第七章 第二節 「交わる糸は何色か」

 助けて、たすけて。脳の奥にこびりつく声。それは、私の目の前で炎を上げて、言葉にならない叫びとなり、私の耳をつんざく。ごめん、ごめん、と私は謝り続ける。目の前で灰になっていく彼女を、助けることが出来なかった……。




「……ちゃん、晴香ちゃん」

「う、うぅ……」


 目を覚ますと、見慣れた部屋が目に飛び込んできた。甘い匂い。シェリーの家だ。目の前にはブロンドの髪を垂らす親友の顔が見えた。そしてすごく、具合が悪い。辛い頭痛、倦怠感、熱を持った身体。おまけに聞こえる音も変だ。


「シェリー……?」


 声も力が入らない。ぼろぼろだ。


「おはよう、晴香ちゃん。すっごくうなされてたよ?」

「……わ、私は……?」

「教会で意識を失っていたの。……覚えてる? 教会での出来事」

「えっと……」


 その時に思い出したのは、現実ではなく、その後に見た悪夢の光景だった。思い出すだけで、心臓が跳ねて、吐き気がしてくる。

 違う違う、とそれを一旦忘れて、現実の出来事を思い出す。そうだ、紫塔さんが……大変なことになってる……!


「し、とうさんは……!?」

「分からない。私が教会についたときはもう、紫塔さんの姿は聖堂になかったの」

「紫塔さん、処刑されちゃう……!」

「え……?」

「寝てなんか、いられ……なっ」


 立ち上がろうとした体は、大きくバランスを崩す。シェリーが慌てて支えてくれた。


「駄目だよ、晴香ちゃん……。そんな身体じゃ、無理だよ」

「だって、紫塔さんが、死んじゃう……!」

「でも、今のまま突っ込んでも、勝ち目はないよ」


 分かっている、わかっているけれど! もう時間がないんだ……! どうすればいいのか分からないけれど、どうにかしなくちゃいけないんだ!


「晴香ちゃん……」


 言葉に出来なかったけれど、思いは親友に伝わったみたいだ。すると、シェリーは突然強く、私を抱きしめてきた。


「……? どうしたの……?」

「紫塔さんもだけれど……私は晴香ちゃんのことが一番心配だよ……!」


 ……。熱に浮かされて焦がれていた気持ちが、ちょっと落ち着いた。彼女のハグに応えると、しばらくその時間は続いた。





 暑い、と思ったころにシェリーはやっと放してくれた。彼女の気持ちだって伝わってきた。


「暑かったよ……」

「ああ、ごめん。お水飲む?」


 差し出された冷えた水は、熱で茹だっていた身体にしみわたって、すごく心地がいい。


「ありがとうシェリー。ちょっとだけ落ち着いたよ」

「良かった。……もう夜だよ?」


 驚いて、時計を見るともう零時手前だった。


「……明日学校行けるかな?」

「無理しないでいいよ。私、看病してあげるから」

「ダメでしょ、学校行かなきゃ」

「いいの! 私がしたいんだから」


 こんな不良に育ってしまうとは……悲しくなってしまうよ、シェリー。気持ちはとってもとってもありがたいけれど。


「それに、晴香ちゃんだけで紫塔さんを助ける手を考えるのも、難しいんじゃない? もしかしたら今の晴香ちゃん、一人で特攻を仕掛けるかもしれないし」


 あ、確かに。そうなると……これは致し方ない、って所なのかな。


「うーん……わかった。二人で何かいい案を考えようか」

「うん! じゃあもう寝よう、か……おなかすいた?」

「いや、ちょっと食欲無いわ」


 じゃあ、とシェリーも私も寝る準備を始めた。


「……え、隣同士!?」

「そうだよ、晴香ちゃん。晴香ちゃんがうなされて苦しいときに、寄り添ってあげたいもん」

「ありがと……でも、暑くないかなぁ?」

「汗かいても大丈夫。明日一緒にお風呂入ろう?」


 ……甘々だ!! たまーに、彼女はこういう片鱗を見せてくる。


「あー……そうしようか」

「おやすみ、晴香ちゃん」


 部屋のあかりが消されると、私は目を閉じる。ついさっきまで寝ていたから寝付けない……。ふと、隣の親友の寝息が聞こえないのでちらっと横目で見る。


「わぉ!」

「うわっ」


 がっつりこっちを見ていた。ど、どうして……。


「あの……。ちょっと緊張するなぁ」

「気のせい気のせい」


 彼女の腕が絡んでくる。この状況に落ち着けるわけもなく、いつの間にかぐっすり眠り始めた親友の横で眠れない夜を過ごした。





 翌日、まだ怠さの抜けない身体を起こす。横にはまだまだスヤスヤと寝ている親友がいた。時計を見るともう登校には遅い時間。目覚ましも切っていたんだ、シェリー。それにしても――私、こんなにメンタルのショックが身体に出ちゃうタイプだったんだ。

