第7話 解釈不一致人間は好きですか

「よっ! まずは入学おめでとう。入学式は疲れるよな、楽な体勢でいいぜ」

「……だ、誰」


 服装は主人公のときと全く同じで、学園の首席にのみ与えられる特殊なマントを羽織ってはいるが、着こなし方がちょっと雑で下部分の生地がかなり傷んでいた。


 私が困惑していることに気が付いたのか、ホシキリは苦笑いで肩に優しく手を乗せてくる。


「こっちではこんな感じらしいから……」

ではこうじゃなかったのに……」

「……ま、まあうちの学園は変わってる奴も多いしな。心が綺麗なお嬢さん方には相当なストレスになるかもしれないか……」


 何か勘違いしてるようだけど、私が言いたいのはあなたについてですよ?


 こんな陽キャみたいな絡み方をしてるところなんて見たことないんですけど。

 てか、幼いころと態度が違いすぎない?


 解釈不一致、これで2アウトかな……。


「困ってることがあるなら俺に任せろ! なんてったって俺は二人のだからな!」


 退場だよこれは。


 お兄ちゃんって……いやいや、そういう人でしたっけ!?



 もはや……誰だよ。



「……あれ、大丈夫か? よっぽど大変だったんだな、友達を作るのは難しいとは思うが二人ならできるはずさ。俺にできることがあれば何でも言ってくれて構わないぞ」

「あの……出て行ってもらえますか? ちょっと解釈が……」

「分かった! 一旦外出とくわ! もう一度言っておくけど入学おめでと!」


 そう言うとエーデは何事もなかったように部屋から立ち去って行く。


 嵐が訪れたと錯覚するようなマシンガントークにメンタルをぐちゃぐちゃにされた私は、ふらっと立ち上がりふかふかなベッドの上を凝視してホシキリの隣に飛び込んだ。


 どうせなら深い眠りに落ちたかった。だけど、それをなら許さないだろう。


 私は枕に埋めた重い頭を動かしホシキリの方をじっと見つめる。



「ひと段落ついたみたいだし、一から話してほしいです」

「こっちもそのつもりだよ。どこから知りたい?」



 ほんとに全部聞きたいくらいだけど……まずはとの関係性からだよね。


「まずはエーデさんのことだよね……」

「私もいきなり記憶が出てきて驚いてる……エーデ、いいえは9年前の出会いをきっかけにかなり性格面で変化があったみたい。私の記憶だとメアもエーデさんのことを、『お兄ちゃん』としきりに呼んでいたようだし……」

「それは絶対じゃない」

「もしかして照れてる?」



 別に恥ずかしいとか思ったわけではない。ただその人物が確実に私ではないことを理解らされたのが受け入れられないだけだ。


「……そういえばさっきエーデさんが言ってたよね、『友達を作ろう』って。あの……私達、こっちでも友達はいないらしいの」

「ホシキリちゃんのお母さんは結構厳しめだしねえ……」

「あれ、私お母様の話なんてしたっけ?」


 あっ、やらかした。


 急いで私が訂正しようとするが、間髪入れず彼女が話を続ける。


「ああそっか! 直近の記憶なら残っていたのね。記憶喪失になってすぐ別の世界になっちゃって、よく頑張ったね、メア」

「……そのままよしよししてほしいな」


 冷静になって考えてみれば私が覚えているのはこの世界の外から来たということと、自分がメア・アレストロだということだけ。


 目の前の現実から目をそらす方法はなく、かといって立ち向かう覚悟もできていない。


 それならせめてホシキリに甘える以外ないよね、と自分を肯定するためにくだらないことを言ってみる。


 すると、ホシキリは何も言わずよーしよーし……と優しい声で私の頭をなでてくれた。


 そのまま癒しの時間を過ごしながら、私は朗読のような彼女の話をのんびりと聞き続けていた。


 エーデが闇堕ちしなかったおかげで、学園に通えるほど世界単位で治安が安定しているらしく、1つ前の世界では考えられないほど平和のようだ。



「――それでね、私が部屋から戻ってきたら私のお母様とメアが仲良しになってたの! えっと……ちょうど1年前くらいだったかな? そうそう、亡くなっていたはずのロストさんもこっちでは大成しているみたい。エーデさんもかなり慕っているみたいよ」

「そうなんだ~……。ホシキリちゃん、とりあえず明日からどうするの? 学園生活だって言ってたけど、ホシキリちゃんは毎日通うの? 名家しか通わない学園といっても唯一無二のホシキリちゃんは危険じゃない?」

「勿論通うよ? メア以外の友達も作りたいからね。でも、メア以上の友達は作れないかもなあ……親友だし!」



 これからのことを考えないといけないのは私もだ。記憶喪失のせいで何故リバースクロノスの世界に転生したかも分からないし、次の事件が起きるまではギャルゲーパートを楽しむしかないか。


「……ホシキリちゃんの友達は私の友達ね」

「ふふっ、メアって時々可愛いこと言うよね。学園で新しい友達ができちゃうこと恐れてる? 私だってちゃんと人を見る目はあるわよ! もし、私が大変な目に遭いそうならメアが守ってね」


 そう言うとホシキリは私の頬を両手で包んで満面の笑みを見せた。

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