと付いていたがそれを振り払った。
「二人とも怪我はないか?」
ダリウスが素早く周囲を警戒しながら近づいてきた。
「大丈夫だ」
マリアも息を整えながら、剣を鞘に戻し、微笑んだ。
「私もよ」
ミアが恐る恐るダリウスの背中から顔を出した。
「大丈夫なんですね。よかった……」
ほっとしたように胸を撫で下ろし、ホッとした表情を浮かべ、カゴを手に取った。
「私もみんなの役に立てるように頑張って山菜を集めます!」
「その意気だ」
「では、私はこの子の解体をしますね!」
ハンナはファングウルフの腹にナイフを突き立て、解体を始めた。
俺もと思い、解体作業を始める。
「何ですかね。これ?」
およそ生物の体内から出てこないであろう紫色に輝く石。
だが、不思議な気配を放っている。
「魔石だな」
ダリウスとマリアも顔を覗かせた。
魔法に関してはダリウスが最も詳しいだろうと手渡す。
「魔法が封じ込められているようなルーン石だが中身まではわからないな」
「まあ、持ち帰ればわかるだろ」
拠点に持ち帰ればクソ神の文字盤が教えてくれる。
「私の方も取れる物は取れました」
「それなら、帰還しよう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます