最終章 逆襲のサプライズ

第16話 真実

 その日の放課後、僕と月山は二人で教室に残っていた。


「やったね、下田君」


「……ああ」


「あたし、本当にサプライズが嫌だったんだ。最悪の誕生日になると思っていたけど、今日は最高の誕生日になったよ」


「よかった。それと、誕生日おめでとう」


「ん、ありがと」


 そう、これでよかったのだ。

 僕はただ、月山の笑顔だけが見たかった。


「でも、みんな怒ってたね」


「そうだな」


「疑われそうになったら、あたしのせいにしたらいいよ。あたしが我儘を言って、下田君に無理やりサプライズを潰させたんだ」


「分かった。危なくなったら、そうさせてもらう。僕だって自分の身が一番大事だ」


 ま、嘘だけど。

 意地でも月山には危害が及ばないようにする。

 これは僕が始めた戦いだからな。


「む~。分かってない顔だ」


「そ、そんな事ない」


 嘘がバレている。

 僕ってそんなに分かりやすいか?


 とにかく、これで全ての決着がついた。

 ただ、一つだけ疑問が残っていた。日野の行動だ。

 やはり、どうにも腑に落ちない。

 奴はなぜあっさりとサプライズを諦めたのだろう。


 いや、待て。分かったぞ。

 あいつ、まさか…………


「ね、下田君。こんなあたしだけど、これからも仲良くしてくれたら、嬉しいな」


「あ、ああ。もちろんだ。また遊びにでも行こう」


「うん。じゃあ、さっそく…………っ!?」


 突然、月山の顔が真っ青になった。


 どうしたんだろう?

 何をそんなに震えているんだ?

 月山は僕の後ろを見て、固まっていた。

 教室の入り口の方だ。

 振り返ってみると……



「あ、邪魔してごめんね? お二人さん」



 そこにいたのは今泉だった。

 幽鬼のような不気味な表情で僕たちを見て笑っている。


「でも、これは私からのだよ。ビックリしたでしょ?」


 まだサプライズ地獄は終わっていない。

 ここからがサプライズの逆襲だ。

 今泉はそう言っているようにも思えた。


「ねえ、下田君。クラッカー潰したの、あんたでしょ?」


「なんのことだ?」


「ふ~ん、とぼけるんだ。まあいいや」


 何故か今泉の声には、哀れみが混じっていた。


「さっき言った通り、これはサプライズだ。あんたにを教えてあげる」


「真実?」



「あんたは、月山に騙されている」



 ………………は?

 月山が……僕を騙している?

 なにを……言っている??


「ねえ、その子のって、聞いた事ない?」


 そうだ。

 確かに月山には悪い噂があった。

 最初にして最後の謎だ。


 


 その謎の正体が解けていない。


「その噂、本当だよ」


 今泉が自信を持った瞳で僕を見ている。

 彼女には何か確信があるのか?


「…………根拠は?」


「例えばさ、とか無かった?」


 ……ある。

 サプライズ対策をしたあの日、月山は確かに遅刻をした。


「それ、だよ。そうやって相手を困らせて、喜んでいるんだ」


 月山は無言で顔を逸らしている。

 反論ができない、と言っているかのようだ。


「ま、それくらいなら珍しくない。よくある話だ。でもさ。他にも?」


 それも、的中している。

 あの日、確かに今泉の言った事が起きた。


「これは明らかにおかしい。普通は財布なんて忘れない。わざと財布を忘れて、あんたに金を出させたんだ。考えたら、分かるよね?」


 言われてみれば、普通に考えたら財布を忘れるなんて、おかしい。

 今泉の言う事は、全てが真実?

 やはり、月山は何も言わない。

 いや、何も言えないのか?



「そうやって使いやすい男を見つけて、実行犯にさせて、責任も押し付けて、弄んで嗤う。それがその子の正体だ。あんたが無理をして自分を傷つけてまでサプライズを潰したのも、全てはその女のだったんだよ」



「そんな…………嘘だ」


 僕は月山に騙されていた。

 この真実が今泉からのサプライズ。


 なんだよ、それ。


 どうして、そんなサプライズなんかするんだ。やめてくれよ。

 驚きとか……衝撃の真実とか……そんなの……いらなかった。


「これは上位グループである私からのアドバイス。あんたみたいな陰キャに好きで寄ってくる女はいない。常に騙されていると思った方がいい。私があんたにきつく当たっていたのは、それを教えたかったからなんだ」


 今泉はずっと警告してくれていたんだ。

 女は危険だ……と。

 僕は完全なピエロだった。

 騙されているとも知らず、一人で舞い上がって、勝手にかき乱して、周りに迷惑をかけただけだった。


 これが僕の結末。


 今泉こそが正しかった。

 その真実が、本当のサプライズ……



「って、そんなわけあるかよ」



「え?」



「……予定?」


 今泉の表情が一瞬にして怪訝なものに変わった。

 悪いけどな、

 下らないサプライズごときにやられるか。


 僕はサプライズが嫌いだって、言っただろ。


 確かに今泉の言う事は本当だ。

 月山には違和感があった。

 だが、その違和感のは違う。

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