第22話 我が名は曹飛将
張将軍と父上が率いる軍勢が魏延たちに突っ込む。
ある意味、蜀軍にとっては、背水の陣だ。
蜀軍の背後は、狭くて細い道。両側は崖。
「飛将様、あれを! 上!」
雷松がぼくに叫ぶ。
崖の上を見る。
兵たちが下りてくる。
ぼくは仲達どのを見た。
仲達どのもぼくを見る。
仲達どのはぼくに、強く短くうなずいた。
ぼくは暁雲と許儀、雷松と雷柏に向き直る。
今、ぼくは、ぼくたちにできることは、これしかない!
「崖から下りてくる兵を射つ!」
暁雲、許儀、雷松、雷柏は声をひとつに答えた。
「はッ!」
仲達どのは率いてきた歩兵に命じた。
「歩兵、槍持て! 百人ごとに固まり、前進! 敵を木門道へ押し返せ!」
蜀軍から「最強」と言われたぼくたちの弓騎兵は横一列に並んだ。
ぼくは命ずる。
「構え!」
暁雲が、許儀が、雷松が、雷柏が、馬上で弓を構える。
「狙え!」
下りてくる蜀の兵たちを狙う。
中には気がついた兵たちもいるようだ。ぼくたちを見ている。
ぼくは腹の底から、蜀の兵たちを射つように、大声を発した。
「射て!」
鏃が流星のように木門道の崖へ群れ飛んだ。
兵たちが矢をくらって落ちる。
ぼくも弓を構え、また命じた。
「続けて射て!」
再び矢が飛んでいく。
蜀の兵たちは逃げ場がない。
崖の上に上がろうとして落ちる。
足を踏み外して落ちる。
矢が当たった兵の巻き添えになって落ちる。
それに気づいた地上の兵たちも色めき立つ。
張将軍と父上は戦っている。
張将軍が槍で蜀の騎兵を刺す。
刺された騎兵が落ちる。
父上は魏延の相手をしていた。
魏延は大刀を横から振る。
父上も大斧で受ける。
張将軍が駆けつけた。
張将軍の槍の穂先が魏延を突く。
魏延は大刀で張将軍の穂先をかわす。
張将軍と父上が率いる軍勢は、前もって指示されていたようだ。蜀の兵たちを木門道へ押し込むように攻める。
ぼくたちは崖から兵を矢で射落としていた。
「おい、馥!」
暁雲がぼくを呼ぶ。
「どうしたの、暁雲!」
「張将軍が!」
目をこらす。
「いけない!」
ぼくは思わず声を出した。
蜀の騎兵が一人、張将軍に矢を向けている。
ぼくはすかさずその騎兵を狙い、射った。
だが、遅かった。
ぼくの矢が倒したその騎兵はすでに、射ち終えたあとだった。
張将軍の背中に矢が突き刺さる。
右膝にも矢が刺さる。
これは、別の方向から、別の騎兵が射ったのだ。
ぼくは張将軍の右膝を射った騎兵も射倒した。
張将軍の体が、傾いた。
そのまま、馬から落ちる。
父上は大斧の柄を張将軍に差し出した。
張将軍は柄をつかみ、そのあとは父上が差し出した手を握り、父上の前にまたがる。
しかし、すぐに張将軍は、馬のたてがみに顔を伏せた。
父上はなんと、そのまま、魏延に大斧を振り上げた。
魏延は、さすがだった。
大斧の斬撃を、大刀の刃を平らにして両手で支えて受け止めたのだ。
父上が押す。
魏延が耐える。
父上がさらに押す。
魏延が苦しげに片目をつぶる。その両腕は震えている。
「あれ! 飛将様!」
その時、雷柏が指をさした。
「狙っています!」
ぼくが見ると、確かにいる。
弓を構え、矢をつがえている騎兵が。
その矢が狙うのは――父上。
ぼくはその騎兵をすぐさま射った。
騎兵は天を仰ぎ、弓を構えた状態で鞍の上に仰向けに倒れる。
魏延が押し返した。
大斧がはね上がる。
魏延は大刀を勢いよく横に払った。
父上はその大刀を、大斧をすぐさま戻して上から叩いた。
大刀の刃が、ばきりと割れた。
魏延は馬首を返して駆け去った。
蜀軍から退鉦が鳴りひびく。
