第13話 復帰の重圧

「「「「ヤタラス、復帰おめでとう!!!」」」」

 一月ぶりに入った本部で盛大な出迎えを受けた。

タッタッタッタッ!

 するとリブランが早歩きで俺に近付き、俺の肩をガッツリ掴んだ。

「お帰りなさい、待ってましたよ!本当に………」

 悲壮感の籠った声ですがるように顔を近付けてきた。うわ、めっちゃクマ出来てる。

「…よく頑張ったね、ゆっくり休みな。」

「はいぃーーー………」

 そう言うと、ゆっくりとした足取りで仮眠室へと向かっていった。


「よく戻ってきてくれた!」

 一際大きな拍手で大きな足取りでやってくる人物が一人。

「これは釜森長官。無事復帰いたしました。」

「そうかそうか!早速で悪いが、私の部屋まで来てくれたまえ!」

 釜森長官は俺の肩を片手で叩く。

「承知しました。後程伺いますね。」

「いや、今すぐで頼むよ。」

「は……しかし荷物が………」

「なぁに、おいそこの!」

 釜森長官は近くにいた新人の三木君を呼ぶ。

「は、自分でしょうか?」

「あぁ、君、ヤタラスの荷物を預かりたまえ。」

「は、え?」

 釜森長官はそう言うとさっさと歩き始めた。

「すまないね、三木君。これ、頼めるかい?」

「はい……それは良いんですが………」

「部屋だろ?うちの隊員に聞いてくれ。時間を取らせて申し訳ない。」

「いえいえ!そんなことは!」

「ヤタラス、速く来たまえ!」

 釜森長官が少し遠くで声を出した。

「それじゃあ、よろしく頼むよ。」

「はい!任せてください!」

 新人の元気な声を背に、俺は釜森長官を追いかけた。










「それでは、いきなりで悪いが重要な話をしよう。」

「はい、なんでしょう。」

「君が前線からいなくなって一月でここまで戦線は後退した。」

 釜森長官は俺に電子地図を見せてきた。

 ………かなり下がったな。我々が発足する前よりはマシだが、それでも緊急事態ではあるだろう。

「そうですね。」

「…………分からんかね?」

「は?……えっと、何がでしょうか。」

「ハァー………これはひとえに君が後輩を指導、育成してないという指標ではないかね?」

 これは……まさか………!

「全くもって嘆かわしい。戦線の後退もそうだが、地主や株主からのクレームも酷いものだよ。それを一身に受けていた私に対して言うべき事はないのかね?」

 あぁー……始まった。

「そもそも、ベテランならばあの攻撃を弾くなり防御するなり出来るようになりたまえ!

 ……全く!」

 うっ……それについては耳が痛い。

「この度は本当に申し訳ありませんでした。」

「うむ。それで?」

「………戦線の押し上げを当面の急務として、迅速に行動すると約束いたします。」

「まぁ、いまはそれで良いだろう。早速実行に移したまえ。」

「承知しました。」

 あぁ、一先ず現状の確認をしなければ。






 ………最悪だ。

 俺は今、戦士のコンディションや武装の今を報告するパッドを見ていた。

 流石に日常的に使用する機械ぐらいは操作できるのだよ。って、そんなことはどうでもいい。

 大半が戦線を取り戻そうと無理をして体調を崩したり、深追いをして怪我をして二度と復帰出来なくなった戦士が半分以上もいた。

 流石にこれはマズイぞ………!

 戦線を押し上げるなんて話今すぐにでも無しにしたい。とりあえず、戦士の育成と新たな戦力の確保だ。

 育成は時間がかかるし、戦力の確保と言ってもそんな簡単に見つかるもんじゃない。九州から呼び寄せるのは釜森長官が嫌がりそうだし………

 だが、だからと言って甘えたことを言っていたら釜森長官からのお叱りを受けてしまう。



 コンコンコン

「どうぞ。」

「失礼しますー。」

 そこには、少し生気が戻ったリブランがいた。

「リブラン!?大丈夫なのか?」

「え、えぇ。体力も回復したのでーリフレッシュに無心ダンスをしていますぅー。」

 やはり疲れているのか、ゆっくりとした躍りだ。

「それで?どうしたんだい?」

「……今回、ヤタラスの仕事を少し肩代わりしました。それで知ったんです。あなたの仕事の大変さ。」

 急に真面目な顔付きになる。

「お、おう。」

「こんなにキツいなんて知らなくて……だから一言お礼をしなくてはと……」

 リブランがこんなに暗い顔をするとは珍しい。

「そんな、必要ないですよ。これは私がやるべき事なので。」

 俺がそう言っても俯いたまま言葉を続けた。

「それと、あなたが長年維持してきた戦線を下げてしまって本当に……」

 リブランは相当思い詰めてるのか、涙を流していた。床にリブランの涙が落ちるのが見えた。

「……いや、気にしなくて構わないよ。」

「ですが!」

「それよりも、速く元気になって戦線に復帰してくれ。君も貴重な戦力なんだ。眠らせておく訳にはいかないからね?」

 俺は優しくリブランの肩に手を置いて、彼女の目を見た。

「………はい。

ならそれまでぇ、ゆっくりさせていただきますー。」

「あぁ、期待してるよ。」

 リブランはスッキリとした顔で退室した。

 一先ず最悪の回避は出来たかな。

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闇堕ち寸前中堅戦士の苦悩 麝香連理 @49894989

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