第6話 英雄達は余力を残しています
「これくらいならまだ行けそうですね」
「そうだな」
まだまだ戦闘に慣れたとは言えない。
だが、ダリウスの指導と模擬戦によって想像以上に実力を付けている。
まだ圧倒的に実戦の経験が足りていないが大丈夫だ。
心配せずともクソ神なら実戦の経験は期待せずとも積ませてくれるだろう。
【第3階層の攻略を始めます。門へと集合してください】
そうだろうな。
きっとおまえならそうする。
「さあ、連戦だが行けるな?」
「いつでも!」
「余裕です!」
「ああ!」
「気を抜くなよ。お前ら」
*
*
*
三度目の別の空間。
景色の早替わりに頭が追いつきはじめ、瞬時に周辺の地形が把握できるようになってきた。
モンスターの確認。
地形の確認。
「……森か」
あたり一面に木々が生い茂っている。
自生している植物からアストラルと同一の地域か。
「近くに敵はいないようだがさっきみたいに隠れている可能性もある。警戒は解くなよ」
一度、手に持った剣を背中の鞘に納める。
全方向を一通り一瞥してから一歩を踏み出す。
「すぐに戦闘になるというわけじゃないのか」
「そういえば最初、私たちが戦った時もしばらく歩いてからゴブリンと出くわしましたね」
「そうなのか……おっと、クソ神からの道案内だ」
視界に光の道が形成される。
モンスターがいつ出現してもいいように背中から剣を抜き、息を潜める。
草木を切り分けて道なき道を歩いた。
「あれが目的地か?」
光の道の先に見えたのは赤い木の実が成っている樹木だった。
それ以外は他に何も無い。
モンスターの気配も一切なかった。
「木の実をとれってか?」
ダリウスは慣れた手つきで木を登っていく。
最初出会った時以外で意識をしていなかったがダリウスは森の中で生きるエルフだ。
自然を生かす生活は得意分野か。
【ダリウスが“アストの実”を入手しました】
【アストの実 : 非常に栄養価の高い木の実。疲労した体を回復するできる】
「味も悪くない。結構いけるな」
気づいた時にはダリウスはアストの実を口の中に放り込んでいた。
「ずるいですよー!」
「取ってくからちょっと待ってろ」
【ダリウスが“アストの実”を入手しました】
【ダリウスが“アストの実”を入手しました】
【ダリウスが“アストの実”を入手しま……
「取りすぎじゃない?」
ダリウスは両手に抱えるほどのアストの実を手にして戻ってきた。
「普段、硬いパンばかりで飽きてるだろうからたくさん食べると思ってな。つい取りすぎた。袋でもあるといいんだがな」
【英雄達が物資運搬のために必要な道具を欲しています。必要な道具を製作できるか確認してみましょう】
「……そういえば、倉庫に汚い皮があったな」
任務を完了するたびにお金とくたびれた皮とかいう物が表示されていた。
気になって物置のような古屋に入るとそこには確かにくたびれた皮が置いてあった。
「アレはゴブリンの服がなんかでしょ」
「運ぶだけなら問題ないだろ」
「洗って使えばいいんじゃないですか?」
「え? みんな大丈夫派なの?」
そうだった。
マリアは見習い兵士だったな。
ということは都会暮らしの人のはずだ。
綺麗な街並みに淀みのない空気。
逆に今まであの汚い小屋でよくも文句ひとつ言わずに寝ていた者だと感心する。
「そ、そうよね。こんな状況。使える物は使うべきよね。ごめんなさい」
どことなく納得が言ってないように早口で自分を納得させるようにそう言い放つ。
「でも、今はその皮すらありませんしどうするんですか?」
「目標と出くわすまで食べ歩きでいいだろ」
ダリウスの手から四つほど手に取り、口に運ぶ。シャリっと水々しい音ともに口の中でほんのりと甘味が広がる。
「……うまいな」
荷運び時代から甘味とは無縁に等しかった。
初めて感じる味覚の反応に少々戸惑い、ボソッとそんな事を呟いてしまった。
「それもそうですね」
ハンナもアストの実を手に取り、口に運ぶ。
美味しくて騒ぐかと思ったが特に無反応だった。
これくらいの甘味ならいつでも食べられたのかと少し自分の過去が悲しくなる。
俺だけはクソ神に少しは感謝しないと行けない立場かもな。
「別の道案内も始まったな」
視界に新たに光の道が構築された。
今度こそはモンスターだろうか。
この窓で目標物が何かまで教えてくれれたら助かるんだがな。
しばらくして岩が剥き出しの山が見え、目標地点はあそこだろうと近くまで行くと洞窟が視界に入る。
それと同時に僅かな獣臭が鼻腔を突いた。
ゴブリンの汗をかいた服をトイレに干したのような臭いとは違う。
「まずいな。全員戦闘準備」
「何がまずいんですか?」
「野生のモンスターの多くは鼻が効く。俺たちがこの臭いに気づいたということは既に匂いの持ち主も俺たちの存在に気づいている可能性が大きい」
