第4話 初めての魔法
早速ファイアボールを使ってみようと考えたが、そもそも魔法なんて現実で使ったことがないのだから、どうすればいいのか想像を広げるほかない。
たしか、(記憶の中の)エーデが言ってたことを引用すると、『戦いの緊張感で浮き出た心臓を、体内の気で無理やり動かすような感覚』と言っていたはず。
……改めて言葉にしてみると意味が全く分からないね!
まあ、物は試しだ。きっとメア・アレストロなら容易に出来るはずだろう。だって、あのホシキリが信頼してる相手なんだから。
「……ふ、ふぁいあ……」
「ガルルルル……ッ!」
「くそっ俺を嵌めやがったな、エーデ!」
心臓が飛び跳ねすぎて卒倒しそうなくらい最悪な状況が、むしろ私にとっては好都合だ。震える右手を何とか抑えつけながらじっくりと体内の気を操ろうと神経を集中させる。
――そうやっているとすぐに、自分の中にある何かがリンクした感触を全身で感じ取った。
「【ファイアボール】……!!」
人生史上最大ボリュームの声量を出して、4足歩行の獣型の魔物に向かって手のひらから火の玉を放出する。
ほら、簡単にできた。と、自分自身に言い聞かせるように思い一直線に放たれた火の玉の行方を目で追う。
魔物の顔面に直撃したかと思えば、とんでもない衝撃波を出して獣の肉体とともに2,30メートル先の樹木に元の姿が想像できないくらいには綺麗にめり込んでいた。
「な……今のはなんだよ⁉」
真っ先に驚いたのはロストだった。次に驚いたのは……
「い……い、威力高すぎだよ!? これ人に当たったら絶対死んじゃうよ!?」
当然、初めて自分の強さに気が付いた私――メアだった。
少し前まで魔物を見ていた全員の視線が、今度は異常な威力の魔法を使ったメアに集まる。
「ホシキリさんよ……そっちの娘は何者だ? 初めて見る面だが、どこの者か教えてくれ」
「……あ……」
怯えた眼でこちらを凝視してくるエーデの顔は、本当に私が知っている人物そのものだった。
エーデ・アレストロ……彼の瞳は相変わらず透き通って全てを見透かしているような錯覚に陥るほど美しい。だが、私の記憶ではもっと自信に満ち溢れた表情をしていた。
「頼む! ホシキリさん、こっちのエーデは好きにしていいからその子の名前を教えてくれないか? ここまで優れた魔法だなんて……しかもこの俺より幼いときた! 是非ともどうやって鍛えたのか知りたいんだ」
「そうですねえ、まずは
エーデに見惚れていた私を差し置いて勝手に話は進行していく。
彼は何かを伝えたそうに口を震わせていたが、なかなか発声らしい発声は行われず時間がゆっくりと流れだしていき、ホシキリの表情が徐々に曇っていった。
「私達はあなたを苦しめたいわけではないの。あなたは誰に命令されてこの森にやってきたの?」
「まあまあ、俺も強く言いすぎちゃったし後悔してるからさ、もう何も言わないで上げましょうよ」
「ロストさん。ここは魔物が棲んでいるところだから本来私達が立ち入っちゃいけないところなんです。私や彼女はそう親から教育されていましたが……彼は
つまり、何も知らないエーデが森に逃げ込んだのは大人の入れ知恵だとホシキリは言いたいのだろう。
そして、その人物を特定すれば誰がエーデを闇落ちさせたのか分かる。という魂胆があることまで理解できた。
やがて、事情聴取が停滞してきたのも相まり私の思考はクリアになってまた新たに様々な疑問が浮かび上がってきていた。
みんなエーデのフルネームを呼ばないのは彼が孤児だから。では、彼はエーデ・アレストロではないのか?
その可能性は低い。なぜなら、私の母親(あれで母親じゃないんなら何)が原作で見たエーデの母親とそっくりであるからだ。
そうなると私の仮説が当たっているのなら、エーデには生きた母親がいることになる。
さらにその母親が私の母親であるなら、
……え、てか私実はエーデと顔が似てたりするのかな? 女版エーデとなったら絶対美少女だよね、モテそうだなーもしかしてロストくん私に惚れちゃったりしてますか?
ちょっとまって、冷静に考えたらエーデお兄ちゃんなの? そんなのいくら何でもやりすぎじゃない?
浮かれ気分だったけど逆にやばいことなっちゃってるんじゃないかって分かってきちゃって苦しいかも。
「……僕は、変な恰好をしたおじさんに言われてここに来たんだ」
私が勝手な妄想を繰り広げていたら、一向に口を割らなかったエーデがいきなり口を開いて説明しだした。
彼の声はこの世界に来て初めて聞いたが、記憶通りの声をしていて少しだけ安心した。
ホシキリはエーデの発言を聞いて何かを察したように目をまんまると見開き、私とロストの手を握って顔を近づけてこそこそと話し始める。
「
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