第12話 各々の苦悩

ーリブランー


「おい!橋見!津森!邪魔すんな!」

 目の前で怒号を飛ばすのはランウ。

 いつもなら皆を鼓舞するために無意識で踊るけど、ちょっと危ない気がするから警戒しながら踊る。

 ヤタラスが怪我をしてから一週間。戦況は芳しくない。ヤタラスがいなくなったことでASの捜索に時間がかかるようになったし、なにより………

「おらぁ!消えろぉ!」

 ストッパーがいなくなったことの方が頭の痛いことね。

 ランウだけでなく武刃やライドウ………皆好き勝手動いて、地形や建物を破壊していく。その度に釜森長官が頭を抱えているのはもう何回見たかなぁ。

 それのせいで戦線はジリジリと後退してるし、ヤタラスが復帰したら元通りにしろとか命令するんだろうなぁーって思うと、なんかねー。


「あー、考えるのメンドイですー。」

 そう呟くと、今回のASが塵になって消えた。

 そして、ランウは隊員二人を紐で引っ張りながら本部に帰っていった。後始末も何もせず。

「……………ヤタラスが頭を抱えていた理由が分かった気がしますー。

 みなさーん!状況整理とー映像記録諸々ー後でお願いしますー。」

 私は自分の部隊に指示を出す。ヤタラスほどではないけど、やるべきことはやらなくちゃ。





「く!報告書ってこんなに大変なんですかぁ!?ヤタラスは毎回毎回これをぉ!?私には無理ですぅー!」

 出足で転んだ気分だわ。皆がヤタラスに押し付ける筈だわ。……まぁ、私も押し付けてた一人だけど。

 ヤタラスは出撃してない時も、指令部で敵の位置をアナウンスしてるし、映像で戦況を確認してるから、皆その時も報告書をヤタラスに丸投げしている。

 私達って、ヤタラスに頼りすぎていたのね………


「えー今回のー敵はー…………………」

 う~ん、私の情報だけじゃ物足りないわね……前に見たヤタラスの報告書はこんなんじゃなかったわ。


「……あった!この番号ね。

 あ、もしもしランウ?」

『もしもし、リブランですか?何の用でしょうか。』

「今日のASについてなんだけど……実際に戦ってみたあなたの所感を知りたくてですね………」

『は?そんな理由で俺の時間を割かないで下さい。失礼します。』

 ピッ!

 …………え?

「スゥー………ハァー……………マジですかぁ?」

 まさかここまで話にならないなんて…………………そうだ!

「ちょっとー!」

「はい!何でしょうか!」

 部屋から顔を出して廊下で声をかけると、一人が近寄ってきた。

「この報告書をランウの部下に渡してくれない?」

「分かりました!」

 さぁーこれで釜森長官のお叱りは回避ねー。







ーランウー


 力を使い、剣を振るう。少しでも鍛練して一体でも多くASを滅ぼすために。

「ランウさん!」

「なんだ?」

 津森が声をかけてきた。一大事でもない限り話しかけるなと言っていた筈だが………

「釜森長官がお呼びです!」

「釜森………?ああ、あのおっさんか。

 案内しろ。」

「はい!」

 一体どんな、話で俺を呼びつけたか楽しみだな。





「やぁ、よく来たね。」

 禿げ上がった頭部が天井の電気に反射しているのが目に入った。

「はっ、それで用件は何でしょうか。」

 加齢臭と酒の臭いが混じって最悪の気分だ。

 否応にも顔をしかめてしまった。

「っ………この報告書なんだが、もう少し……」

 釜森は一枚の紙を俺の前に見せてきた。

「なんだ、そんなことですか。」

「そんっ!?」

「下らない。」

 無駄すぎて溜め息すら勿体無い。

「なぁ!?なぜ報告書が必要なのか分からんのかね!?それは……」

「傾向と対策……だろ?そんなもの必要ない。俺が全てを滅するからだ。

 それでは、失礼。」

「おい!待て!ランウゥ!」

 なぜどいつもこいつも俺の邪魔をするんだ!

 耳障りな怒鳴り声を背に受けながら俺は部屋に戻って鍛練を再開した。

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