第17話 先輩としての矜持
「行くぞ!ヤタラスゥ!」
あぁーもぉ!なんでこうなったんだよぉ!
俺はランウの剣を紙一重で躱しつつ、火縄銃で狙いを定める。しかしランウの速度はとても速く、狙っ
た時にはその場にいない。
適当に撃っても良いが、それで下手に大怪我されても困る。
「チッ!」
俺は翼を展開し、飛翔する。
「舐めるなぁ!」
しかしそれも無駄だと言わんばかりに、ランウは高速でこちらに詰め寄る。
やっぱり嵐を司るとか強すぎるだろ。
俺はすかさず翼を畳んで垂直に落ち、地面すれすれで翼を広げて上昇しながら身体を回転させ、真上にいるランウに火縄銃を撃ち込む。
「暴風斬!」
弾は呆気なく切り裂かれる。
すぐさま切り替えて逃げようと思った瞬間、身体が引っ張られるように流れる。
「風を操ったか!」
俺の言葉に無言の肯定をして、肉薄してきた。
「くっ!」
俺は咄嗟に火縄銃でランウの剣を受け止めた。
結果的に助かり距離は取れたが、火縄銃は真っ二つになったしまった。
「アハハハッ!俺を舐めるからそうなるんだ!さぁ!本気で来い!」
「ハァー…………」
俺は武装から八咫烏のカードを抜き取った。
「なんのつもりだ!」
俺の奇怪な行動を見てランウは声をあらげる。
「お望み通り、本気を出すだけだ。」
俺にだってプライドや八年間前線でトップを張った誇りがある。どれだけ強く未来を嘱望される後輩であろうと、ここまで虚仮にされて黙っていられるほど俺は人間出来てないんだ。
懐から鍵を取り出し、武装の側面に挿し込んで施錠する。それにより、武装に変化が起こり、いつもカードを挿し込むための挿入口が閉まり、その反対側が開く。俺はそこにカードを入れる。
それによって八咫烏が顕現するが、いつもよりダークな音が鳴り、八咫烏にもいつも装着されている鎖が存在しない。
「な、なんだこれは………」
「これは君達のベルト型にはない機能だよ。所謂初期型の切り札だ。問題点として、使用者の安全を一切考慮していない。」
イモータルソードのことをあれだけ貶しておいてなんだが、彼はその事を知らないからセーフ。
「なっ!?」
「さぁ、俺の本気だ。たっぷりと───味わえ。」
俺はその言葉と共に火縄銃のカードをスキャンする。八咫烏が鳴くと、俺と八咫烏が引き合うようにリンクする。
見た目はそれなりに変わっている。今までは力を借りるという形であったが、今回のこれは完全に一体化するからだ。
俺の全身に八咫烏の特徴が現れ、見た人からは異形と恐れられることだろう。
「ヤ、タラス……なのか?」
「あぁ、その通りさ。」
俺は火縄銃を無造作に構え、何発も撃っていく。
「当たるか!」
ランウはそれを華麗に避けていく。
それが、この姿になる前だったらば。
「どうかな。」
「なにを……ぐぅ!?」
俺が撃つ弾全てに光の道が付与され、全てが標的を狙うホーミング弾となる。
「これで分かっただろう?力の差は歴然。大人しく本部に帰りなさい。」
「っ!うるさい!うるさいうるさいうるさい!!!
俺は!ヒーローだ!例え倒れず、誰かを救う!お前みたいな半端なヒーロー、認めるわけにはいかないんだ!」
ランウは駄々っ子のように俺を否定する。
「フゥ、ご立派に御託を並べるのは良いが、今のお前は本当にヒーローなのか?」
「ど、どういう意味だ……!」
「自分を過信し仲間に感謝もしない。挙げ句の果てに仲間である俺を否定し刃を向けた。
そんな奴のを見て、誰がヒーローを夢想すると思っている?」
「五月蝿い!俺はヒーローだ!皆が俺を必要としている!頼っている!
その俺が正しくないわけないだろォ!」
ランウは激昂するように俺に飛び掛かる。
「暴風斬!」
「全く────」
「っ!?」
「まだ、力の差を理解できないみたいだな。」
俺はランウの剣を片手で受け止めた。
「な……んで………」
「悪いけど、君に正義はないよ。」
俺はそのままランウに回し蹴りをした。
「がっ………」
「………光の道よ、彼を導け。」
気絶したランウに光の道を使い、本部まで送った。
「ハァー………やっと一息つけ、ガフッ………」
強制的に武装が解除され、口から血が勢いよく飛び出してきた。
「あぁー……さっきランウは配信って言ってたっけ。」
俺は近くの建築物に背を預け、その場に座り込む。
「皆が来るまで、ここで休憩といくか。」
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