第17話 復讐再起




 前方に6体のゾンビ。加えて背後に揺れる影がひとつ。


「あ  ぁぁあ    ぁ ァァァア!!」


 薄暗い雲の下で、俺は戦い続けていた。家から持ってきた金属バットを振りかぶり、まずは1体のゾンビの脳漿をぶちまける。


 その間に襲いかかるゾンビたちだが、俺を襲う敵はお前たちだけじゃない。


「《逆転リバース》」


 最も後ろに居るゾンビと場所を逆転させ、そのまま横に転がり込む。背後からはぐちゃぐちゃと音がしており、影の刃がゾンビたちを横に両断していた。


 上半身と下半身がぐちょりと地面に落下する。


 影の刃は伸び続け、一旦は見失った俺を再び見つけたのか、円を描くように回りこちらに飛来する。


 多少腕を強化し、金属バットで打ち上げる。だが打ち上げたところで光がなければやつを倒すことはできない。


 打ち上げられた影の刃は回転。そして再びこちらに向かってくる。


 ……面倒くさいな。打ち払う一瞬だけ強化するようにして燃費の向上を狙ってはいるが、そもそもこんな時間掛けたくない。


「《逆転リバース》」


 俺と位置を逆転させると、俺は最も暗い場所に転移した。影の刃の発信源だ。揺れる影は元いた俺の位置に居るはず。


 足に魔力を廻し、加速。元の位置には僅かな明るさもない真っ黒な影がうねうねとしていた。


 俺を殺そうと影の槍を打ち出してくるが、身を屈めて避ける。お前たちの伸びるそれは直角に曲げたりできないんだろ?


 だからさっき円を描いて俺を狙った。


 そのまま接近し、平面の暗黒にバットを打ち付けた。打ち付けたコンクリートがひび割れ、悲鳴のような音を鳴らして揺れる影は消えた。


「……ふぅ」


 月があまり出ていないとここまで面倒臭くなるとは。効率よく魔力を強化するという目的なら月がないときに影と戦うことは間違いなく即却下だが、戦闘技術の向上という目的もある。


 戦うしかないな。


 俺の総魔力はどれほどになったんだろうか。大体2倍近くなっている気はするが……かごめはココアも飲まず寝てしまったしな。確認してもらうこともできない。


 ……もうそろそろ日の出か。空の向こうが僅かに赤らんでいる。


 昼間に影共を見つけることはなかったし、恐らく下水や地下などの暗い場所に居るんだろう。


 この程度ではまだ足りないはずだ。あの鬼を殺す力には、まだ程遠い。もっと強くならなければ。


 もっとたくさん、殺さないと。







 家に戻り、玄関に置いてある水で金属バットを洗い流して中に入ると、むすっとした様子のかごめがリビングで寛いでいた。


「……おかえりっ!」

「ただいま」

「外出てたでしょ」

「ああ」

「私を寝かしつけた後にっ!」

「ああ」


 なんで機嫌悪いんだこいつ。意味がわからない。


「……くそ芋陰キャきも長前髪め」

「お前酷いぞ」

「酷いのはお前じゃ! あーイライラする。……見てて鬱陶しいから前髪切っていい?」

「いいぞ。なんなら坊主でもいい」

「それは一緒に居る私が嫌」


 かごめはハサミを持ってきて、家の外まで連れてこられた。どうやら外で散髪するらしい。


 確かに家の中じゃ髪の毛が散らばりそうだな。賢い選択だ。


「髪の毛切れるのか。かごめ」

「……ま、家庭の事情的なやつでね。私も自分で切ってるし」

「凄いな。好きに切ってくれ」

「言われなくても」


 日が昇った直後の風は気分が良いな。目を閉じて、頭の重みがなくなっていく感覚を享受する。


 チョキ。


 音がする度軽くなる。


「……どうせなら後ろとかも切っちゃうか。ウルフとかしてみる?」

「ウルフと言われてもよくわからない」

「こむぎは好きって言ってたよ」

「それで頼む」

「うわぁ…………」


 軽口を叩きながら、散髪が進んでいく。


 大地震前にもこむぎに恥をかかせないために散髪には行きたかったが、あいにく俺の金は奴らに搾取されていたからな。


 あいつらのせいで俺の金も時間も奪われたんだ。こむぎに費やす貴重な時間を、奪われた____。


 そうだ。俺は奪われた。


 こむぎとの時間を。こむぎに費やすための金を。こむぎのための行動を。


 死んでしまったこむぎに、もっと多くのことをできるはずだったんだ。あいつらが、あの悪魔たちが居なければ、もっと。


「何笑ってんの?」

「……いや。少し用事ができたと思ってな」

「……笑ってんの、? 満が?? うそ、すっごい邪悪……」


 何やら驚いているがどうでも良くなった。


 百々目坂米。

 葉矢草花。

 小木村暑男。

 朝尾英樹。


 死ぬ前の心残りに追加されたぞ、悪魔どもが。お前たちは必ず俺が殺す。


「初めて見たな。満が笑うの」

「そうかもな。自己満足のためにやることを、やりたいことを思い付いたんだ」

「ふーん? いーじゃんそういうの。前髪行きまーす」


 鼻歌を歌って気分良さそうに切っていくかごめ。


「……うそー……ま、まぁこむぎのお兄ちゃんだし? そりゃ顔面偏差値高いかぁ! でもこいつの顔が良い事そのものが腹立つ。ナチュラルサイコパスのくせに」

「文句を言うのか褒めるのかどっちなんだ」

「うるさい。えぇ……この中性的な顔でウルフ……? ピアスなんかも付けちゃったら女を殴ってそうになっちゃうねぇぇぇ……むしろ私が殴られたい」



 後半かごめのテンションがおかしかったが、無事散髪は終わった。


 やるべきことは早めにやろう。


 仮眠を取って、また出戻りだな。きっと生きてるだろう? クズども。



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