第14話 邂逅
今、俺は最前線に来ていた。
周囲には誰もいない。隊員もいないし、他の戦士もいない。本部との連絡も途絶しているし、戦場カメラマンもいない。もちらん光の道で確認済みだ。
ASに攻められて人が居住しなくなった土地にはASが跋扈すると聞いていたが、これはひどい。視界に必ずと言って良いほどASが映る。
この性質があるから普段は海に潜んでいる、という説は正しいかもしれない。
まぁそんな状況でなんで来たのかというと、釜森長官との約束を守るためだ。結局答えは出ず、俺が一人で出ることにした。
「フウゥゥゥ…………リリース。」
いつもの火縄銃ではなく、ハルバードを装備する。
これが、俺の本気だ。火縄銃は八咫烏との相性、ハルバードは俺の相性だ。
「フン!」
索敵や諸々として使っていた光の道の出力を自分の身辺のみに留め、その分ハルバードに力を注ぐ。
そうすることで、こんな風にASを風圧で吹き飛ばせる。幸いなのは氏神ばかりということだ。
神に向かって失礼だが、分かりやすく言えば雑魚である。
「はい、ホームラーン!」
ハルバードを振りかぶってASを吹き飛ばす。空中に漂う甘い匂い。これがする場所がASが現れる場所になるらしい。つまりこうやってASごとこの匂いも吹き飛ばしている、つもりだ。効果があるかは知ないが。
「はい、もういっちょー!」
段々楽しくなってきたな。思えばストレスが貯まる日々だった。だが、こうしていくごとに心の中がスッキリするのが分かる。
「お前達には申し訳ないが、俺の発散道具になってもらうよ!………はい!じょうがーい!」
野球はやったことないが、今度バッティングセンターにでも行ってみようかな。なかなか楽しいぞ。
久し振りだ、こうして心の底から楽しいと笑えるのは。戦士になってから笑っていたのは、ロウマと共に全国を駆け回ってASを撃退し、地元の人から食事をご馳走になっているときだった。助けた人達と一緒に生きていることに感謝しながら食べたものだ。今でも彼らの顔とあの時の食事の温かさは生涯忘れることはないだろう。
「っ!」
突然背後から何かが迫ってきた。最低限の警戒だったせいで、反応がやや遅れてしまった。避けきることができず、ハルバードで受け流した。
「ほう、それを受けましたか。」
「……名のある神とお見受けする。」
「私は多邇具久と申します。見ての通り、ただのカエルですよ。」
「く…………」
俺の脳がこいつは危険だと警鐘を鳴らす。一応無線自体は持っている。しかし、今連絡すれば無許可の出撃を咎められるだろうか。……いや、釜森長官はサビ残と言えば知らんぷりしてくれるだろう。問題は隊員達だ。きっと、連れていかなかったことを怒るに違いない。
「ふふふ。」
「っ!感慨に耽っている場合ではなかったな……」
多邇具久と名乗ったASが舌を伸ばして攻撃をしてきた。それは着実に避け、次の一手を見極めようと思ったのだが、それ以降は攻撃をしてこなかった。
「なるほどなるほど。流石はベテランと言ったところか。素晴らしいですよ。」
「…………」
「ふふふふ、問答をしない。実に私好みですよ、八咫烏のヤタラス。」
「っ!?!?なっ………!」
「なぜ、知っているか?……もちろん、知っていますよ。あなたのご友人、上司、ご家族。
私は多邇具久。全てを知るもの。まぁ、全国のカエル達の目を通して、ですが。」
「…………」
危険だ。存在もだが、能力までもがここまで厄介だとは。
ハルバードを構え直して、相手の出方を伺う。
「ふふふふふ、ヤタラス、あなたに提案があります。」
「……………」
「私と組みましょう。今の環境はあなたにとって不服ではありませんか?」
「っ……………」
「AS、この力は素晴らしい!神である我々が、力を失い、現世に現れる力を失った我らが神代の時のような力を振るえる!我らが切に願い追い求めてきた力!」
「くっ!」
圧倒的な力の波動。俺ではなく、俺の中の八咫烏が怒りを滲ませている。禍津日神は悪であると。
「八咫烏、いいえ、生玉兄日子命よ。あなたは間違っている。………そして、私も間違っている。」
「どういう………?」
「この世に、答え等ない。というわけですよ。
まぁ、これ以上プレゼンをしたところであなた達が靡くことはないでしょう。私はここらで失礼を。」
「おい!待て!」
多邇具久はそう言って消えていった。
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