第一章 魂人形を作る少女 7

「老虎はけの人形で、ものを恐れない子供になるご利益がありましてな。村の泣き虫の子供のために相棒をつくってあげようとして、鈴雨は勝手に老虎を作ったんですな」


「それで?」


 無表情のまま長雲様があいづちをうつ。


「確かに老虎を作ってもらった子供は喜んでおりました。だが老虎が命を持ったその日の夜、老虎はお腹をすかせて、村に一頭しかいない牛をぺろりと平らげてしまった。この貧しい村にとって、牛一頭は貴重な財産でしてな」


「なるほど」


「激怒した牛の飼い主や他の村人たちが、老虎を捕まえて高い崖から突き落としました。老虎は粉々に割れて、その命を失ってしもうた。鈴雨も泣き虫の子供もその後こってり絞られました。それに鈴雨は食べられた牛の代わりに、一年がかりで牛の魂人形を作らねばならんかったのです。それ以来鈴雨はわしが依頼し、鈴雨も納得した時にしか、魂人形を作っておりません」


 このことだけは、絶対に伝えなくちゃ。私は勇気を振り絞って言った。


「い、命あるものを……作るのですから……」


 緊張しすぎてどうがして、眩暈めまいまでしはじめる。


「ちゃんと……責任を、持ちたいのです」


 そこまで話すともう息切れがして駄目だった。言いたいことをうまく言葉にして人に伝えられない自分がもどかしい。

 でも長雲様は、ゆっくりとうなずいた。


「気持ちはわかった」


 伝わったならよかった。思わずふぅ、と息を吐く。


「安心せよ。陛下はそうめいなお方だ。魂人形の命を軽んじたり、お遊びで命あるものを作らせたりはしない。もしお前が陛下に魂人形を献上すれば、必ず大事になさるだろう」


「……はい」


 私はじっと、長雲様を見つめる。


 特に人をだまそうとするときに発生するような霊気は出ていない。陛下が聡明なお方だと考えていることにもうそはなさそうだ。


 浄眼を持っていてよかったと思うのは、こうして人の真意を見抜けるところだ。

 おかげで私は、人にだまされたり口車に乗せられるようなことがない。


「でも……行けま……せん」


「そうか」


 そう言いながら長雲様はしげしげと私を眺めた。


 人とろくに会話もできない、山奥に住むひきこもり。それが私だ。

 きらびやかなひんが集い、様々な謀略が飛び交う後宮でなんか、暮らせるわけがない。それがきっと彼にも伝わったのだろう。


「はい」


 これであきらめてくれるのかな? と思ったが、そういうわけにもいかないようだった。

 長雲様は口元を緩め、ほんのわずかに朗らかな笑顔を浮かべた。だが不思議なもので彼の場合、明るい表情をすればするほど不気味さが増す。


「長老様からお話をうかがったが、お前は本当に人形が好きで、人形師の道を極めたいと考えているそうだな」


「……え? は、い」


 私の夢は、おばあちゃんのように美しい人形を作る人形師になることだ。


「であればやはり、都へ行かないと」


「な、ぜ……?」

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