闇堕ち寸前中堅戦士の苦悩
麝香連理
第1話 俺の日常
「く、もうここまでASが!」
現場に急行すると、一般市民の居住区まで複数の魔の手が伸びている。
「第一から第三部隊は市民の救助を!第四部隊は俺と共に迎撃!」
「「「「ハッ!」」」」
俺は走りながら腰ベルトの左側から一枚の鎖でグルグル巻きになっている八咫烏が描かれているアクリルカードを左腕に装着されている武装(リリースマテリアライズ)に挿入する。
次に腰ベルトの右側から、火縄銃が描かれたアクリルカードを、武装の読み込み部分に勢いよくスライドさせる。それにより、音と共に縛られた八咫烏が上空に現れ、さっきまでの武装が読み込ませた火縄銃に変化する。
「リリース!」
言葉と共に、手にした火縄銃を上空の八咫烏に向かって放つ。それにより、八咫烏を縛っていた鎖が断ち切られて、俺の隣を低空飛行する。
こういう時に、火縄銃で鎖が断ち切れるわけない!と、思った方。空気が読めません。
まぁそんなことより、八咫烏が俺と一体化し、俺は戦う戦士となる。
「第四部隊!援護を頼む!」
「「「「「おう!」」」」」
第四部隊に手前に陣取っている雑魚である兵士共を任せ、俺は今回の首謀者がいる奥へと飛ぶ。
「導け!俺が今行くべき場所へ!」
八咫烏に願うと、俺にしか見えない光の線が現れた。
「こっちか!」
俺がそれに沿って飛んでいると、微妙に線の指す先が変わった。
「っ!」
それは、さっきまでの場所にはもう行く必要はない。……………つまり、助けるべき命はもう失われたということだ。
あぁ、あぁ、慣れてるさ。これを何十年も続けてるんだ。八咫烏、俺を導け!
「いた!」
今まさに、ASに襲われそうになっている一般人だ。
「おぉぉぉぉ!せいや!」
飛び蹴りをして、ASを引き離す。
「おぉ!ヤタラス!」
ヤタラスは俺のコードネームだ。八咫烏からガを抜いただけだがね。
「大丈夫か!?他の救助者は!?」
「あぁ大丈夫だ、俺以外にはいねぇ!」
「そうか!………では、あちらに向かって走りなさい!特殊部隊がいるはずだ!」
俺は八咫烏の導きに沿って指示を出す。この道であれば、敵に遭遇せず安全に保護されるだろう。
「あぁ、分かった!」
男性は無我夢中と言った様子で走り出した。
「……よし。後はこいつを倒すか。」
俺は向き直り、さっき飛び蹴りしたASを警戒する。
「グググ……よくもやりおったな………」
こいつはどんな技を使うか……観察が必要だな。
「フン、何故ここまで来れた?ここまでに結界があったはずだが?」
「フハハハ!知るか!来たらたまたま隙間があったまで!」
……まずいな、話し的に洗脳、記憶消去、後は…事象の無効化か?………頭が痛い………
「そうかい、なら戦いで手の内見させて貰おうか。」
報告書を埋めないといけないんでね!
「そう簡単に我に勝てるかな?くらえ!我が怒りの…「暴風斬!」グアァァァァァ!?」
俺が対峙していると、上空から一つの影が落ちてきて、敵を切り裂いた。
「……………ハァーーーー。」
俺の悩みの種の登場だ。
煙が晴れると、さっきまでいた敵は粒子となって消えてしまった。そして、悩みの種がズンズンと俺に近付いてくる。
「ヤタラス!何だ、その腑抜けた対応は!そんなんだから犠牲者が増えるんだ!」
彼はコードネームランウ(嵐雨)。スサノオノミコトを身体に宿す戦士であり、俺の後輩だ。
もう一度言おう、俺の後輩だ。
「ハァー………」
「何ですか!その態度は!あんなの話をしている間に殺しなさい!隙だらけでしょう!?」
羨ましいねぇ……!!!何やっても期待の新人と煽てられ、事務作業をしなくていい青二才はぁぁ!!!
「あのねぇ……」
俺は内心の怒りをしっかりセーブし、諭すように話しかける。
「言い訳なんて聞きたくないです!いつまでもそんな態度でいるなら、さっさと辞めてください!ハッキリ言って邪魔です!」
…………もうやだ。この子。
そう言うと、能力を使って我々の本部に帰還した。
「はあぁぁぁぁぁぁ………………第四部隊、そちらは無事か?」
『ハッ!こちら第四部隊!制圧完了!目視範囲に脅威は見えません!』
「ん。少し待て。」
俺は八咫烏に光の線を願う。
線は………無し。
「第一から第四部隊に連絡。脅威、共に要救助者ゼロ。我々の勝利だ!」
『『『『おぉぉぉぉぉ!!!!』』』』
彼らは鬨の声を上げ、救助者に安全を伝える。
そして俺は部隊員に後始末を任せ、本部に帰還する。
「フゥー………これで出すしかないよなぁ………」
俺は手元の報告書を確認し、上司のいる部屋へと向かう。
コンコンコン
「入りたまえ。」
「失礼します。」
「やぁ、ヤタラス。」
「辞めてください、戦闘中は部隊員と同じ装備をしているので顔は割れませんが、今はスーツですから。」
期待の新人くんは顔バレオーケーなのか、変身をネット中に晒されてるし、本名もバレてるがね。
「そうだったな、すまんすまん。」
この人は俺の上司で、東北圏統括の釜森長官だ。
「…これが今回の報告書です。」
「おぉ、すまないね。………………………」
あぁ、段々と顔が険しく………そりゃそうだよな、敵の詳細全然書けてないし。
「黒井くん。」
「はい!」
「これは、ふざけてるのかね?」
「い、いえ!そんなことは……」
「では何故、これしか書かれていないのだね?」
釜森長官が、報告書をバシバシ叩きながら質問してきた。
「えぇ、それは……」
「また、ランウのせいにするのかね?」
「まぁ……その……はい。」
「ハァー……私も彼の面倒を任せたことにはとても心苦しく思っている。だが、先輩として彼を制御するのも君の役目…そうは思わんかね?」
心苦しく?絶対思ってないね。制御が俺の役目?思うかバカヤロー!戦場に出すなら一人前にしてからだろ普通!!!!戦場舐めんな!?
「は、申し訳ありません。」
なーんて内心を吐露できるはずがなく、意味のない謝罪をまた繰り返す。
「いいかね?黒井くん。データとして倒した敵の情報を集めるのは何故かね?」
「は、傾向と対策です。」
それは、この機関が設営された当初からの決まりのようなものであり、俺もその設営当初からいた人材だ。知っていて当然である。
俺が答えると、机を指で叩きながら口を開く。
「そうだ、分かっているならいいが、今後とも続くようなら、君の地位もそろそろ考えなくてはいかんな。
もう行っていい。」
「……は、失礼します。」
これが俺の、黒井結火の日常である。
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