あとに残されたのは、木門道をふさぐように横たわる将兵や馬のなきがら。
父上は引き上げてきた。
父上の馬の上で、張将軍はたてがみに上体を預けていた。
ぼくは張将軍を見た。
張将軍のまぶたは、口元は、動かない。
駆け寄ったぼくに、父上は、まぶたを伏せて頭を横に振った。
張将軍の幕舎。
仲達どの、父上、ぼく、暁雲、許儀、雷松、雷柏は、張将軍を幕舎の中に入れた。
張将軍のご子息たちが駆けつける。彼らも張将軍の軍勢にいて、戦っていた。
なきがらから矢を抜き、新しい敷布に変えた寝台の上に横たえる。
いちばん年かさらしいご子息が、ぼくと父上に拱手し、一礼した。
ぼくと同い年くらいに見える。張将軍そっくりな顔だちをしている。
「張雄、あざなを俊英と申します。張郃の長男でございます。曹子廉将軍、曹飛将将軍、父を助けてくださいましたこと、感謝申し上げます」
ご子息たちの間から、すすり泣きの声が聞こえる。
俊英どのも、ほほえみながら、涙が止まらない様子だった。
ぼくも、もらい泣きしてしまう。
父上も、整った顔を伏せたままだ。
俊英どのは言った。
「父から聞いております。遺体を木門道に埋めてくれと申しておりました。明日、とりかかろうと思います」
「手伝う」
父上が初めて顔を上げた。
ぼくも言う。
「それがしもやります」
暁雲と許儀、雷松と雷柏、そして仲達どのも同じ返事をした。
「お手伝いいたします」
「にぎやかに送れますね。父もきっと喜びます」
俊英どのは、ほほえんだ。
けれどその声は、涙で震えていた。
ぼくたちは皆、怪我をした兵の手当ての手配をしたり、馬にえさを与えたり、かがり火を焚かせたりしたあと、張将軍の幕舎に集まった。
仲達どのは張将軍の枕元に椅子を持ってきて腰かけたままでいる。
ぼくと一緒に様子を見に来た俊英どのが気づかう。
「仲達どの、お休みになってください」
仲達どのはちらりとぼくたちを見て、すぐに張将軍に目を戻す。
「いえ。お父上をお止めしなかったのは、それがしです」
「父は、自ら望んだ最期を迎えたのです」
仲達どのは両手の指を組み、そこに額をつけた。
ぼくは俊英どのに言った。
「俊英どのこそ、先にお休みになられてください。明日はお父上の埋葬ですので」
「では、そういたします。飛将どのもお早く休まれてくださいませ」
「はい」
ぼくは仲達どのに近寄る。
そこへ父上も来た。
ぼくも父上も俊英どのも、甲冑をはずしていた。父上は沈んだ面持ちで、ぼくに言った。
「いたのか」
「仲達どのが心配で」
仲達どのがぼくと父上に、疲れがにじむ目を向ける。
「申し訳ございません。余計な心配をおかけして。避けることのできたご最期であったと、それがしには思えてならないのです。また、子廉将軍、あなたをも危険にさらしてしまいました」
父上は仲達どのの肩に手を置いた。
仲達どのは下を向き、続ける。
「それがしを採用してくださったのは武祖様です。それがしの家は代々官吏を輩出しております。むろんそれがしも勉学に励んで参りました。太子――先の帝がそれがしをお取り立てくださり、こうして今も勤めております。しかし、先の帝がまさか、禅譲を執り行うとは、寝耳に水でございました。恐れ多いことだと思いました。先の帝にはせめて、帝らしく振る舞っていただきたいと進言して参りましたが、残念ながら戦に明け暮れ、子廉将軍や子建様を始めとするお身内までないがしろにしました。それを止められなかったことを今、思い出したのです」
仲達どのは座ったまま、ぼくと父上に体を向けた。
