第6話 関係ない仕事
「は?今なんと?」
「口調は気を付けたまえ。」
釜森長官に窘められた。
「失礼しました。」
「言った通りだ。そろそろランウにも部隊を率いてもらおうと思ってね。」
「それを、何故私に?」
「…………実は、私からランウについていけるであろう優秀な人材に提案してみたんだが、無理の一点張りで。だから部下に慕われている君の言うことなら聞いてくれるだろう?それに君が見定める人材だ。ランウにも相応しい部下がつくことで協調性もある程度は身に付くだろう。」
「……………」
いいかい?も頼めるか?も聞かず俺がこれをすることが確定であると。言われたことは、まぁ上司命令だしなるべくやるけどさぁ、一言、それくらい言ってくれても良いんじゃないかねぇ。
「それでは、話は以上だ。出てくれて構わんよ。」
「……失礼しました。」
どーしよーかなーー……
「なぁちょっと…」
「はい、っ!黒井さん!す、すみません!ちょっと用事が!失礼します!」
「あ……」
「今いいか?」
「ごめんなさい!無理です!」
「……………」
「……てことがあってね。新人やフリーの人に声をかけても皆逃げちゃって。他の戦士にも連絡してみたけど、やっぱり隊員の引き抜きは無理っぽいしさ。」
ランウの情報がほぼ嘘偽りなく出回っているこの場所では、ランウの部下になることを嫌がる人が大勢いた。
「大変ですねぇー。」
俺は一旦、一番愚痴を聞いてくれる五穂ちゃんの所にやって来た。基本この子は暇なため、何でも聞いてくれる。
「………」
「今、失礼なこと考えませんでした?」
「…そんなことないよ。特盛スパゲッティをもらえるかな?」
「はーい。
…………お、おえぇぇぇ…………………はい。」
いつも通り、隠れて生成した食品を俺の前に出した。
「うん、ありがと。」
美味しい。
「それにしても大変ですねぇ。そんなことまでしなきゃいけないなんて。
私には縁遠い世界です。」
「でも、俺には俺の、五穂ちゃんには五穂ちゃんの大変なことがあるし、お互い様だよ。
ハァー……ランウにつける隊員、どうしようかなぁー………」
俺は息を吐きながら顔を上げた時、五穂ちゃんが視界に入った。…………………そういえば、
「橋見と津森ってここに来るんだっけ?」
「はい。前にも言った通り鼻息荒いですよ。」
「………もう一度聞くけど、嫌じゃない?」
「んんん、別に?よく来てくれますし、値段よりも多めに支払ってくれるんです。えっと、スパチャ?って言ってました。」
「………そう。」
あいつら…………そうだ。
「二人はいつもどれくらいに来るの?」
「んー、一週間に一回ですから……あ!ちょうど今日ですね!」
「ほう?じゃあちょっと頼み事、聞いてくれるかい?」
「もちろん。」
「ヤッホー、また来ちゃったよー!」
「五穂ちゃーん!元気ー?」
「橋見さん、津森さん。また来てくれてありがとうございます。今日は何にしますか?」
「今日はねー、奮発して、スペシャルハンバーグにしようかな!」
「俺はー……よし!俺も奮発だ!魚介たっぷりラーメンで!」
「はぁーい!ちょっと待っててね。」
「「はぁ~い。」」
キモ………あの二人、あんな顔出来たんだな。いつもはもう少しまとも、というか結構凛々しい顔をしていたと記憶していたが。というか、こんな状況でよく五穂ちゃんは笑顔でいれるな。
「う、おおおぉえぇぇぇぇぇ……………あえ、おあぁぁぁぁ………………はい、召し上がれ。」
「「いただきます!」」
そう言って二人は勢いよく食べ始めた。お互いがお互いをライバル視し、競争するように。
「そういえば聞きましたか?ランウさんの隊員募集。」
仕掛けた!
「お、よく知ってるね?五穂ちゃん。」
「そうなんだよぉ。俺達にも話が来たけど無理無理。給料はめっちゃ良いけど、それ以上に疲れる未来しか見えないんだわ。」
「そーそー、俺達みたいな一般隊員には、隊長みたいに指揮が上手い人じゃないと生き残れないよ。」
む、急に褒められて少々むず痒いな。
「えぇ?………じゃあー私が立候補しちゃおっかなぁー?」
「「それは駄目だ!」」
「わ。」
「あ、ごめんね?」
「ごめん。でもそれは止めときなよ。」
「んーでも給料は格段に良くなるし、このままじゃ、私ここを出ていかないといけないかもしれなくてー。」
「「なに!?」」
「利用者も少ないですし………」
五穂ちゃんがチラリと二人を見つめた。
「……よし!なら俺達が立候補して!」
「五穂ちゃんが危険な目に遭わないように!」
「給料たんまりもらって!」
「今までよりもここに来て五穂ちゃんに貢ぐ!」
「「これだ!」」
「えぇ?でも良いんですか?私、ランウさんのことはよく知りませんけど、大変なんでしょう?そんな危険そうなことを常連のお二人にお願いするのはちょっと………」
「良いんだよ!五穂ちゃんのためならたとえ火の中水の中!」
「それに、今の職場じゃ今までぐらいの頻度でしかこれないしな!立候補すれば今までの二、三倍は来れるよ!」
「本当ですか!?ありがとうございます!私とっても嬉しいです!だから………ごめんなさいね?」
「「え?」」
「よぉ、お二人さん。」
俺は橋見と津森の肩にそっと手を置く。
「く、黒井隊長………」
「何故ここに………」
「俺のことを褒めてくれたのは嬉しい。それに、俺の悩みの種を自ら消してくれるなんて、とても良くできた部下だ。俺はお前達二人と出会えてとても感謝しているよ。ありがとう。」
俺は最大限の感謝を伝えるため、そして、悩みの種が消えた嬉しさで満面の笑みをした。
「は、はひ………」
「終わった……………」
「お二人とも、働く場所が変わっても頑張って下さいね!またお待ちしています!」
「五穂ちゃんのためにも漢見せろよ?」
「「………ウッス。」」
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