第9話 自由探索任務を行いましょう①
「実戦訓練? 今もやってるだろ」
「今のとは別のモンスターを相手にだ」
「でも、あの扉はクソ神がいないと開かないじゃないですか?」
「私達もそう思ってたけどこの前の任務完了後に自由探索任務ってのができるようになってたでしょ。そうしたら、カルミナ平原とアストラルの森に行けたわ」
そういえば3階の任務完了後に視界の端で文字列が並んでいた。
鬱陶しくてすぐに消してしまったが。
「それならカルミナ草とアストの実も取りに行けるのか」
鍛冶場らしいところで最低限の裁縫道具が揃っていてくれたおかげでバックも出来てる。
薬効がある物はたくさん用意しておいた方がいいだろう。
「それだけじゃない。アストラルの森には恐らく色んな動物がいる。そろそろ食料が尽きるから肉を取りに行こうと思う」
「肉!? あっ……」
顔が火照っていくのを感じる。
しまったと顔を俯かせて、誰にも見られないように顔を覆った。
「意外ね。食べ物に反応するなんて」
「うるさい」
今まで腹の足しになる物しか食べてこなかったんだ。肉なんて物はどこにでもいるネズミや森にいる蛇の物くらい。それも隠れて食べるせいで数ヶ月に一度ありつけるかどうか。
それにここに来てから運動量の割に食べる物は腹に貯まるだけのパン。
腐ってないだけマシだと食べてはいたがこの広い拠点には驚く事にネズミ一匹もいやしない。
「まあ、そんな感じでアストラルの森に行くぞ。モンスターに出くわす前提の実戦訓練も兼ねてるから気を抜くなよ」
*
*
*
【パーティ1がアストラルの森に入場しました】
【粗雑なバック〈F〉を装備しました】
【粗雑なバック : 作りの荒いバック。職人が作ったわけではないため耐久値が低く、戦闘時に壊れやすい】
水で洗った皮に紐で縫い合わせただけのバックだが無いよりかはマシだろう。
マリアが裁縫経験がありそのおかげ誰が作るよりも頑丈に仕上がっている。
「戻る時はどうするんだろうと思ってましたけどクソ神がいない時はこういう風に行き来できるんですね」
扉を潜るとこれまで何もない場所に放り込まれていたが今回は不自然に空間に青い穴が空いていた。
クソ神が命じる任務ではこの穴はない。
絶対に任務を遂行させるためにわざと閉じているのかそれとも普段は開かないのか。
どの道、死地に送り込んでる時点でクソである事には変わりはない。
「とりあえず、アストの実がある場所に行こう。その後にあのファングウルフ達の巣だ」
前みたいに光の道がないため、記憶の中の森を歩く不安はあったがさすがエルフだった。
迷いなく直線ルートでアストの実が成っている場所に辿り着く。
木には今日だけでは取りきれない程の身がたくさん成っていた。
「バックが壊れない程度に詰めるぞ」
「これから戦うんですよね? そんなに入れたら危ないんじゃないですか?」
「だからこそだ。戦いにくい環境を自ら作り鍛える。それに一日で終わる任務だけとは限らない。荷物を持って戦う訓練もしといた方がいい。その点はマリアの方が理解してるんじゃないか?」
「そうですね。私が受けた訓練でも一週間の遠征訓練とかありましたし」
「まさか、一週間やるとか言わないですよね?」
「まだな」
笑顔を向けられたハンナは凄まじく嫌そうな顔をしながらアストの実を拾い上げると一つ口の中に放り込んだ。
「食うなよ」
「たくさんあるんだから一つくらいなら変わらないですよ」
それもそうだと俺も一つかじって後はバックの中に詰めていく。
まだ破れないだろうと思うくらいの量まで入れると背に乗せて立ち上がる。
「うわ、なんか落ち着く」
荷運びの仕事をし過ぎたせいか背中にあるこの重みが嫌なことに妙にしっくりとした。
「おも!」
ハンナがそう言うが訓練の時やなんかでは俺より力は上だった。
一度弓を引かせてもらったが俺にはろくに飛ばせなかったからハンナが重いというのは冗談だろう。
ダリウスは当たり前としてマリアも涼しい顔で持ち上げている。
「重いが訓練だ。我慢しろ」
「はーい」
腑抜けた声で返事をするが僅かにした腐敗臭で目つきが代わり、すぐさま弓を構え、風向きから腐敗臭がする方向に視線を送る。
「この匂いはゴブリンですかね」
まだ、姿を現していないが微かに聞こえる呼吸と物音。
だが、近づいてくる様子がない。
様子を伺っているのか?
「数は二体だな」
音で数の割り出しは耳の良いエルフだからこそできる該当だが人族でも位置はだいたい絞り込めた。
……早く試したい。
「アレックス。一人でやれるな」
俺が戦いたくてソワソワしているのをどうやら見抜かれたらしい。
「余裕!」
ゴブリン達はまだ茂みに隠れている。
まずは隙の大きい技じゃなく、小手先の技。
踏み込みの浅い横振りが茂みを掻き分け、ゴブリン達を茂みから炙り出し、力強く一歩踏み切った。
この技は軽い一撃から本命の一撃を与える二連撃技。
「ふっ!!」
放った一撃はゴブリンの胴体を捉え深々と刃がその肉体を切り裂いていく。
そして、次の技の為に息を整え、逃げるゴブリンに向けて茂みを駆ける。
全速力から姿勢を低くし下段から突き上げる一撃がゴブリンの心臓を穿つ。
「……ギャ、ガァ」
訓練で何度もやり、身体に叩き込んだ技の実戦。思い通りに身体は動いた。
技も練度では劣るが模倣できていたはずだ。
だが、ゴブリン二体では訓練と変わらない。
より緊迫した状態でなければ本当の実力は現れない。
「まずまずだな」
ダリウスはそう言うがこれではダメだ。
緊張が足りない。
身体が硬直してしまうようなあの感覚が足りない。
「ダリウス。早く次に行こう」
「そうだな」
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