最終話 黒幕と主人公

 それから彼女に明かされた真実は、私にとって受け入れることにかなりの時間を要するものだった。


「――そうして私と彼で30の問題を解決したわ。31の世界を経験したとも言える。裏切者を殺し、未来のために親友を殺めて……あの日々は地獄でもあり、もう会えない人と会える悠久の日々の繰り返しだった」


 つまるところ、私とホシキリを待っているものは絶望だ。


「けれど……ある時、気が付いたの。この日々に終わりはないと。だから彼は、【時空救済】中に私達が殺めた人達の顔を見た瞬間に取り乱して……初めて失敗したの」

「失敗……?」


 失敗があるとするならそれは世界が終わった時じゃないのか。


「彼はそのまま亡くなったわ。私を遺して。このことは娘も知らない出来事……勿論それでも世界は続くし、私も生き続けた。でもね、もう……限界なのよ」


 そういうシノアの表情には余裕がない。


 それだけではなかった。グランレイセ家が【呪いの一族】と称されていた理由が判明したことで、私の心も限界を迎えかけていた。


 だらんとした長い両腕をゆっくりと持ち上げて後退っていくシノア。


「私のお母様は物心付いたころには亡くなっていたわ。どれが直接の原因だったかなんて分からないけど、独りで苦しみながら朽ちていったはず。だから……彼を失った時に思ったの。絶対に寿と」

「あなたは……あなたたちは短命なんかじゃない」


 でも、だったら私の存在はなんなんだ。メア・アレストロは誰なんだ。


「シノアさん。私も話さないといけないことがあります。私は……全く別の世界から来たんです。【時空救済】が存在しない世界から」

「やっぱり……そうだったのね。なんとなく……【時空救済】が起きた後に初めてあなたと会った時、別人としか思えない雰囲気だったから」

「そうですか。私は……メア・アレストロじゃなかったんですね」


 自分が何者なのか分からない。しかし、もし私の仮定通りなら、シノア・グランレイセを生還させた者が私だということが重要なのかもしれない。


「……ホシキリはまだ1回しか【時空救済】をしていない。しかし、既に2つの世界の記憶が残ったまま。……あの子やあなたには私達のような思いはしてほしくない。だからお願いよ、メア」

「あと1回だけ【時空救済】を使う。そう言いたいんですね」

「……勘違いしないで。あなたは死なないわ、もう誰も殺させない。あなたと私が初めて会ったときに戻るの。私とあなたにとって最大の分岐点……そこでもう一度【時空救済】をする」


 正直なところ上手くいくかは分からない。それは向こうだって分かっているはず。


 それでも【時空救済】を経験した二人なら。

 本来の目的に従わず、自分達の目的を達成しようとする二人なら。



「【時空救済】がない世界から来たというなら、その世界に帰るのが道理よ。たとえどんな形であろうと、記憶すら失ったとしてもあなたには【時空救済】がない世界で生きていてほしい」

「希望はありますよね。またホシキリちゃんやエレーナにも会うために……最後の【時空救済】をしましょう」



 そう言って私は、シノアに近づき彼女の震える手を掴んだ。



 私は元の世界に帰る。そのために私は過去に戻るんだ。


『リバースクロノス』に似た別の世界。


 私の兄、エーデ・アレストロを始め様々な私の知らない彼らと出会っていき、本当の自分とは何か考える機会が何回もあった。


 この世界の行く末はどこまで行っても絶望しか残っていない。


 しかし、それでも想いだけはそこにあった。



 私がシノアを変え、シノアがを変えたのだ。



 ……すこしずつ全身の感覚が消滅していく。


 大切な者を守るために、私達は手を重ね合わせた。


 エーデ。……待っていてよ。



 ――私のお兄ちゃん。

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転生したら大好きなゲームの主人公でした!なお、旧主人公に「私のお兄ちゃん」設定が追加されて、もはや原作崩壊している模様…… 伽藍 @Garan123

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