第一章 魂人形を作る少女 6

 それから私たちは場所を変え、長老様の家でお話をすることになった。


 そのお役人様はちょううんという名の宮廷勤めの文官で、皇帝陛下とそのご家族のために奉仕する宮中省の仕事をしているらしい。陛下の命を受け、私を後宮に呼び寄せるためにわざわざ五日もかけて連天まで来たそうだ。


 もう、逃げられない。私は後宮へ行かなければならないのか……。


 どんよりと心が沈んでいる私に、幽鬼のような長雲様が語りかける。


「正直俺は、命を持つ人形というものの存在を、この村に来るまでは信じていなかった。だがこの村に来て、多くの生きた人形たちが働いているのを目にした。お前があの人形たちを作ったのだな?」


「う……」


 相手は初対面の、それも自分が今までの人生では出会ったこともないような高貴なお方だ。

 私は緊張で返事もできずに、ただこくりとうなずいた。


 まるで自分が罪人にでもなったかのような気分だ。部屋の扉の前では私が逃げ出さないように智信が見張っているし、長老様は長く伸びた白いひげを触りながら、何も言わずに私たちを見つめている。


「お前は人と話すのが苦手だそうだな。後宮へ行くのは嫌か」

「う、は、い……」


 目をつぶり、首をブンブンと縦に振る。どうかわかってくれと願ったが、願いは通じなかった。


「この後宮行きの話はお前にとって都合の悪いことばかりでもない。給料は十二分に出るし、後宮の治安改善といっても、結局お前がすることは人形作りだけだ」


「へぃ……」


「人が嫌いなら後宮の工房から出なければいい。お面をつけていないと人と会えないという事情も、俺から話を通しておく。他にも困りごとがあれば、俺に相談すればいい」


「うぅ……」


「陛下が命を持つ人形をご覧になれば、きっと感激なさるだろう。お前にとって魂人形を作ることは造作もないことなのか?」


「……い……え、あの、う」


 言葉が出ず、また私は首を横に振った。


「なにか問題でも?」


 私が黙りこんでいると、代わりに長老様が答えた。


「あれは十年ほど前のことじゃったか、鈴雨がラオフーの魂人形を作ったことがありましてな。魂人形を作るときは必ずわしの許可を得ることになっておったのですが、鈴雨はその時だけ言いつけを守らんかったのです」


 あまり思い出したくない話だ。つらい気持ちがよみがえり、手で顔を覆い、うつむいた。

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