第五章 噂話と過去の事件 4
長雲様が
今から五十年近く前に、先々代の皇帝が即位した。その後、後宮では皇后の座を狙う妃たちの
「おばあちゃん、やっぱりすごい人だったんですね」
「そのようだな」
そして妃たちが用いた呪術は当時の魏家の妃、魏
「長雲様、魏家は代々巫術の家系なのですよね」
魏徳妃様の浄眼を思い出す。
「ああ、そうだよ。古くから龍星国の
「こんな大事件を起こして一度は追放されたのに、すぐに宮廷に戻れるものなのですね」
「魏家はお体の弱かった先帝のために、霊気を宿した宝玉を贈ったり、毎日
「長雲様は、魏家が宮廷内で呪術の売買をしていると思われますか?」
単刀直入にそうたずねる。
「その可能性もあるだろう。だが魏家はようやくかつての地位を取り戻したのだから、今の状況を守りたいと考えているはずだ。かつて宮廷から追放された時には相当貧しい暮らしを強いられたと聞く。そんな魏家に、今事件を起こす理由はないようにも思う」
「確かに、そうですね」
「それと魏家は先帝の頃に宮廷に戻った後、巫術に関する売買の規制法を次々に発案し、それらは先帝によって採用されている」
「えっ、自分たちも巫術の家系なのに、ですか?」
「うむ。巫術によって国が乱れることのないよう、厳しく取り締まるべきだと声を上げたのだ。この己を律するような行動が当時は賞賛されたそうだが、同時にこれによって龍星国内の巫術に関わる産業は一気に衰退していった」
「あ、それって連天の人形の売買を取り締まる規制法も、そうですか?」
「そのようだ。ここに縁起物の人形の売買について、魏家の礼部尚書より規制法が発案されたと記録されている」
「えっ……」
私は記録書を手に取り、規制法制定に関する記述に目を通す。
そこには縁起物の泥人形は原始的で低俗な文化であり、こうした人の不安につけこみ
「連天の人形のことを、こんな風に悪く言うなんて……」
確かに人形は、時によっては呪術の道具として悪用されることがある。だが代々続いてきた人形作りの風習をまるで汚らわしいもののように扱われ、強い悲しみと憤りを感じた。
それにこの規制のせいで連天は貧しくなり、村では他に産業もないから、子供たちでさえも危険な崖の薬草採りにまで出なければならない状況になったのだ。
「魏家は国内の
「そんな……」
「それが政治というものなのだ」
長雲様は深いため息を漏らした。
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