第2話 時代が移る?

 俺はストレスを抱えたまま、ベルトの整備のためにメンテナンスルームへと向かう。このメンテナンスルームも俺を悩ませる要因の一つだ。


「ハァー………」

 俺はため息をつきながら部屋に入ると、ストレスとストレスがお気楽にお話をしていた。


「冬音、今日ので脚部の装甲が削れた。修理を頼む。」

 一人は言わずもなが、ランウこと、鈴峯工彦くん。

 上空から落ちてきた時に出来た所だろう。つまりもっと考えればその箇所を直す必要もなく、無駄なリソースを割かないってのに。

「分かったわ。バッチリ修理してあげる!」

 こっちが鹿江冬音ちゃん。前メンテナンスルーム統括である故鹿江春音の妹である。若くして姉同等の才覚を示し、主要人物のベルトや武装のメンテナンスを行っている。俺の武装のメンテナンスも春音さんから引き継いでいるが、俺への当たりは何故か酷く、姉の性格は引き継がなかったようだ。

 話の感じ、どうも俺が春音さんに色目を使っていたと誤解しているそうだ。ハッキリ言っておくが、そんなことはない。厳しい戦いの中で、彼女の笑顔に救われたことはあるし、彼女の死の間際に託された物がたくさんあるからこそ俺は未だにこの職場で耐えている。だからそれ以上の不純な感情はない。

 むしろ、春音さんは恋愛というのをいまいち理解してないと思う。昔、隊員同士で春音さんの彼氏は俺だと宣い、俺が仲裁したこともあるし、バレンタインで彼女に送られた花束やチョコの整理や消費を手伝ったことも………あれ?今思ったけど、俺利用されてるような……?

 あぁーもしかして義理を通さなくて良いか?………まぁ良いか。ダークサイドを目指すのは、もっと先でも遅くはない。それに、今は目の前の命を救う方が大切だ。


 俺が決心を改めた直後、冬音ちゃんと目が合った。

「チッ!」

 舌打ちされた。まぁこれはまだ良い方だ。鈴峯くんと話して上機嫌なのだろう。

 機嫌が悪い時や俺が先に来た時は、俺のことをいないものとして扱い、他の職員を経由しないと話に応じてくれない。さらに、経由してもらう職員からも俺は良い印象を持たれていない。何故なら年下の少女を恐れて話しかけられない人だと思われてるからだ。

「鹿江さん、俺の武装も不備がないか見といてくれませんか?」

「目立った損傷がないなら持ってこないで下さい。胡座をかいてる高給取りさんのメンツのために私を使わないでいただけると助かります。」

 働いてないんだから整備する意味がないってか。機械は繊細だから、毎日整備のために持ってこいって指示を出したのはあなたのお姉さんなんですがねぇ。それに旧式だからすぐ終わると思うんですが?

 まぁいいか。今更何を言っても無駄だし。

「そうですか。では、失礼します。」

 俺が冬音ちゃんに会釈をして振り返ると、鈴峯くんが立っていた。

「………何か?」

「ヤ……黒井さん。あなたは長年前線で活躍して、俺の目標でもありました。」

 ほう、コードネームを言い切らなかったのは成長だな。

「それはどうも。」

「だが、今のアンタを見ているとイライラする!そんな態度でいるなら引退しろ!目障りなんだよ!」

 だれかーこのクソガキの再教育ー。

「はぁ、君が一人前になればすぐにでも引退するさ。」

「な!?」

「ちょっとアンタ!ランウが半人前って言いたいの!?」

 出しゃばんじゃねぇよ!マジで!

 あーあー他の職員も近付いてきやがったよ。

「ヤt……黒井さん。どういう意味ですか?」

「そうよ!説明しなさい!ヤタラス!」

 ほんまクソガキやわー。はい、俺の正体バレー。

 いや、我慢だ。ここは大人の余裕を見せるべき!

「分からないから半人前なんだ。気になるなら後で俺の部屋に来い。」

 ふー、決まったけど、後ろ振り向きたくねぇー!

 片や最近注目の超絶スーパーイケメンルーキー。

 片や最近活躍を聞かない超絶スーパーロートル。

 視線が痛い………

 俺は何事もなかったかのように振る舞いながらメンテナンスルームを出た。





 あーーー辞めようかなーーーこの仕事。

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