第6話 《直感》




 周辺のコンビニ、スーパー、雑貨屋、ところ構わず色んなものを奪ってきた。ガスコンロに包丁、金属バットに岩石プレート。かごめが欲しいと思ったものは全部盗んだし、大量に食料になりそうなものも集めた。


 一週間。


 世界が変わったあの大地震から、一週間の時が既に経過していた。


「柊。出る」

「んぁ~、りょーかいぃ……あ、水多めでヨロ~……」


 早々に起床した俺はこむぎの部屋で寝ているかごめに声を掛けた。ドア越しにだるそうな声が聞こえる。


 よくこんな状況で長々と寝れるものだ。家の外からは絶えず空を飛ぶ生物の異様な鳴き声が響き、3時間に一回はどこかでゾンビ共が叫び大移動する。


 寝れる環境じゃないだろうに。


 まぁかごめの睡眠事情などどうでもいい。俺はかごめの目覚めた力の方に用事があった。


「次はどこだ」

「そんくらい自分で決めてよぉ~……ふぁ~ねむ」

「俺が決めていいのか?」


 真っ先にあの鬼の元に行くが。


「……ダメに決まってるでしょ。はいはいわかってますよ~、うは、身体いったぁ……はい《直感フォーチュン》」


 扉の向こうで異様な気配がする。俺が逆転の魔法を使うときもこんな気配がするようだ。おそらく魔力とかそういう不思議エネルギーがあるんだろう。


 暖かいようで、酷く冷たい感覚だ。人によって感じ方が違うらしい。


「ん~……そだね~……今日は西かな」

「そうか。昼には起きろよ。かごめの《直感フォーチュン》にも限界がある。」


 俺と同じように、かごめにも不思議な力が宿っていた。


 《直感》の魔法。


 勘が冴える魔法らしい。ゾンビ共の大群に追加で緑色の不細工に襲われたときに自覚したと言っていた。かごめはゴブリンと言っていたか。あの時はかなりじり貧だったな。


「……何でもないことに魔法は使わないでよ~? 魔力には限りがあるんだから」

「わかってる。じゃ」



 愛用となったバールを玄関に立て掛けて置いてある。それを片手で掴み、俺は外へ出た。


 今日も黒い太陽が輝いている。



 さて、行くか。







「……やけにゾンビやゴブリンが多いな」



 ほんの一週間程度しかこの崩壊した世界を過ごしていないが、そんな俺でもある程度の敵対生物の動きはわかってくる。


 ゾンビは基本死ぬ直前の行動に関連した動作を行うことが多い。買い物をしていた人間ならショッピングモールを歩き回り、車の清掃をしていた人間なら車の周りを歩き回ると、こういった感じだ。


 ゾンビになる条件は未だに把握していないが……かごめはウイルスとか細菌とか、そういう問答無用でゾンビになるものではないと言っていた。それさえわかっていればいい。


 夏神かがみ町は中央に駅があり、その周辺に色んな主要施設が建っている。藍田家は主に駅から見て南東に位置する。


「向かってるのは……学校か?」


 大群で移動するゾンビとゴブリンたちの後方から、彼らの目的を推察する。ゾンビとゴブリンは基本的には戦闘しないが、一回だけやりあっているのを見たことがある。その要因がわかれば同士討ちを狙えるかもしれない。


 ぎゃっぎゃと騒ぎ立てるゴブリンにアーしか言わないゾンビ。頭が悪いから仲良くできるのかもな。


 そのまま行進を続けていると、大軍が学校の校門に辿り着いた。驚いたことにバリケードが設置されており、大軍を上手いことブロックしている。ほぼ壊滅状態だった学校を籠城ができるほどに改造するとは。


 あのバリケードは何で出来ているんだ……?

 

 確認しようとするが、ゾンビ共が多いせいで近づけない。望遠鏡でも持ってくるんだった。


 それにしてもあいつらを拠点であろう学校におびき寄せるとは……立て篭もっている生存者たちは何を考えているんだ? 思考が読めない。百害あって一理なしだと思うが。


「……《レベルアップ》を狙ってるのか?」


 殺せば殺すほど、俺の魔力の総量は増えていったらしい。それをRPGのゲームになぞらえて、かごめは殺傷による魔力の成長現象を《レベルアップ》と命名した。


 2日目でようやく魔法の力にも弾数が存在することを知った。というか家の中で実験してたら倒れた。


 《レベルアップ》を狙っているんだと思ったが……どうにも群れるだけ群れて何かしているようには見えない。


 謎だ。とりあえずゾンビ共を引き寄せる何かが学校にあることはわかった。後は適当なショッピングモールとかで物資を集めてこよう。


 俺は踵を返し、止めておいた自転車をこぎ出した。



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