「国を守るのに必要なものは、むろん質のよい官吏や将兵なのですが、それらをまとめ上げるのは、国を建てた者の血縁です。もっと武祖様のお身内が朝廷で政務に当たり、国を守る役目についておれば、もう少し我々も楽に戦えた。気のもちようと言えばそれまでなのですが、無視することのできない要素だとそれがしはとらえております。けれどそれがしは結局、先の帝がなさる適切でない行いを、何一つ、止めることができなかった」
ぼくは仲達どのに言った。
「弓騎兵を編成してくださったのは仲達どのです」
父上も仲達どのに伝える。
「それがしが獄にくだされた時、罪人として扱うなと命じてくださったではありませんか」
仲達どのはぼくたちの言葉にじっと耳を傾けていた。
そして、立ち上がる。
ちょっとだけ、笑った。
彼は案外、恥ずかしがりやなのかもしれないと、ぼくは思った。
仲達どのはぼくたちに拱手し、深々と、頭を下げた。
木門道は、崖があるだけではない。
なだらかな山がつらなり、山の中腹やそのふもとには畑が営まれている。
そんなのどかな場所に、将兵や馬のなきがらが、折り重なって倒れている。
敵も味方もない。
互いになきがらを車に乗せる。
そして、それぞれの陣地へ運ぶ。
大きな穴を掘り、その中へなきがらを入れる。
その上から、土をかけた。
ぼく、父上、暁雲、許儀、雷松、雷柏も、甲冑を脱ぎ、戦袍姿になって、なきがらを車に乗せた。車を押した。穴を掘った。土をかけた。
折れた剣や槍なんかをこっそり盗む輩もいる。
けれどぼくは、それを禁止した。
「遺された家族に持ち帰るんだ」
だからぼくの弓騎兵たちは、朋輩の得物を大事に車に乗せて運ぶ。
近くを流れる川で、土と返り血で汚れた刃を洗う。
名前が彫ってあれば持ち主へ返せる。
彫っていなければ、またぼくたちの軍で使う。
あらかた片づいたところで、張将軍の遺言どおり、木門道の崖のふもとに彼の遺体を葬る。
またぼくたちは穴を掘った。
張将軍を大きな布に乗せ、そっと穴の底へ下ろす。
愛用していた槍を体の横に置く。
張将軍のなきがらの上に、ご子息たちが、布をそっとかぶせた。
ご子息たちが穴から上がると、ひとすくいずつ、土をかけてゆく。
張将軍が、土で、埋まってゆく。
その体の上に土が盛り上がり、さらに土の山ができた。
「墓標はいらないと、話していた」
父上が低い声で言った。
「お父が言ってた。人はみんな、土に還るんだ」
許儀どのも、低く、ゆったりと言う。
俊英どのが、ぼくたちに告げた。
「皆様、ありがとうございました。父の願いを叶えてくださいまして、ありがとうございました」
仲達どのは、こんもりとした土の山を見て、つぶやいた。
「張将軍。貴公の死を、必ず活かします」
そして仲達どのは張将軍の息子、俊英どのに伝えた。
「陛下にはそれがしからご報告いたします」
俊英どのは、なごやかな笑顔でうなずいた。
洛陽へ帰る。
出立すると同時に、張将軍の喪を発した。
甲冑の上から、あらかじめ用意しておいた喪服をつける。
旗指し物を立て、隊列を整え、静かに進む。
途中でぼくたちの隊列に出会った人々は、自然と道ばたに膝をつき、地面に両手をついて、顔を伏せる。
「張郃」の旗が、青く晴れた空になびく。
白い弔旗も、「張郃」の旗の隣でなびく。
俊英どのを始めとするご子息たちは、あえて胸を張って馬を歩ませる。
父上の顔色は良くない。
馬上に揺れながら、咳き込んだ。
「父上、ご無理なさらないでください」
ぼくは隣を進む父上に声をかける。
「すまない」
父上はぼくにそう言って、わずかにほほえんだ。
暁雲も父上に馬を並べ、声をかける。
「お辛ければ、遠慮なくおっしゃってください」
「おまえたち、少しは気をつかえるようになったではないか」