 外は爽やかさあふれる朝の光が眩しい。少しだけ浴びたいな、とゆっくりベッドを出ようとしたところ、腕を引っ張られた。


「おはよ」


 ラブリーさ全開! みたいな感じで親友が声をかけてくる。彼女はそういうところあるからな。


「おはよう」

「体調どう?」

「ねむい」


 あんまり眠ることが出来なかった反動が来ていた。幸い、熱は下がった気がする。お腹に何か入れたい欲もある。


「元気そうだねっ」

「ちょっと朝の空気を吸いに行きたいな、って。もう登校時間過ぎてるけど」

「うん、一緒いこっか」


 シェリーも起きて、外出の支度を始めた。




 散歩に出ると初夏の朝の空気、光、全てが爽やかで気持ちがいい。学校を休んでしまった罪悪感は少し感じているけれど。


「いい天気」

「うん。久々だな~、こうやって空を見るの」


 あんまりそういう所に思いをはせる習慣は私にはなかったみたいだ。


「朝ごはん食べよっか」


 親友に促されるまま、また彼女の家に戻って腹ごしらえをすることになった。




 朝の諸々の時間を楽しんで落ち着いて、シェリーの部屋で一服、そして思考を現実に戻す。


「さて」


 今日の本題、『どうやって紫塔さんを救い出すか』。そもそも、紫塔さんが今どのような状態なのか、私にも分かっていない。まだ処刑はされていないと思うけれど、それすらも分かっていない。

 そのためには、まず情報収集が必要だと思う。紫塔さんが今どのような状態なのか。そして魔女の処刑というのがどのようなプログラムで行われるのか。この二つを調べて作戦を立てなくちゃいけない。


「シェリー、今日は一緒にデートしよっか」

「!!」


 心底驚いたように、シェリーは持ってたマグカップを落とした。幸い、クッションの上に落ちたそれが割れることはなかった。


「……! ……!!」


 言葉を失った親友は、口をパクパクさせて、魚みたいだ。かわいい。


「いっしょに、教会とか見に行かない?」

「あ、あの……っ、気が、早い……っ!」


 見る見る真っ赤になっている彼女の顔はやかんを連想しちゃった。かわいい。


「もう十年付き合ったんだからさ、そういうのも考える頃かなぁってね」

「うっ、うぅ……っ」


 何かに耐えられないかのように、シェリーは鼻と口を覆った。なんだなんだ?


「鼻血出ちゃう……」

「大丈夫!?」


 ちょっと揶揄いすぎちゃった。ごめんごめん。沸騰しちゃった彼女に冷えた水を持ってきてあげると、彼女はちょっとずつ飲み始めた。顔が真っ赤で、彼女自身も手で仰いでいた。かわいい。


「暑い……もう、晴香ちゃんの、ばか……」


 罵倒にエネルギーがない。相当動揺したんだろう。このからかい方は、切札として取っておくことにしよう。




「で、実を言うと教会に行くのは紫塔さんの状態確認と、紫塔さんを処刑する流れを確認したかったんだ」

「もう……分かってたけど……」


 疲れ切っている親友はちょっと落ち込んでいる。


「果たして、私たちに簡単に教えてくれるかな……」

「うーん、どうだろうね。一応聞いておくけれど、晴香ちゃんは教会から敵として見られていないんだよね?」


 ちょっと思い返す。あの牧師さんの感じだと敵とみなした話し方じゃなかったけれど、それはそれとして紫塔さんとの関わりがあるとは知られていると思う。だから目はつけられているかもしれない。


