まずひと言で、登場人物たちの息遣いを感じました。
歴史小説には馴染みがなかったのですが、良い意味で枠組みを感じさせない普遍的な人間ドラマに、幾度となく胸を打たれました。
十代で物語に登場した主人公が、気づけば自分に近い年齢に。
戦の描写にも躍動感があり、矢の俊さが、刃の重みが、命の圧と同時に迫ってくる。
争乱を伴う時の流れの中で、私たちが目にするのは、戦いの記録だけではない。
家族と別れ、敵を知り、仲間を看取り、尊敬する者の背を見送る。
いくつもの死と生の断片が折り重なる中で、現在にも通じる人の生き様と繋がりについて立ち返る。
印象的だったのは、誰ひとりとして引き立て役になっていないこと。
どの登場人物にも愚かさも賢さもあり、誰もが「ちゃんとそこに生きている」。
その姿勢に、作者の人間への誠実な眼差しを感じました。
それでも英雄はやはり英雄。説得力をも同時に感じられ、劉備は劉備でした。
歴史に興味がない人にも、きっと届きます。
読み終えて感じるのは、時代がどうあれ、人は人を想い生きるのだということ。
私にとっての三国志入門は、なんとも贅沢な一冊となりました。
この作品は三国時代を舞台にした歴史小説です。拝読してみて、まず思ったのは、ちまたのweb歴史小説とは少し違った印象があるということです。
主人公は決して完璧ではない、どちらかというとナイーブさを感じさせるタイプです。それゆえに、障害にぶつかる度に色々と葛藤します。相棒とともにそれを乗り越えてゆく人間ドラマに比重が置かれていると感じました。
また、実在の人物を丁重に扱われているとも感じました。――例えば、曹操を例にとりましょう。曹操は「唯才主義」という、人物の地位や家柄、人格や過去の行いなどに一切よらずにただ才があれば用いるという考え方を持っていたと言われます。この作品では、なぜその考えを持つに至ったかという背景に独自の解釈が入れられていて、それがすごく納得のいくものでした。web歴史小説の登場人物にあまり人間らしさを感じることはなかったりするのですが、この作品では一人一人が血が通った人間のように感じられたんですよね。
レビュワーの私も駆け出しで三国時代の小説を書いているのですが、作品を細かく見ていきますと作者さんの見識の深さには驚かされます。確かな歴史の知識を下敷きに人間ドラマを作られているのだなと改めて思いました。
なお、この作品の主人公は曹馥(そうふく)といい、曹操の従弟・曹洪の息子です。実在の人物なのですが…大体の人はよく知りませんよね? この機会に彼の足跡をぜひ作品の方で追ってみてください!