第7話 英雄達の疲労が溜まっています
【自由探索任務が開放されました】
【自由探索任務はログアウト中でも英雄に出撃許可を与えておく事で英雄達の判断で出撃し、訓練の場としての活用。また、素材を入手してきます。
注意 : 自由探索任務で英雄達が死ぬ場合があるため出撃許可は慎重に出してください】
【カルミナ平原が解放されました】
【カルミナ平原 : 何もない平原ですがこの地特有の血止めの薬効を持つ、カルミナ草が入手できます】
【アストラルの森が開放されました】
【アストラルの森 : 自然が豊かで基本的な薬草、鉱石素材を入手することができます】
【パーティ1にカルミナ平原とアストラルの森への出撃許可を与えます】
【……ログアウト】
完全に陣形を崩された。
ダリウスのおかげで最悪の状態は回避できた。
一瞬でファングウルフ達を薙ぎ倒していく姿が脳裏で何度も再生される。
「訓練中かなり手加減していたんですね」
「いや、まあ少しな」
……少し。俺たちが三人でギリギリだった集団を容易く倒し切ったのだから少しなんてものではないだろう。
それにまだ、あれが本気だったかと言われると違うように感じる。
ダリウスはまだ、実力を隠している気がした。
「それよりハンナ、怪我は大丈夫か?」
「はい、戻ってきたら傷は消えました」
拠点では外傷といったものは一瞬で治る。
疲労は残るが多少危険な訓練でも死ぬことはない。
「でも、すいません。しばらくは立てそうにないです」
「なら、水を取ってくる。これでも食べて待っていてくれ」
疲れ切った三人に向けてアストの実を投げ渡してきた。
「まだ、持ってたのか?」
「連れ戻されるギリギリに茂みに置いた何個かを掴んでおいた。こういう
まさかとは思いながらアストの実を口に運ぶ。
歯で果物を砕くとダリウスが言った通り、森で食った時よりも水々しさと甘さを一段と強く、口の中に広がっていく。
「たしかに」
「だろ?」
ニカッと笑いながら井戸のある方向へ歩いていく。
その歩行に一切の疲れを感じさせない。
訓練によって実力が徐々に近づいてきていると感じていたがかなり遠い背中だ。
「強すぎるわね。あの人」
「あの任務、ダリウスさん一人で良かったんじゃないかと思ってますよ」
「実際そうなんじゃないか? あの戦いぶりからすると。あの後、別働隊は何匹いたかわかるか?」
あの時、俺は後ろを確認する余裕なんてなかった。
体感だがそれなりに長い時間戦っていたと思う。
最初の数体だけならダリウスがこっちに戻ってくるまでそんな時間はかからなかっただろう。
「私は確認する余裕はなかったから……」
「一応、正確な数まではわかりませんでしたが結構な数の死体が転がってましたよ。
洞窟内から出てきたモンスターちょうど同じくらいでしょうか」
つまりほとんどダリウスが倒してしまったという事だ。
訓練ではダリウスとマリアの身体能力に大きな差はないように感じる。
故に強さに差をだしているのは剣術。
実直で手堅く重いマリアの剣術と早く鋭いダリウスの剣術。
どちらが良いなんて俺にはまだわからないが。
状況によってこの差は変わるかもしれない。
「すまん、待たせた」
両手に四つずつ水の入ったコップを一人ずつ配り、この場に座った。
「とりあえず、みんなお疲れ様」
一番の功労者が何を言っているのかとダリウスが水を口に入れるのを確認してから俺も水を飲んだ。
「まさか、あんなにモンスターがいるとはな。でも、皆んなよく対処できていた」
「対処ができたのはほんの最初だけです。私は数に圧倒されて気づけば身を守る事に集中してましたから。あの場を切り抜けられたのはダリウスさんのおかげです」
「そんな事はない。三人が数を減らし、引き付けておいてくれなければあの場は切り抜けられなかった」
「謙遜がお上手ですね」
「謙遜はもっと強いやつがするもんだ。俺は謙遜できる器も技量もない」
荷物持ちで何人かの憲兵と行動を共にした事があるがダリウス以上の技量を持つ者は見たことがない。
「ダリウスより強い奴がいるのか?」
ふと出た本音。ダリウスはクスッと笑うと昔を思い出すように夕暮れの空を見上げる。
「師匠がな。アレはバケモンだった。だが、それも小さく狭い田舎村の話だ。一人でどんなモンスターが来ても倒す村の英雄」
「そんな人に教えてもらっていたならもっと自信を持ってもいいんじゃないですか? 実際私の目からはダリウスさんも十分にバケモノみたいな強さですよ」
「確かに。見習いの時でもファングウルフのあの数を薙ぎ倒す人はそうそういませんでしたよ」
「……そうなのか」
懐かしむように触れる剣の柄。
手にできた古傷から思い出を辿るように。
「なら、俺はもっと誇るべきだな。それとクソ神に少しは感謝しないといけない。自分の力を試せるこの場に連れてきてくれた事を。お前達のような強者がいるこの世界に導いてくれたことに」
ダリウスは立ち上がると目一杯の伸びをし、大きな深呼吸をした。
「さあ、明日も訓練だ。疲れを残すなよ」
「はい」
まだ、俺はダリウスに強者と呼ばれるほどの力量はない。
だから、必ずこの人に強いと言わせようと心に誓った。
ダリウスの背中が遠ざかっていくのを見送りながら、俺たちはそれぞれの思いを抱えていた。ハンナはまだ体の疲労が残っているようで、深いため息をつく。
「本当にすごい人ですよね。どうしてあんなに強いんだろう…」
「ただの生まれつきってわけじゃないでしょうね。訓練や経験の積み重ねであそこまでいけるのかもしれない」
マリアはダリウスの背中を見ながら、そう呟いた。
しかし、その言葉を自分自身にも言い聞かせていたのかもしれない。
自分だって、もっと強くなれるはずだ。
もっと力をつけて、いつかはダリウスに並ぶことができるかもしれないと。
「私たちも、もっと鍛えないとな」
「そうですね。次はもう少し役に立ちたい」
ハンナが頷きながら立ち上がり、足元がふらつくのを堪えつつ、軽く体をほぐす。
「明日も訓練だし、今日の疲れをしっかり取らなきゃ!」
その言葉に俺も頷いた。
今後辛い任務が続く、俺達にとっては命がけの戦場が。
ふと、遠くからダリウスの声が聞こえてきた。
「お前たち、まだグズグズしてるのか? 早く休め!」
俺たちは顔を見合わせ、苦笑しながら足早に戻ることにした。
明日の訓練に備えて、少しでも休息を取るために。
その夜ベッドに横たわりながら、俺は今日の戦いのことを思い返していた。
ファングウルフとの戦い、ダリウスの圧倒的な力、そして自分の無力感。
次の戦いでは、もっと力をつけて立ち向かいたい。
そう決意しながら、眠りについた。
翌朝、まだ薄暗い時間に目を覚ますと、既にダリウスが訓練場で剣を振っていた。その動きは鋭く、昨日の疲れなど感じさせない。
「早いな、ダリウス」
俺が声をかけると、彼は剣を止めて振り返り、少し笑みを浮かべた。
「お前も、すぐに始めるか?」
「そのつもりだ」
「なら、今日の訓練はさらに厳しくするぞ」
ダリウスの瞳に強い光が宿る。
その言葉に俺は身が引き締まるのを感じた。
今日はどんな訓練が待っているのか。
期待と不安が入り混じる中で、俺は彼に挑むつもりで剣を手に取った。
「さあ、始めよう」
ダリウスの掛け声とともに、新たな一日が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます