第8話 ファーストコンタクト

『リバースクロノス』転生二日目。あれだけ濃い一日を経験した私達に待っていたのは、あまりにも平和な学園生活だった。


 ウェルジェーン学園――原作にも登場したエーデ達が通う学園に入学した私達は、友達を作るという名目でいたって普通な学園生活を送ろうとしていた。


 この学園は親が偉大だったり家の太い者が一般入試を経て入学するパターンと、ある一定の成績を認められた者が特待生として入学する2パターンに分かれる。


 私のような者は前者に分類され、エーデのように家柄が優れていなくとも実力を認められている者が後者に分類されるというわけだ。


 ホシキリのような例外を省けばその両者の隔たりは深く、良くも悪くも派閥争いが絶え間ない。


 しかし、様々な人物と交流を深めていくことで隔たりが縮まっていく――というサブストーリー要素でもある。(原作では)




「あの……メア? さっきから何してるの?」

「パトロール、ですよ。誰があなたを狙っているか分からないからね」

「でもさ……双眼鏡で覗いてたら誰も近寄ろうとはしないんじゃないかな?」



 巨大な学園を一望出来る場所を探すのには苦労したが、屋外に設置されたパラソル付きの休憩エリアを発見した私達は、一日中張り付いて生徒の様子を観察していた。


 友達候補自体は何人も存在する。しかし、それはエーデの場合だけだ。


 年齢が2個も離れているし、性別も違うため友人になれる人物はかなり変わってくる。


 原作では後輩で、なおかつ同性に対して優しい人物でなければ、ホシキリにふさわしくない。



「メアが私のこと大切に思ってくれてることは十分伝わってるよ? だけど……」

「あっ! いたいた! どうですかあの子!」

「え? あの長髪の子?」


 視線の先で歩いてる彼女はエレーナ・ライメイ。真っ赤な髪と瞳が印象に残る凛々しい顔で孤高に歩いてる姿を目撃した私は興奮が収まらなかった。


 彼女なら私やホシキリにも隔たりなく接してくれるはずだ。原作では、絡みが一切なかったけど、きっと仲良くなれる。



 実はあと一人候補がいたのだが一日粘っても見つからないししょうがない。私はホシキリの腕を掴んで駆け出した。



「ええっ……! 話しかけに行っちゃうの!? びっくりされちゃうよ?」

「ホシキリちゃん。友達作りには勢いが肝心だよ!」

「そうなんだ……どうやって学んだの?」

「……私の歴史がそう言ってる」



 流石にソースはゲームだとか言い出しても信じてもらえないだろうし、ここは適当に誤魔化すしかないね。



 大した距離を走ったわけでもないのに関わらず、二人は運動不足のほかに昨日の疲労が取れきっていなかったのか息を切らしながらエレーナの前に現れた。



「やっ……と、追いつけた」

「用があるので後回しでもよろしいでしょうか」


 エレーナは汗だくの私達を見て顔を引きつらせつつも声を返してくれる。


 エレーナの趣味嗜好はある程度知り尽くしているからこそ、今ここで彼女を攻略することは容易だろう。


「スコティッシュフォールドって猫知ってる!?」


 エーデと話すきっかけにもなった彼女の趣味――それは猫を愛でることだ。


 彼女は所構わず猫を見かけた時点で猫を撫でるために行動し始める。


 酷いときには目的を忘れて猫を可愛がりに行ってしまうし、それが原因で騒動を起こしたこともあった。


 それだけ猫はかなりのキラーワード。この言葉で屈しないわけがないのだ。



「誰ですかあなた?」


 スコティッシュフォールドが通用しない!?


 そんな馬鹿な……猫が好きなんじゃなかったのか?



「あっ、私はホシキリって言います。こっちはメアって言って、悪い子ではないんです!」

「は、はあ……? いきなり押しかけて何……?」

「エレーナさんと友達に、なりたくてですねっ……!」


 汗まみれの振り絞った笑顔で驚愕している彼女に微笑みかける。


 エレーナを友達第一候補として選んだ理由は素直な性格をしているからだ。


 いくら出会いが最悪でも、こちらが誠意を見せたら話は聞いてくれる……そんな人だから。



「友達……別にいいけど……何でそんなに汗かいてるの?」

「エレーナさんと友達になりたくて!」

「そ、そうなんだ……? メアさんとどっかで会ったことがある?」

「いえ、ないです! 明日からもよろしくお願いします! エレーナさん!」

「エレーナ、でいい」


 初めての友達が出来たホシキリも流石に喜びを隠しきれないようで、私の腕がぎゅっと力強く握ってきた。


 次の事件まで、大体1週間の猶予はある。


 それまでに原作との違いを見つけて対策しなければ……と、最後に軽く話してエレーナの別れようとした瞬間だった。



「キャアアアアアアアアアア」

「……何今の悲鳴」



 そう遠くない室内から聞こえてきた野太い悲鳴。


 事件を感じ取った私達は急いで現場に向かって走り出した。


「ちょっと……何なの?」


 あまりにも突然走り出したものだから、動揺したエレーナも付いてきてしまったようだ。


 悲鳴が上がった教室に侵入すると、中で数人の男女が隅で怯えて震えていた。


 そんな部屋の中心で立っていたのは、どこかで見覚えがある男と醜く小柄な老婆だった。

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