「どうだろうね……」

「うーん。晴香ちゃんが聞きに行ったらちょっと警戒されそうだね」


 たぶん、そうだと思う。となると、ちょっと動きづらい。じゃあ、と親友の目を見る。さっきの流れがあったからか、私の視線に気づくと彼女は少しおどおどし始めた。


「え、えっと……何かな晴香ちゃん?」

「頼れるのは無二の親友っ! シェリー、力を貸して!」


 とにかく、勢いが大事。私は全力で彼女にお願いの姿勢を見せた。


「え、えぇ~……」

「頼む! この通り! 今度またデートの予定を立てる!」

「あ~っ」


 見れば親友は満面の笑みでOKサインを出してくれた。




 昼前になって、私たちは教会を訪れた。昨日も含めて何度か来たことはあるけれど、どうもなんか緊迫した空気が流れている気がする。

 聖堂に入ると、何かやっぱり慌ただしい。職員さんが聖堂を行ったり来たり、右から左。準備をしているみたいだ。その中心に、目的の人物はいた。


「あの」


 シェリーがバロウズ牧師に話しかける。相変わらず柔和な態度で親友に接していた。私は後ろの椅子の陰からそっと見守る。

 すると、シェリーがこちらへ手招きしてきた。ん? と思いながらも私は隠れるのをやめた。


「君はあの魔女と親しかった子だね」


 やっぱり素性はバレているみたいだ。


「どうしたんだい? あの子と話でもしに来たのかい?」

「それは……はい」


 すると牧師さんは肩をすくめて、告げた。


「残念ながら、魔女との交流というのは教会側として許されるものではない。君が魔女と親しくしていたのかもしれないが、忘れなさい」


 一転、牧師の言葉はただただ冷たいものとなった。やっぱり、そういう立場の人だよね。言われた言葉に落ち込むでもなく、私は聞き流した。


「わかりました」


 そう言って、私たちは教会を後にした。これではシェリーも牧師さんから詳細を聞き出すことは出来ないだろう。





「結局ダメかぁ」


 近くの公園で二人くつろぐ。じゃあ、と次の策を考える事にした。情報を知る手段はツテだ。そう思い返して誰か頼りになりそうな人物を考える。


「あ」


 私と、シェリーの声が重なった。思ったことはきっと一緒だ!


「いるよね!?」

「うん、そういえば!」


 私たちはとりあえずシェリーの家に戻ることにした。





 昼になって、シェリーは美味しいうどんを作ってくれた。こう元気に過ごしているけれど私はまだ病み上がり。彼女の優しさがしみわたる料理に、幸せを感じる……。


「シェリーってさ、お料理得意だよね」

「え? うん、うちに一人でいることが多いから」

「外食も出来る……よね?」


 なんか前にちらっと、彼女は真っ黒なカードを使って買い物が出来るという話を聞いたことがある。それを使えば出前とか簡単に取れそうだけれど。


「いいの、自炊好きだもん」

「いいお嫁さんになりそうだね」

「ちょっ……!」


 またからかってしまった。彼女の顔はまた赤くなった。


「そんなこと言うと、私の手料理無限に食べさせてやるんだから」

「えっ……えぇ……?」


 思わぬカウンターに私はうろたえてしまった。


「何? 嫌なの!?」

「……食べます、食べますとも! いつでも、出されたタイミングで美味しくいただきます!」


 親友は笑顔を取り戻し、私も笑顔になった、冷や汗とともに。





 昼を待ったのは理由がある。相手の昼休み時間を狙ったんだ。私は携帯電話で相手の電話にかける。コールが数回のあと、相手につながった。


『もしもしー!? お、はるっちじゃーん!』


 あまりにも陽気な第一声に、思わず耳を遠ざけた。


「あ、紗矢ちゃん、こんにちは」

『おすおーっす! 体調はよくなったぁ? ……』




 相手の和泉いずみ紗矢さやちゃんはクラス一の陽気なギャルだ。女子の私が言うんだ、彼女はギャルだ。あんまり親密な絡みはしないけれど、彼女と何気ない会話をするのは好きだ。


『で、どったの?』

「あのね、紗矢ちゃんにお願いがあるんだ」

『へー?』

「紗矢ちゃんのお母さん、シスターさんでしょ?」


 そう、この紗矢ちゃんの親が教会とつながりがある。だから彼女から教会側の情報を引き出せないか、という算段だ。……もっとも、こんな風に友達を利用したくは無かったけれど、今は緊急事態だ。


「――ってことなの」

『なるほど~! うん、ちょっとママに聞いてみるね』


 了承を得ることができた。これでちょっと希望が持てたかも。


『そのかわり、今度ランチ一緒にやろうぜ』

「いいよ、いっぱい」


 そうして電話は切れた。




 さて、と息をつくとウトウトしている親友の姿が目に入った。食べて眠くなるなんて子どもみたいだ。


「昼寝する?」

「そうしようかなぁ……」


 そう言ってシェリーは自分のベッドに横になった。……今寝たら絶対に夜眠れなくなるパターンだけれど……まあ、ここで意見するのも野暮だ。


「おやすみ。ちょっとだけ寝るね」


 親友は瞬く間に寝息を立て始めた。寝付くまでの速度に驚いた。さて、これからどうするか。


(シェリーをこのまま夕方まで寝かせちゃおうかなぁ……ぐへへ)


 親友の寝顔を見るのは好きだ。このままぼーっと数時間過ごすのも悪くない。たまには息抜き、必要だよね。


「……暇だね」


 学校のない私の生活がスカスカなことを実感しながら、今日は快適な一日を過ごした。





 翌日。私の体調もすっかり良くなり、登校出来た。学校につくと、クラスメイト数人から心配する声がかけられた。すると、その中に目当てのギャルも参加してくる。


「おっすーはるっち。いい情報あんだけど」


 少し怪しい視線に、私も怪しい笑みがこぼれた。

 ギャルから渡されたのは一枚の紙。見ると、『魔女裁判まじょさいばんのお知らせ』の文字が目に入った。思わず緊張感が走る。


「なんか今度そういう催しがあるから、アタシも来なさいってママから言われてんの」


 文面の下に目を通すと魔女裁判の進行プログラムが詳細に書かれていた。これが分かれば、どこから紫塔さんを助ける算段を組むか、という計画を立てられる。


「そういや、みおっち最近見ないね」


 『みおっち』というのは紫塔さんのことだ。紫塔しとう美央みおだからみおっち。


「はるっち仲良かったよね? 連絡してる?」

「あー……」


 そうか、紫塔さんが魔女だって話は、彼女はじめ、学校の皆には伝わっていないんだ。……教会職員の娘でも知らないんだね。秘密にする事項なのかな?


「ちょっとプチ旅行行っているみたい」

「あーね! フランスかな!?」


 話が飛躍しまくってるけれど、それが紗矢ちゃんの持ち味でもある。このお喋り力はちょっと真似できない。


「で、はるっちこの『魔女裁判』行くん?」

「うん」

「そっかぁ」


 屈託のない笑顔。紗矢ちゃんに裏表は感じたことはない。


「ねえ、紗矢ちゃんはこのイベントどう思う?」


 ちょっと不安になって、彼女に聞いてみる。一般の人的にはこれはどう見えているんだろう。


「うーん……アタシはこのイベント初めてだけれど……ちょっと、イヤかな」


 紗矢ちゃん……! 良かった。まだこの出来事にノーを突きつける人がいたことに安心する。それもシスターの娘だ。親からそういう教育をされていても不思議じゃないはずなのに。


「どしたん? ニヤけてっけど」

「ううん、別に! ありがとうねプログラム」


 朝礼前のひと時はこれで終わり。あとはどういう策を取ろうか……そして今の紫塔さんの状態はやっぱり気になる。





 昼になると私のところに親友と、そしてギャルも来た。親友はギャルにおびえている。


「シェリーちゃん怯えなくていいのに。アタシ、キミのこと食べないよ?」

「え、ええと……」


 完全にビビっているシェリーをどうにかなだめつつ、お弁当を広げる。


「どうして和泉さんが、晴香ちゃんとお昼を……?」

「お約束なの、情報を渡す代わりに付き合えってね」


 紗矢ちゃんがシェリーに語り掛ける。それでもまだシェリーはアワアワとバグっている。うーむ。


「紗矢ちゃんいつも誰と食べてるんだっけ?」

「みーんな! アタシ皆の事よく知りたいからさ。特に誰かと、ってのは決めてないんだ」


 コミュ力お化け……! こんな人いるんだなぁ……。


「飲む?」


 紙パックに刺さったストローを紗矢ちゃんが向けてきた。これを吸うと間接キスになるけれど……!?


「いやーちょっと……」

「そだよねー」


 紗矢ちゃんはそのぶどうジュースを再び飲み始める。


「和泉さん、あーいう感じなんだ……」


 耳打ちでシェリーが言ってきた。シェリーから見たらこの距離感はかなり異質なのかもしれない。私もかなりビックリしている。


「紗矢ちゃん、お母さんから教会の話とかよく聞くの?」

「ママは仕事熱心だからねー、よくしてくるよ。でも、ここ最近結構怖い顔で帰ってくるからどうしたんだろうねーって」


 たぶん魔女裁判のことで仕事が増えたんだと思う。じゃあ、紗矢ちゃんを深堀りすればするほど教会側の情報は手に入る……?


「はるっちとシェリーちゃんって仲いいよね」


 唐突に紗矢ちゃんは話を変えてきた。紗矢ちゃんは結構こんな感じの話し方をする。一つを深く話し込むんじゃなくて、広く浅く喋るタイプ。


「幼なじみ?」

「そうだよ」


 私たちの十年の関係をぎゅっと凝縮して紗矢ちゃんに話すと、彼女はとても喜んだ。


「すっげー……本当にそんな純愛あるんだ」

「純愛……!?」


 そういう友達が羨ましいらしい。真っ赤なシェリーを見て、紗矢ちゃんは朗らかに笑った。





 わちゃわちゃとしたお昼を過ごし、午後の授業も終える。今日も親友と共に帰ることにした。いつもの日課ではあるけれど。それ以上に彼女の家で作戦とか立てたかった。だけどそこに。


「よっ、はるっちー!」


 ギャルのいい匂いに包まれる。私が身に着けたことない匂いだ……。親友のげんなりしてそうな顔が見えた。


「紗矢ちゃん、どうしたの!?」


 するとハグしていた手を放して紗矢ちゃんは聞いてくる。


「キミたちのこと、もっとよく知りたいなーって、アタシの直感がね」


 私は別に構わないけれど……と思いつつ親友の顔を見ると顔を横に振っている。NGっぽく見えるけれど……。


「えー……。だめ? シェリーちゃん?」

「私の部屋狭いし……」


 そんなことはないけれど、彼女の事だ。まだあまり仲良くない人を招きたくないんだろう。


「ごめんね紗矢ちゃん。家主がダメだって言ってるから……」

「じゃあ途中まで!」


 ……こうして紗矢ちゃんと途中まで一緒に帰ることになった。シェリーは浮かない顔だ。分かってた。





 いろいろ他愛もなことを喋りながら帰り道を歩いていく。紗矢ちゃんと歩いていると、いい意味で落ち着かない。彼女はなんだか、すごく都会の学生って感じがするから、さ、ほら……私場違いじゃないかなって。


「どうする?」


 コンビニで飲み物を買った私たちは公園で一息つくことに決めた。子どもが遊具で遊んでいるなか、ベンチに三人座る。私が真ん中。


「なんか、今どきの女子って感じ」

「んー? アタシら、ふつーに今どきの女子っしょ! はるっちおもしろ」

「……」


 シェリーは黙々と手元の紙パックのストローをすすっている。ジト目で。


「んーで、はるっち達これから遊ぶ予定だったん?」

「まあ、そんなとこ」

「アタシね、わかるよ? 大事な事を決めようとしてたんだ?」


 うっ!? なんか読まれてる……!?


「あ、図星でしょ」


 ニヤニヤと悪戯っ子の笑みを浮かべる紗矢ちゃん。それに少し、私は気味の悪さのようなものを感じてしまった。


「これは遠い遠いところの推測なんだけど、それってみおっちにも関係ある?」

「……」


 いや、これは……心を見透かされている……そんな気分。もしかして紗矢ちゃん……。


「占い師とか向いてるんじゃない、紗矢ちゃん?」

「え? あーうんちょっとやってみたことあるよ」


 あ、やっぱそういうスキル持ってるんだ。現役高校生で占い師の歴があるの、すごいな……。


「外れたけど」


 まったく当てにならない歴だった……。


「でもね、なんか分かるんだぁ。人がどう思っているかとか、そのオブラートに包んだ言葉の裏、なにかあるでしょ、ってね」


 ……。悪寒が走る。これもしかして……ね? 教会側の人の娘、ということは大体教会側につきそうな人間。それが、こうして私たちの予定を暴いていっている。これは私たちは狙われているんじゃないか……って思った。


「聞かせて? みおっちの行方とかさ」

「晴香ちゃん! この人ヤバいよ!!」

「? ヤバいって、アタシが?」


 きょとんとしている紗矢ちゃんを置いて、シェリーはその場から立ち去ろうとしていた。


(紗矢ちゃんを信じるか、否か……)


 冷静に考えてみたら、紗矢ちゃんは教会側に味方しそうな立場。彼女に私たちがやろうとしていることを伝えたら邪魔されるかもしれない。彼女自身にも、彼女を伝ってシスターのお母さん、そして教会側からも。


 でも――紗矢ちゃんさっき『魔女裁判は嫌かも』って言ってた。それやっぱり嘘なのかな。紗矢ちゃんが私たちを揺さぶるための嘘……? いや、と私の気持ちは紗矢ちゃんへの疑いを否定した。


「紗矢ちゃん、第六感の持ち主なんだ……!」

「照れるわ」


 今のどす黒い考えは置いといて、彼女に話をしてみようと決心した。振り向くと親友が不機嫌そうな顔で突っ立っている。ベンチの空いた隣をぽんぽん叩くと、その顔のまま、またシェリーはそこに座った。

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