父上は目を細めた。
「子孝兄も、濡須から戻った時、今のおれと同じようになった」
「父上、そんな」
ぼくはでも、それ以上言えなかった。
子孝のおじ上は、洛陽に着いてから、亡くなっているからだ。
「馥。そんな顔をするな」
「でも」
「父上、今夜はお早くお休みください」
暁雲は今にも泣きそうだ。
「暁雲。泣くな。男前が台無しだぞ」
父上が暁雲をからかう。
「いいのです、そんなことは」
暁雲は整った顔を涙でゆがめて言った。
「父上まで逝かれたら――」
父上は暁雲のほっぺたをつまんで引っ張った。
「孟徳兄が見たら、腹をかかえて笑うぞ」
「いいのです、あんな助平親父」
のちの世で「魏の武帝」と称される孟徳のおじ上を助平呼ばわりしたのは、あとにも先にも、暁雲だけだろう。
「おれが死んで、もし孟徳兄と李氏に会えたなら、おまえがよくやっていたと、伝えてやる」
李氏とは、暁雲のお母さんだ。黄巾賊が暴れまわっていた時、孟徳のおじ上が助けて、侍女にした。暁雲が数えで十四歳の年に亡くなった。
父上は前を向いたまま、暁雲に言った。
「李氏がおれに、兄上の言葉を伝えてくれたのだ。その言葉がおれを支えた」
ぼくは背筋を伸ばした。
父上が孟徳のおじ上を「兄上」と呼ぶ時は、父上と孟徳のおじ上の秘められた間がらについて語る時だけだ。
ぼくと暁雲は父上の言葉を待った。
父上は、つぶやいた。
「洪はほんとうに頼りになる……」
やはり黙って次の言葉を待つぼくと暁雲を、父上は優しい目で見た。
「これで孔明は、二、三年は、攻めて来ないはずだ。馥、暁雲。おまえたちも、楽ができるぞ」
ぼくは父上を見る。
父上もぼくを見る。
「儁乂どのは勇敢に戦って逝かれた」
「ええ。ぼくも、そう思っております」
「父上の戦いぶりは、見事でした」
暁雲が父上を真剣に見つめて言う。
父上は、暁雲に温かなまなざしを向けて、尋ねた。
「おれも少しは兄上の役に立てたかな」
「少しどころではありません」
暁雲の語尾は涙で詰まった。
父上は、満足そうにほほえんだ。
太和六年(232)、ぼくたちは洛陽に戻ってきた。
参内したぼくたちを、陛下は満面の笑みで迎えた。
「誠に、ご苦労であった」
ぼく、父上、暁雲は、ひざまずいて頭を下げる。
仲達どのにも陛下はねぎらいの言葉をかけた。
「難しい遠征であったことと思う。仲達。よく耐えてくれた」
仲達どのもかしこまる。
陛下の声に悲しみの色が加わった。
「儁乂がここにおらぬことが、無念である」
そして陛下は俊英どのに言った。
「俊英。張儁乂の爵位と領地を継げ」
俊英どのがひれ伏す。
「慎んで、承りまする」
「皆の者。今後とも、我が曹魏を守ってくれ」
陛下は声に力をこめた。
ぼくたちは再びひれ伏し、声を合わせた。
「御意にございます」
弓騎兵たちの遺された家族に、形見の品を渡す。
新たに補充された弓騎兵たちに、調練を施す。
いつもの日々を、ぼくと暁雲は送っていた。
父上は、参内したあともぼくたち弓騎兵の調練に加わってくれている。
それでも、早く借り住まいに戻り、ぼくたちよりも早く床につくことが多くなった。
雷松や雷柏は、ぼくや暁雲よりも早く帰り、父上と共にいてくれた。
「まるで孫のようだ」
そう言って父上は笑う。
仲達どのも父上を見舞うために足しげくぼくたちの借り住まいに通ってくれるようになった。
「宮中にいると、それがしなぞは息が詰まりましてな。子廉将軍のそばは、落ち着きます」
仲達どのはほっとした様子だった。
「そんなことを言われるのは、初めてです」
父上が苦笑する。
仲達どのは恥ずかしそうに言った。
「とりつくろう必要がございませぬゆえ。将軍のお人柄ですな」
仲達どののご子息の子元どのもほほえむ。
「どうぞゆっくり養生なされてくださりませ」
「ありがとう」
父上が子元どのに応じていると、仲達どののもう一人のご子息、子尚どのも、だいぶ声の大きさを押さえて父上に言う。
「またご一緒いたしたいと存じます」
仲達どのがたしなめる。
「これ、昭。そしたらまた戦にゆこうと申し上げているのと同じではないか」
「申し訳ございません!」
「声が大きい! 耳が割れるわい!」
仲達どのがあわてて叫ぶ。その声も大きかった。
「馥。暁雲」
「何でしょう、父上」
ぼくたちは揃って返答し、父上の枕元に寄った。
「おまえたちと戦って、何年になる」
「赤壁の戦いからですから……」
ぼくは数える。
「二十四年になります」
「馥は数えで三十八、暁雲は数えで四十二か」
「はい」
暁雲がうなずく。
父上はぼくに問う。
「戦に出て、何を学んだ」
ぼくは父上の手を握り、答えた。
「今の自分がやれることをする。それが合っているかどうか、その場で判断し、合っていなければその場で修正する」
父上はうなずいた。そして暁雲にも尋ねる。
「暁雲。間者と武将は違ったか」
「はい、父上。間者は陰におりますが、武将は日の当たる場所におります。しかし間者が集めてきた情報や工作して作り上げた状況をもとに、武将は次にすべき行動を決めます。両者は互いに補い合っていると、おれは学びました」
父上の手を握るぼくの手に、暁雲は自分の手を重ねた。
「蘇の長男は、無事に仲間と、蜀から戻ったそうだな」
「はい。きょうだいと再会できたと、おれたちに伝えてきました」
暁雲が言うと、父上は、ぼくたちにほほえんだ。
そして、ぼくたちの手を、自分の手で包んでくれた。
「ありがとう」
ぼくは、暁雲は、次に起こることが何か、わかった。
父上は、言った。
「頼んだぞ」
ぼくと暁雲は、静かに答えた。
「はい」
父上のまぶたが、ゆっくりと、閉じた。
ぼくは今、陛下の前にいる。
ここは宮殿だ。
「飛将。面を上げよ」
陛下の声がする。
ぼくは、顔を上げた。
陛下の澄んだ瞳が、優しくぼくを見ている。
「そなたの父や儁乂の働きにより、我が国の西は今、平穏を保っておる。よしんば諸葛亮が兵を進めたとしても、簡単に押し返せるであろう」
ぼくは深々と頭を垂れる。
陛下は静かな声でぼくに告げた。
「心から、哀悼の意を表する」
「ありがたきお言葉にございまする。父も泉下にて、喜んでおりましょう」
陛下は声音を改めた。
「飛将。曹子廉の爵位と領地を継げ」
ぼくはひれ伏した。
「慎んで、承りまする」
『魏書』曹洪伝は九字で父上の死を記す。
太和六年薨、諡曰恭侯。
ぼくと暁雲について書かれていることは、この十五字だけだ。
子馥、嗣侯。
初、太祖分洪戸封子震列侯。
暁雲が間者だったことも、ぼくが魏軍最強の弓騎兵を率いたことも、『三国志』の著者である陳寿は一言も書き残していない。
まして、のちの世につけられた注にも、ない。
我が名は曹飛将。
ぼくたちが何をしたか知っているのは、ここまでぼくの話を聞いてくれた、君だけだ。
(完)
我が名は曹飛将 亜咲加奈 @zhulushu0318
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
関連小説
物書きの壁打ち/亜咲加奈
★90 エッセイ・ノンフィクション 連載中 35話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます