第18話 強襲サプライズ!!

 一回のサプライズを潰しただけじゃ終わらない。

 その元凶まで絶つ必要がある。


「言っておくけど下田。お前、終わりだからな? サプライズを潰した大罪人め。しかも予定ってなに? きもいなあ! お前がどれだけ気持ち悪いのかクラス全員に広めてやる。もうお前はまともな学園生活はおくれないよ」


 僕が最も恐れていた事を的確についてくる。

 これがこの女の最も恐ろしいやり口だ。


「終わりなのはそっちだ。お前がやった事こそ犯罪だぞ」


 今泉こそ完全に『一線』を越えている。

 特に財布を取りあげるなどは、どう考えてもアウトだ。


「ん~? そんな事にはならないよ~。そんな事実は存在しないからね。あんたたちが言う事は誰も信じないし、私が言った事だけが真実となるンだよ~」


 にぃっと口が裂けるくらい笑う今泉。

 女子の笑顔をこんなに気持ち悪いと思ったのは、初めてかもしれない。


「いい? ボクちゃんたち。よく覚えておいてね。『なにを言ったか』が大事じゃない。『誰が言ったか』が大事なの。普段から上位グループに所属して自分の発言力を高める努力を私はしていた。あなた達は信頼される努力、してましたか? 悪いのはどっちか分かるよね? 努力をしない人間は、痛い目に遭うんだよ?」


 またしてもおかしな理論を振りかざす今泉。

 だが、そこには絶対の自信があった。

 確かにこの女なら、それをやってしまうかもしれない。

 たった一人でクラス全体の価値観を操作する支配力を持っているのだ。


 月山に『わざと周りを困らせて喜ぶ腹黒い女』なんて根も葉もない噂を、まるで真実のように広める悪魔みたいな離れ業もやってのけている。

 一見、荒唐無稽に聞こえる今泉のやり方は、この女に限ってのみ、本当に成功する危険性がある。


「下田、あんたはこの馬鹿女と違って、空気が読めた。だから許してやろうと思ったのに。大人しく騙されて、この女一人だけを悪者にしておけば、少なくとも平穏な学園生活は過ごせたのにな。馬鹿が」


 勝利を確信したような今泉が見下すように笑う。


「明日には噂、広めとくからな。せいぜい後悔しながら、惨めな学園生活を過ごせよ。馬鹿にはいい薬だ。勉強になったろ?」


 僕が目指す理想の現状維持もここまで。

 『馬鹿な事をした』という点に関してだけは今泉が正しいのかもしれない。


「ごめん、下田君。あたしのせいだ。……本当に、ごめん!」


 月山が泣きながら謝ってきた。

 僕が目立たずに学園生活を過ごしたいのを分かっていたらしい。

 だから、彼女は自分がされた嫌がらせを僕に言わなかった。

 言えばこうなる事が分かっていたから、僕を巻き込まないようにしていたのだ。

 本当に律儀というか、頑固な子だ。

 そこまでして我慢しなくてもよかったのに。


「月山、大丈夫だ」


 僕にはがある。

 このまま今泉に勝ち逃げなどさせない。

 サプライズを絶対正義とし、それ以外を悪とする狂った空間を作った全ての元凶。

 それはここで終わりにする。


 だが、それは僕の役割ではない。

 約束通り、に任すことにした。



「サプラァァァァァァイズ!!!」



 次の瞬間、いきなり教室の扉が開いて、大きな掛け声が教室内に響いた。


「え? …………え?」


 それを聞いた月山と今泉は、驚愕して硬直している。

 

 現れたのは、日野だった。

 後ろにはグループのメンバーも控えている。

 ここからが、というわけだ。

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