第11話 夏神高校到着
「……彼女は凄いんだぞ? 不可視の《衝撃》にゾンビどもが弾き飛ばされ、空中に舞うあの光景は筆舌しがたい。君たちにも見せてあげたかったくらいだ。絶望の象徴たるゾンビがまるで玩具のように吹き飛んでいくんだぞ!」
「何回言うつもりなの甲斐田さん。モンスターにばれたらどうするんですか!」
楽しそうに話す甲斐田正治という男に、合いの手を入れる三羽
ビスケットをこれでもかとポケットに詰めて、無言で辺りを警戒しながら進んでいる男が加賀典三だ。自己紹介は道中で済ませた。
一見陽気なような彼らだが、凄惨な死体や巨大なハエにたかられた死体を目撃するたびに口数が減ったり、口を抑えたりしている。この世界を歩き回るにはいささか適性が足りていないように思えるが。
「しかし君たちは凄いな」
「どうしてですか?」
甲斐田の言葉にかごめが聞き返す。
「君たちは一週間と少しの時間、二人だけで生き残ってきたんだろう? 君たちは夏神高校の生徒らしいが、初日には恐ろしき鬼も出たと小百から聞いている」
「そう! あなたたちも見た!? あの化け物! やばかったですよね!」
「見ました! 一撃で校舎の壁を吹き飛ばして、体育館の倉庫の分厚い扉を殴り壊しちゃうし……またあんなのとまた遭遇したら一貫の終わりですね」
女子二人がやかましく会話をしている。
赤き鬼。恐ろしき身体能力を持つ化け物にして、俺の妹を、こむぎをハエでも潰すみてぇに目の前で叩き潰しやがったクソ野郎だ。
死ぬ前にあいつだけは必ずぶち殺してやる。絶対に。
「……見えてきたな。夏神高校が安全な理由は《土》によって守護されているからなんだ」
「土、ですか?」
「あぁ。《土》を操る魔法使い、知里谷すずめの力だ。夏神高校の屋上には《土》を操る彼女が待機しているんだが、こうして手鏡を出して、屋上に光を反射させて__」
甲斐田が懐から手鏡を取り出し、光を反射させる。角度を何度も変え、ちかちかとさせると屋上の方からも光の反射が見えた。
賢いな。声を上げればゾンビに気づかれるし、煙のような何かで居場所を知らせようにもゴブリンに気づかれてしまう。
だがそれにも穴はある。生存者の保護を一週間も前に始めているらしいが、今と同じ方法を継続しているならきっとやつらが出てくるはずだ。
俺と同じことを思ったのか、かごめが質問する。
「わぁ、頭いいですね! でも、それって光り物ですよね……? その、大丈夫なんですか?」
地上で光るものに反応し、面白がって襲いかかってくる厄介なやつが居る。赤き鬼を連れ去り、今もどこかの空を悠々と飛んでいるであろう巨鳥の存在が。
「……あの鳥のことを知っているのか。あぁ、そうだな。その通りだ。本来なら俺たちは鳥の餌になって人生終了。だがそれを覆したのが、またしても我らが生徒会長なわけだ!」
屋上からの反応を得たので手鏡を仕舞いながら、甲斐田は続ける。
「あいつらはあまり群れを作らないだろう? 同種の中でも縄張りのようなものがあると生徒会長は睨んでいる」
確かにたまに空で小競り合いをしているのは見かけたことがある。
「確かにたまに争ってたりしますけど……でもそれがどうかしたんですか?」
「わからないかい? まぁ無理もない。銃もミサイルもヘリもないのにあの鳥をどうにかするって発想が生まれるわけないよな。だが彼女は違ったんだ。この辺りを縄張りにしている巨鳥を《衝撃》の魔法で攻撃し、倒してしまったんだ!」
驚いた表情でじとっと視線だけこちらに向けるかごめ。何か言いたげだが無視する。
それにしても凄まじい射程と速度、威力の魔法だ。かなり上空を飛んでいるはずだが。こちらにおびき寄せない限りとてもじゃないが届かないぞ。まさか俺と同じ方法を……?
「っと、ここまでだな。ようこそ、夏神町復興前線基地へ」
目の前には土の壁が溶けるように退き、中に入れるようになった校門がある。グラウンドでは男たちが必死にクワを振り上げ、土を耕している。
蒼き空に浮かぶ黒き太陽の元、堂々と甲斐田はそう宣言した。
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