第10話 実家に挨拶

「わぁ……」


 何度も見てきたホシキリの大きな家。原作通りの光景に私は満足している。


 しかし、今日は足取りが重い。


 なぜならば、ホシキリの母親であるシノア・グランレイセに会わなければいけないからだ。


 シノア――彼女は、原作ではメインキャラで唯一の黒幕として存在する人物である。そんな相手だからこそ恐れているのも当然というか、それ以上にその存在が怖いのだ。


 原作ではぼそぼそと喋っているかと思えば、急に声を荒げて主人公とホシキリを引きはがそうとしてくるし、事あるごとに妨害行為をしてくると思えば実は黒幕だった……など嫌な要素を盛りだくさんにしたキャラだ。


 だが、幸運なことにメア・アレストロは私の記憶がない間に交友を深めていたようで、実際は直接会っても喧嘩になったりすることはないだろうけど。



「もう! そろそろ慣れてよね。お母様もメアのこと嫌ってたりなんてしないから。なんなら私よりも仲良かったような……」

「そうは言われてもね……緊張するなあ。ホシキリちゃんも似た感じかもしれないけど、私の方がもっと緊張しちゃう人間なんだからね!?」

「あはは! 面白いね、メア」



 面白いかな……? 私ただ緊張してるだけなんだけど。



「……で、まだ入らないの?」

「え、もう少しここにいちゃだめ?」


 5分近く粘ってみたがこれが限界か。


 シノアの部屋の前でもじもじしていた私は覚悟を決めて扉に手を伸ばす。



「こんばんはー……」



 小さな私の声が部屋中に響き渡り、奥に控えていた彼女がこちらに振り返った。


 重々しい雰囲気を纏う彼女の姿は正真正銘シノア・グランレイセだった。


「おかえりなさい。……あら? あなた……よね?」

「そ、そうです。今日から学園に入学したので、改めて挨拶をしておこうかと思いまして」

「……そう。元気そうで良かったわ。学園で……何もおかしなことはなかったようね」


 ちょっとおかしなことはあったけど……余計なことは伏せといた方がいいか。


 それにしてもこの人見た目が怖いな、黒幕バレするまではそこまで恐怖に思わなかったけど正体を知ってから恐ろしく見えるよ。



 ぎこちない会話にホシキリが交じってくると、途端に会話はスムーズに弾み気まずい時間はあっという間に終わった。


 そのまま三人で夕食をとり、軽く会話を済ませた私達は自分達の部屋に戻っていた。


 相変わらずシノアの様子は不思議のままだが、過去のメアが仲良くなれているのならこの世界の彼女は案外悪い人ではないのかもしれない。


「ふぅ……」


 人知れず恐怖と戦っていたため、緊張の糸が切れて思わずため息が出る。


 ……原因が彼女じゃないのなら。


 この世界の黒幕は誰なんだ?

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