第6話 すべてが始まる一言

「ロストさんを助けてエーデを救ったのに何も起こらない……おかしい、お母様の言うとおりにしたのに、どうしたら戻れるの……!!」


 ホシキリにしては珍しく冷静さを欠いて声を荒げていた。


 小さな体躯で屋敷内を走り回っているのは相変わらず、今までと違うのは事件現場から逃亡しているくらいか。


 ホシキリの【結び目の血】は証拠になることはないのだけれど、私の【ファイアボール】が火を噴いたぜといった感じで色々とやばい。


 だから一刻も早く元来た時代に戻りたいのだが、アクヤクを倒してクリアして終わりのはずが未だに帰れなくて軽く焦っていたのだ。


「そうだ、ロストさんとエーデ……と合流したら戻れるかも」

「天才ね!! 今すぐ行くわよ!!」

「目星付いてるの?」

「外庭! 暇な子供はあそこ以外遊ぶ場所ないから!」


 すごい、偏見で語ってるけど当たってそう。


 スパイ作戦の要領で人目から隠れながら外庭で待機している彼らの元に向かった。


 ホシキリの予想通り、そこで心底つまらなそうに舞踏会の終わりを待ち望むロスト達の姿があった。


「おいさっきの爆発はなんだ……! こっからでもはっきり見えたぞ」

「そんなことより私達に何か言うことがありませんか?」


 それはちょっと無理やりじゃないかなあ、ホシキリちゃん。


 何か変わった様子がないものかとロスト達の表情を見ていると、不審な動きを見せているエーデがいることに気が付いた。



 簡単に言うと、少し前に会った時の邪気マシマシで人を完全に信じてませんオーラが消えている。


「……おじさんは倒せたの」

「詳しく説明できないけどもう気にしなくていいんですよ。こっちの美少女様のおかげ!」

「ちょ、ちょっと……」


 はっ、しまった。ついつい上から目線で語っちゃった。

 今幼いからって調子乗っちゃったけど今の私の方がもっと幼かったわ……。


 失言しちゃって横からホシキリにどやされつつも、軽く反省。


「私達が未来から来たってことバレちゃダメなのよ? 発言には気を付けてね」

「……ははっ」

「おっ、お前って笑うんだな。エーデ……だったか。普段は近くの村住みなんだってな。どうだこれから……」



 ……男同士で勝手に盛り上がっている。ホシキリが大事そうなことを話しているが聞かれずに済んだみたいだ。



 未来から来たことはバレちゃいけない……か。部屋一個爆破しちゃってるしどうしようもないけどなあ。なんなら私の犯行の方がやばいのでは……。


「……待って。メア、今なら帰れそうな雰囲気を感じてる。それっぽいことしてみて」

「それっ……ぽいこととは……?」


 うーん、それっぽいことねえ。


 時間がないことは分かっているけど……エーデがここから闇堕ちしない方法を考えないといけないのか。


 今のホシキリじゃ無理だけど自分には伝えられることだってあるはずだよね。


 というか、私の行動次第で未来は変わっちゃうんだ。そう思うと緊張してくるな、ボケたこと言った瞬間ゲームオーバーになりそう。


「エーデ……さん。私はメア・アレストロって言います。またどこかで会ったときはメア……って、呼んでもらいたいです」

「……ありがとう。僕と……いや、ありがとう。気が付いたらこの大きな屋敷の前にいて……誰かに操られているような気分だった。原理は知らない……でも、あなたたちのおかげだって分かる。だから! ありがとう」


 エーデにたどたどしく感謝を告げながら深々と頭を下げられてしまい、私は恥ずかしながらも思わずうろたえてしまった。


 いい意味で原作とのギャップを感じて嬉しくなり、ちょっとからかうくらいなら許されるだろう――などと甘い考えでつい抑えていた本性がいつの間にか言葉として出ていた。



「こちらこそありがとう、

「……え!? おにい――」


 彼の驚いた反応が見えたと同時に世界は、全身が眩い光に包まれたような幸福感を帯びる。


 最後にとんでもない失言をしてしまったような気もするが、まあ何とかなるだろう。



 全身から光が消え、夢から覚めたように不思議な感触から解放された私が次に見た景色は、雲1つない真っ青な晴天だった。


 体も明らかに重くなってるし、推定16歳の肉体に帰ってきたということなんだろう。



「すごく疲れたな」


 私は主人公になりきってそれっぽいことをつぶやいてみた。


「ね……私も疲れたよ」

「……ホシキリちゃん!?」


 ホシキリがすぐ横にいるとは知らずびっくりしてしまった私は、起き上がろうとして手をついたが空を切りそのまま体勢を崩して地面に落っこちてしまった。


 さっきまで私がいた場所は大きなベッドの上だったらしく、冷や汗をかいたホシキリが真上から見下ろしてくる。


「驚かせてごめんなさい! 私もどういう状況か分からない……わけでもないんだけど! 世界は変わったの!」


 世界は変わった。そこで私は自分の右腕に触れた。


「腕あるわ……ここはどこなの?」

「ここは私の部屋だよ。こっちの世界ではメアと私は同じ学園に入学して、ついさっき入学式を終えたらしい!」


 おお、どうやら原作の大筋はなぞっているようだ。原作通りなら能力を使ったホシキリの記憶はエーデが国を滅ぼした世界と、アクヤクを倒した世界の2つの記憶を持っている。


 少し違うのは、女同士だから原作よりも距離が近いくらいか。


 こっから原作だと学園生活を送るギャルゲーパートとバトルパートが交互に繰り広げられるんだよなあ……。


 そういえば、みんなは今何をしてるんだろう……?



「あ。メア起きて準備して。約束してたことを今思い出したんだよ」

「約束?」

「そう! ……あの、エーデと約束が……あるらしいんだけど……」


 急にたどたどしくなる言葉。2つの記憶が混ざったホシキリは、混乱して震えた声でそう私に伝える。


 いきなりきゅっと心臓が跳ね上がったのがはっきりと分かった。

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