リバース;リバース〜人格破綻者は人、鬼、ゾンビ、次々と追加される異界の法則を乗りこなすようです〜

歩くよもぎ

第1章 覚醒

第1話 法則浸潤




 世界は変わらない。


 これは誰もが心のどこかで知っている不条理な真実だ。誰が死のうが生きようが、結局世界は続いていく。


 鳩尾に右腕が突き刺さる。痛い。

 くの字に曲がり、下がった肩を蹴られる。痛い。

 倒れたまま腹を踏まれる。痛い。

 


「……ふぅぅぅん……ねぇみつをくん。わかるよな? 俺らが言いたいこと」


 倒れた俺の財布から勝手に金を取り出し、ひらひらと千円札を見せびらかす。


「……どうしろって、ぶふっ」

「おおっと、お前の声きもいから聞きたくないの。足りないよな? 今月3万つったよな? なら何すればいいかわかるよなぁ?」


 声を出そうとして体を起こすと、顎を蹴り上げられ、また地面に仰向けに倒れてしまった。うすぼけた視界に写る4人の姿。


 悪魔よりも悪魔らしい、人の全てを根こそぎしゃぶり尽くす人の姿をした悪魔だ。


「……ごめん」

「ごめんで済んだら警察は要らないんだよねぇ! まぁお前みてぇな馬鹿にはわっかんねぇか! どうせ未来も底辺這いつくばって、うじうじ生きてくんだろ? そうだよな?」

「……そうかも、しれない」

「よかったぁ! 同意が貰えて。どうせ生きる価値ないんだし、お前近くのコンビニで万札盗んでこいよ」

「え」


 その要求に凍り付く。無理だ。最近のコンビニは監視カメラもちゃんとあって、防犯対策も成されている。


 それ以前に俺にそんなことできない。家族に、妹に迷惑が掛かってしまう。


「え。じゃねぇんだよ。やれっつったろ? ならお前はやるしかない。それとも可愛い可愛い妹に手ぇ出されてぇか?」

「や、めてくれ」

「あ?」

「……やめて、ください。やります」


 にっこり。悪魔が嗤った。


「んじゃ決まりだ。3日以内に頼むよぉ?」

「そーそ。あたしらも金ないんだから、早くしてよ? あんまり遅いとアンタの裸でも撮ってネットにあげるから」

「帰りにカラオケ行かね?」

「いーね! 俺隣のクラスから女適当に集めるわ!」


 ゲラゲラと下品に笑い、悪魔たちが去って行く。乱暴な足取りが学校の屋上から消えていき、代わりに小さく生徒たちの声だけが聞こえる。



「…………なに、してんだろ。俺」



 ほんと、俺もあいつらも全部くだらない。


 虚無感。


 身体を襲う鈍い鈍痛が鬱陶しい。痛みに長いこと晒されたせいでそこそこ慣れてはいる。慣れてはいるが、鬱陶しいことに代わりはない。


 虚ろな目を空へ向け、そしてそれに気付いた。



 真っ黒な太陽。



 “黒”に染められた太陽が、ひっそりとその輝きを変容させていた。


「……閃輝暗点か何かか?」


 ぼんやりと見詰めてみるが、何が変わるわけでもない。太陽が変わったとして、俺の生活は変わらない。


 全くくそみたいな人生だ。だが、俺が死んだら妹が悲しむ。


 数分休んで、俺も早く下校しようとして____


 そして、突如校舎に走った衝撃。否、これは衝撃ではない。揺れ動く校舎、倒れていく民家。上がる悲鳴。


 何が起こった? ……地震、か?


 今まで経験した地震を遙かに越える馬鹿げた規模の、大地震。


 世界が揺れる。


 頭が、割れるように痛い。耳鳴りがする。世界が悲鳴を上げている、そんな感覚すら覚えるほどの酷い音だ。


 く、そ。こんな、とこで倒れてる場合じゃないってのに! 



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 うるさい、うるさいうるさいうるさい! 誰なんだ、くそっ。長々と意味がわからないことを! 頭痛に加え視界が歪んできた。脳がズレていく、そんな馬鹿みたいな妄想が浮かびあがる。


 吐き気が、くそ。


 こむぎが危ない。助けないと、俺があの子をっ、助けないといけないのに!


 激しくなり続ける地震と頭痛。


 それに、俺は____

 


 


 

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