第5話 夕虹


 僕たちは倒れた時のままの姿で、重たいまぶたをもち上げた。


 湿度に消え入る零雨れいうに導かれるように、

雨としての体感は光の粒に変わっていると瞳は告げる。


「K……大丈夫?」

「う、うん……私たち、どうしちゃったんだろう?」


 胸の苦しさはない。水晶は消えてなくなり、綺麗な肌で覆われている。


「もう死んじゃったと思ったのに、よみがえったのかなぁ……」

「もしかして鳥さん、私たちが生き返るように、お願い事をしてくれたんだよ! きっとそうだよ!」


 私はハッとなった。


アカショウビンが私たちの周りをよちよちと歩き回っている。


「鳥さんも無事だよ‼ 死にかけていたのに。よかった、本当によかった」


「私のお願いが通じたのかな」


 Kは涙を浮かべながら頬を緩める。


ふふっと少し笑うと東の海上に眼差しを移した。



「見て! 虹!」



 君の指先が向かう先。

そこには美しい七色が夕陽に恋をするように、大気の温度を微々に上げては焦がれている。


 染め上がる空に架かる円弧が、末広がる耽美として、端々を曖昧あいまいにぼかしながら恥ずかしそうにたたずんでいる。


「なんだか、今の私たちみたい……だね」


 少しぎこちない言葉の終末が口元から離れると、彼女の視線はどこか透き通るように見えて、とても美しかった。


「私たちの虹は、八色かな」

「えっ⁉」


「虹の色はね、何色あるかではなくて、何色と見ようとするのかが大事なんだよ」

「えっ……じゃあ八色目って何色なの?」


 ふふふっ……と悪戯いたずらっぽく笑うと、三日月眼が並んで、僕の心を跳ね上がらせた。


「私たちの未来の色。虹色に見えるすべての色に調和するの。これからの私たちみたいに」



 そこには、今にも羽根が生えて孤高にも飛び立ちそうな君がいた。



「夕虹だね、明日は晴れるかな」



「ピーキョロロロ……」

「あっ……鳴いた! この子、鳴いたよ! 初めて聞いた」


 アカショウビンも虹が見れて嬉しいんだね。


「ピーキョロロロ……」


 フェードアウトする声の儚さ。

雨の優しさとして包まれていくように、静かな鼓膜にまう安らぎに似ていた。



――アカショウビン、雨を呼ぶ鳥……



 僕は何だか、雨を好きになれるような気がした。



そう思いながらKの手をつないで瞳を合わせると、

なんだか……愛しさが涙のように溢れてきた。



 Kも雨を従えるように、瞳が熱を帯びて頬を光らせる。



 これからもずっと、この思いは変わらないでほしいと、

奇跡の鳥を水晶のあった胸に当てながら、今はもう見えない天泣にこいねがう。



 君が教えてくれた、空と太陽とが結ぶ雨の奇跡を、僕たちはいつまでも、みつめていた。



 水晶から解放された僕たちの新たな人生は、

いま始まったばかりだ。




 完




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雨の約束 刹那 @hiromu524710

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