第20話 バージョン2




「……こりゃ〜酷い有様だね。これ満がやったんじゃないよね?」

「当たり前だ。わざわざこんなことする必要がない」

「必要があったらしそう」

「そりゃ必要だからな」

「…………はぁ。行き着くところまで行き着くとこうなるんだなぁ……私も気を付けよ……」



 夏神町復興前線基地と甲斐田が言っていた夏神高校は壊滅した。


 ゾンビとゴブリンと、ついでに様子がおかしい人間が暴れ回り完全に拠点としての機能を失った。


 それが昨日のことだ。


 ちなみに百々目坂米と葉矢草花は裏口の方で死体があった。切り傷や打撲跡があったことから、おそらく内輪揉めで殺されたんだろう。それか洗脳状態の人間に殺されたか。


 朝尾英樹とつるんでいたし、洗脳状態の人間に襲われたとは考えにくいが……何をやったんだろうな。


 できれば俺の手で死んで欲しかったが、まぁいい。奴らの意思も運命も、ここで終わった。


 この血と肉と蛆が湧いている場所が、奴らの旅路の終着点だ。


「てか生徒会長は?」

「襲ってきたから殺した」

「……まじ?」

「まじ」

「まじかー……勝手に動き回ってた相方が殺人してた件」


 ドン引きしたような表情で身体を擦るかごめ。


 お前も俺と同じ状況、同じ能力があれば殺すだろうに。攻撃されてるんだからな。


「かなり魔力が増えたぞ」

「悪魔か己は」

「……さて、物資を回収するぞ」

「あい」


 校舎内に入り、魔力を廻して巨大な蝿や羽の生えた目玉を叩き落としていく。死体の周りにこいつらは湧きやすい。


 まぁ殺傷能力は今のところわかってないので、そんな危ないやつでもないのかもしれない。殺したら魔力が成長するので殺すが。


 あとどれくらい必要なんだろうな。あの鬼を殺すのに必要な魔力は。


 薄くそんなことを考えながら、貯蔵室の扉を開ける。するとそこには多少持ち去られた食料たちに、再起を誓う文章が書かれた紙が置いてあった。



/*未だに何が起こったのかはわからない。

だが、突然仲間が武器を振り上げ、味方に牙を剥き、ゾンビがゴブリンと戦っていた。

きっと何らかの《魔法》によるものだ。

我らが生徒会長はあの恐ろしき悪魔に殺されてしまったが、おそらくあの男が全ての元凶だろう。

遠目からでよくわからなかったが、生徒会長を慰めている朝尾君を瞬間移動で殺していたし、なんて恐ろしいやつなんだ。

今この文章を書いている最中に、あの悪魔は突然現れて私を殺すかもしれない。

だが私は屈しない。いつか、生徒会長から受け継いだ不屈の焔は我々の中で今も輝いているよだから。

これを読んだものよ。夏神町のせせらぎが待つ場所で会おう。

我々はこんなところで終わらない。終わってたまるものか。仇を、共に*/



「……」

「……」

「なんか、盛大に勘違いされてない?」

「そうみたいだな」

「少しは気にしろ?」

「俺は正当防衛するだけだ。それに魔法使いを殺せば魔力が大幅に増える」

「なんてやつだ……ま、《直感フォーチュン》は反応してないし、きっとこれで正解だったんじゃない? わかんないけどね」


 そんなこんなで俺たちは物資を回収し、家に帰宅した。


 ペットボトルの水を浴びて、深く思考に没頭する。


 今のままではダメだ。他にも魔法使いが多く存在するとわかった以上、更に経験を積まなければ俺が殺されてしまうかもしれない。


 協力して鬼を討つことも考えたが……どうせなら俺直々に殺してやる。結局仇討ちなんてものは生き残った側の自己満足だからな。


 より満足してから死んでやる。


 本当ならまともな生徒会長と戦いたかった。きっと多くの経験をくれたことだろう。







 俺たちはなんだかんだで、もう1ヶ月は崩壊した世界で生活していた。殺して殺して殺して、家の周辺に居る敵対生物を殺し尽くした頃に、それはやってきた。


 いつものように物資を回収して、かごめがふと空を見上げた。



「__どうしようもないねぇこれ」



 冷や汗をかきながら、ぼそりと呟かれたその言葉。その言葉の意味を理解する時間すらなかった。


 ふわり。


 空から何かが降ってくる。白く、ふわふわとして__羽?



「絶対に触ったらダメ!」

「《逆転リバース》。そんな危ないものなのか」



 手を伸ばした瞬間制止されたので降ってきた羽の重力を逆転する。その羽はまるで雪のように降り続けていた。


 真っ白。雲海に包まれたみたいだ。


 気付けば空の色すら見えない。


 やってきた、というより、舞い降りた。こういう表現が正しいのかもしれない。運命とか幸運とか、人の手ではどうしようもない人知の外側の気配。


 架かる光の柱。幻影、もしくは天啓か。天に現れた大いなる人型。



『__ほう、よく生きているものだ。どこの世もやはり人の生き汚さは変わらぬか』



 世界に振動が走る。音ではない、思念の振動。


 いつぞやのクソうるさいノイズみたいだ。



『あるいは、黒き太陽に微笑まれた者の仕業か……? どれ、__《衝撃》、《土》、《掌握》、《祈り》、《洗脳》、《不死》……くく、くくくくく、死に過ぎだ』



 笑いが去ったあと、その天使は何処か遠方を見つめて呟いた。



『……ほう。《落星》が傷を負っているとはな。存外やるではないか。人間__というより《英雄》か? ……Arletha G. McDonald、か。覚えておこう。言語が多いと煩わしいな』

『アレから引き出したのはいいが、やはり一部の例外を除けば人間では扱いきれぬ代物のようだな』



「……なんかごちゃごちゃ言ってるが、敵か?」

「……さぁ? だとしても喧嘩売っても無駄だからね。多分あれ幻影とかそういうのだし。皆が同じ光景を全く同じ角度で見えてると思うよ」



 要はARゴーグルみたいなものか。あれだけ凄そうで、如何にも黒幕っぽいやつを殺せたら間違いなく強くなれると思ったんだが。



『……おっと、我が主の命を果たさねば。異界の全てに祝福を与えよう。これは慈悲である。これは慈愛である。唯一にして至尊たる我が主の恩寵をここに』



 天使が手を掲げ、天上から光の奔流が流れ出す。


 輝く空が堕ちて来る。


 さすがに回避不能だな、これ。隣のかごめの腰に手を伸ばし、俺たちは光に包まれて__



【藍田満】

【位階:27】

【律:《逆転》】

【所持:《殺生適性》《冷徹》《英雄殺し》《戦闘の天才》】

【称号:《遺された者》《影払い》《人殺し》《希望を踏み潰した者》】



 なんだ、これ。



『仕事は終わりだ。種は撒いた。これより世界は第二段階へと移行する。より強き魔物が、より強き魔獣が、より強き■■■■■■■の理が侵食する』

『……果たして生き残れるかな。楽しみにしている』



 唐突に天使は消えた。視界を埋め尽くすほどの天使の羽は消えており、何が何やら。



「よくわかんないけどさ。バージョン2……アップデートってこと?」

「多分な」



 バージョン2の世界らしい。



「……それと、手」

「ごめん」



 腰に回した手をぺしっと叩かれた。


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リバース;リバース〜人格破綻者は人、鬼、ゾンビ、次々と追加される異界の法則を乗りこなすようです〜 歩くよもぎ @bancho0000

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