第3話 元主人公がいたらしい

「……とにかく! 誰がを騙していたのか捜しだしましょう!」


 照れ隠しなのか、大声を上げてごまかすホシキリ。やっぱり性格は原作通りなんだ。


 ばたんと大きな音を立てて倉庫の扉を開けた彼女に続き、対象となる人物のもとまで駆け足で向かう。


 原作をなぞるならまずはロストを見つけるところから。ホシキリの従兄でもあるし、この時期の記憶を持つホシキリなら彼が大体どこらへんにいるかもしっかり把握しているはずだ。


 ホシキリが向かったのは舞踏会が開かれている建物の外だった。外の庭はかなり広く、大人同士の交流に嫌気が指した子供たちと彼らに使える従者数人の姿が遠目からでも視認できる。


「あ、そっちじゃないわよ。あの中にはいないの」


 が、ホシキリとメアはその庭の横を気づかれないように走り抜けた。


 ま、原作でも庭は通り抜けたから驚きはしないけどね。



 次に見えてきたのは、一本の大きな樹だ。たしか、ここにロストと従者がいたはず。



 ある程度近づいたところで突然ホシキリが止まり、慌てて地面に伏せだした。

 それに合わせて私も地面に伏せると、彼女は小声で語りかけてくる。



「発見したわ! あの木の下にあの人がいるわ……を見るのも、これで9年ぶりね」



 ……ん? ロストさんが一緒? ロストが国家に攻撃をしかけたはずでは? 私がずっと勘違いをしてた? いやそんなはずがない、こんな序盤の展開を忘れるわけがない。


「何か話しているわね……」


 どうやら彼らの声は遠くからでも聞こえるくらい大きいらしく、口をふさいでいるとすぐに会話の内容まではっきりと聞こえてくるようになった。


「ロスト様、お呼びの奴を連れてきました!」

「ごくろう。んで、お前が例の『嫌われ者の孤児』か」


 おっ、ロストの声がする。ホシキリの6個上(ホシキリと私は7歳)だから、今はちょうど13歳か。


 思春期ですね、彼は。



 というか彼らは何の話をしている?

 初めて聞くワードもあるぞ。


「…………」

「口も聞けないのか?」


『嫌われ者の孤児』の声は全く聞こえないが間違いなくそこに存在しているようだ。


「まあいっか。せっかくお前と対面できたことだし、色々答えてもらうか。俺のことはロスト様と呼べ。お前は……おい、名を答えろ」

「…………」

か。まずはエーデの持ってる情報を全部出せ。そうじゃなきゃ俺と対等にはなれないな」


「エー……デ?」

「……彼は生まれて間もないころに両親を失って孤児になってしまったのよ。それだけなら同情はできるけど……あの人は暴れすぎた。保持する魔力量は生まれ落ちたときから人類史上最大、故にありとあらゆる人に操られ騙され続けた結果、私達を滅ぼそうとしてきた者――だと私は信じているわ。本当は彼に……悪意なんてなかったって」



 私の、大好きな人が、私が転生したせいで、敵役になってる……?


 彼の顔が見たい、どんなに醜い表情をしていてもいい、一目見られたら――。



「――おい! どこに行くんだ! エーデ……待て!」


 私が立ち上がったのと同時に絶叫が聞こえ、樹の裏から逃げていくエーデの後ろ姿だけが見えた。


 そしてロストと大差ない子供の下っ端がエーデを、私とホシキリは彼らを追いかける。


 放心状態で立ち尽くしていた私の背中をホシキリにさすられ、心が折れそうになりながらも私は足を動かした。



 どうしてこんなことになっているのか、そもそも私の知っている原作から別物になりつつあることに衝撃を受けており、ここからホシキリが立ち止まるまでの景色は一切覚えていない。


「しっ! ……エーデがロストさんに追いつかれたみたいよ」


 いつの間にか森の中に私達は入っていたようで、そこでは大きな木を背にロストとその子分に追い詰められているエーデの姿があった。


 勿論、彼の顔は私が知ってる幼少期のエーデそのものでより一層絶望に包まれていく。


「メア、エーデの一挙手一投足を見逃さないでね。黒幕の尻尾掴むためにもね」

「……分かった。そのために【時空救済】したんだもんね」


 兎にも角にも今は覚悟を決めるしかない。それがたとえエーデと敵対しようともホシキリを守り通すのみだ。


 ……と、いかにも主人公ぽいことを思っておこうか。



「もう逃げ道はねえぞ……何をビビってんのか知らねえが、ただ自分のことを話せばいいだけだぜ?」

「『話せばいいだけ』……?」

「ああ、一旦落ち着けよ。そうしたらお前の――」

「グォオオオオオオオオオオオオオオオ」


 首を横に振り怯えるエーデを説得し続けるロストの声を遮って、けたたましい獣の叫びが森林中に響き渡った。


 えっと……こんなの原作にあっただろうか?



 困惑している私の横でホシキリがそっと囁く。


「メア、お願い。あっ、あの魔物に向けてだよ!」

「いつものって……まさか! を……使えるんですか!? 私が!?」

「あなたしかいないでしょ!」


 ファイアボールといえば、主人公が一番最初に覚えた技で終盤まで使い続けられる超便利な魔法だ。


 その魔法を習得しているとなると、やはり私は――この世界の主人公なんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る