第14話 死に行く声

 ただひたすら息を殺してシノアの声に耳を傾ける。



「……お願い神様。どうか……」


 初めのうちは彼女が信心深いだけなのかと思ったが、話を聞いていくうちにどうやらそれだけではないことが分かってきた。


 しばらくして、中から急に声がしなくなった。


 もしかしたら私が覗いていることがバレたのではと思い、こっそりと扉の前から移動し息をさらに潜めていると、突然その扉は開かれ取り乱した様子のシノアが現れた。



 彼女は幸いなことに手荷物を一切持っていない。


 しかし、近づいただけでも危険を感じるほどの溢れんばかりの殺気に私は身動きが全く取れなかった。


 本来黒幕であるシノアのことだ、裏ではこうやって本性を隠すように発散しているのだろう。


 ここで起きた出来事は見なかったことにして自室に帰るか……と、ゆっくりと立ち上がった瞬間、彼女は唐突に振り返り、私の名前を大声で呼んだ。



「メア・アレストロ!」

「は……はい……っ!」


 まずい、こっそりと逃げ隠れようとしたことはおろか、今私が盗み聞きしてたことまでバレたら大変なことになる。


 何とかしてごまかさなければ。



「聞いてたのね、さっきの独り言」

「いえ……なんのことだか。それよりもホシキリちゃん……と離したいことがあるので、部屋に帰りますね。それでは――」

「――まって。聞くわ。あなたは……よね?」



 そうだよ、私は……私はメア・アレストロのはずなんだ。


 だけど……どっちの世界の私が本物なのか分からない。


「そうですよ、何言ってるんですか……」

「嘘、よね。あなたは私が知ってるメア・アレストロじゃない」


 ……ああ、やはりお見通しだったということか。


 私はメア・アレストロじゃないんだ。



「【時空救済】したのでしょう?」

「え……」


 予想もしてない角度で図星を突かれ思わず声が漏れてしまう。


 私とホシキリだけの秘密をどうしてあなたが知っているんだ。



「あれは一族で受け継いできたもの……そして【時空救済】を使った者は例外なく2つの歴史の記憶を持ち続ける」

「もしかして」

「そう、私も使なのよ? たとえそれをしなくても勝手に記憶は混ざり続ける」



 黒幕が能力の開示をしているだけ――だのに、どうしてここまで悲しい気持ちになるんだろう。


 シノアが少しずつ私の方に近づいてくる。だけど、殺気は既に消え失せていた。


 彼女は私の手を優しく包むと、私に目線を合わせようとしゃがんだ。



「初めて記憶が2つになったときはとても怖かった。けど国を守るため……グランレイセ家を継ぐために何度も記憶を継ぎ接ぎしてきた」


 そんな設定、『リバースクロノス』にはない。


 というよりも、一度も明かされなかったものなのかもしれない。


 続けて、シノアは【時空救済】について話しだす。


「それでね……ふふっ、私のパートナーは死んだのよ。私がまだあなたと同じくらい若かった時の話」

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