クソでも被っていれば発見されにくいんだろうがもう手遅れだろう。
別の強烈な匂いでも嗅いだらそっちに気を取られる可能性があるかもしれないが……。
ふと、地面に置いたアストの実に視線がいく。
もしかしたらと思い洞窟に向けてアストの実を投げつける。
ベチャッと地面でアストの実が潰れると洞窟内から身を潜めていたモンスターが顔を出した。
「ファングウルフだ」
【討伐対象を発見。任務が開始されます】
【ファングウルフの討伐】
黒茶色の体毛。
耳が立たせ、周りを警戒しながらアストの実の匂いを嗅いでいる。
「どうする?」
「まだ、何体いるかわからない。奴の背後に周り討伐したのち、洞窟内を警戒しろ。ゴブリンと比べ動きが早いから気をつけろよ」
姿勢を低く、茂みの中からファングウルフの背後に回る。
ダリウスは指を三本立たせて、飛び出すタイミングを俺たちに送る。
3……2……1……。
拳が握られるの同時にダリウスが一番に飛び出し、一撃でファングウルフを斬り伏せた。
そして、ダリウスと洞窟の間に俺とマリアが間に入ることで前、中、後衛の陣形を取る。
「バウッ!バウッ!!」
洞窟内から複数のファングウルフが飛び出してきた。
言われた通り、迫ってくる速度はゴブリンなんか比べ物にならない。
迫力もファングウルフの方がずっと凄い。
「……ぉおお!!」
口を開け、顔から飛び込んできたファングウルフの口の中に刃を差し込み頭部を飛ばす。
「いける!」
この程度でやられるほどやわな訓練はしてきてはいない。
ゴブリンから急な変化に対応できるかの不安は今の一撃で吹き飛んだ。
狭くなっていた視界が広がり、戦場の情報を一瞬のうちに整理する。
マリアも一体討伐。ファングウルフ後衛の一体はハンナの矢によって撃ち抜かれていた。
【 warning!! 】
「ダリウスさん! 別働隊です!」
巣窟から離れていた別の群れが帰ってきてしまった。
それにまだ、洞窟内からファングウルフの足音が聞こえてくる。
頭から血が降り、手先が冷えるような感覚。
「別働隊は俺がなんとかする! お前達は三人で本体をなんとかしろ!」
「……ッ!」
別働隊もあれだけとは限らない。
1秒でも早く、洞窟内のファングウルフを倒し切るしかない。
一振り一振りの間で息を吐く瞬間もない。
呼吸を止め、力を抜かない一撃。
自分でも理解できてしまうほどに剣技に繊細さが欠けている。
その一瞬の気の緩みを感じとられ、ファングウルフが二体横を抜けていく。
「すまん! 抜かれた!!」
「大丈夫です!!」
2体の同行を見送る暇はなく、目の前のファングウルフに向けて剣を振るった。
「何体いるの!?」
「わからん!!」
次々にファングウルフが洞窟内から飛び出してくる。
【ハンナが出血状態になりました】
ハンナに何体のファングウルフが向かった?
わからない。
数を数える暇なんてない。
……クソッ!
「おまえらどけ!!」
俺とマリアの間を抜け、ダリウスがファングウルフを次々に討伐していく。
俺が一振りする間に四度は振るわれる神速の太刀。
人が辿り着ける領域の最高地点と思わせる美麗の剣技を目の当たりにした。
【任務完了】
・3000ゴールド
・ファングウルフの牙〈F〉× 12
・ファングウルフの毛皮〈F〉× 9
【任務が完了されました。拠点へ帰還します】
【英雄のレベルが上がりました】
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• レア度: ★★☆☆☆
• キャラ名: ハンナ
• 職業: なし
ステータス
• レベル: 2 → 3
• 筋力: 11 → 12
• 体力: 10 → 11
• 敏捷: 11 → 12
• 知能: 10
• HP: 95 → 108
• MP: 0
スキル
• 狩猟弓術 (初級) - レベル 2 → 3
• 敏捷強化 (初級) - レベル 3
• 体力強化 (初級) - レベル 2 → 3
• 植生学 (初級) - レベル 1
固有スキル
• なし
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レア度: ★★☆☆☆
• キャラ名: マリア
• 職業: なし
ステータス
• レベル: 2 → 3
• 筋力: 11 → 13
• 体力: 9 → 10
• 敏捷: 12 → 13
• 知能: 12
• HP: 105
• MP: なし
スキル
• 帝国剣術(初級) - レベル 3
• 防御術(初級) - レベル 1 → 2
• 植生学 (初級) - レベル 1
固有スキル
• なし
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