第13話 予定人間、日野グループの生態について考察する
「……ふう」
家に帰った僕は、ベッドに倒れ込む。
今日はさすがに疲れた。
また明日から対応できるように、更なる予定を作らなければならない。
今夜も徹夜になりそうだ。
ただ、この作業は僕が好きでやっている事なので苦痛は無い。
今日の事を振り返ってみる。
僕の加入について、メンバーの反応はそれぞれだった。
ほとんどが『なんでこんな陰キャが俺らと一緒にいんの?』みたいな目だ。
その空気感を作り出しているのは今泉。
認めなければならないのは、あの女の『空気を支配する技術』については天才的だ。
彼女の言葉には、つい従ってしまう呪いのような攻撃性がある。
僕みたいに予定だけを信じるこだわりを持っていたり、月山のような我の強い性格でなければ、あの空気にあっさりと飲まれてしまうだろう。
そして、いじめにならないギリギリの境界線を攻めるのだ。
あくまで自分は正義側であり、悪ではない。
その状況を演出して、安全圏から他人を攻撃する戦略である。
逆に言えば、周りの連中はその空気に飲まれているだけなので、反応がパターン化しており、今泉も含めて予定を作って対応するのは楽である。
また、今泉がいなくなると一気にグループの雰囲気は良くなる。
つまり、面倒なマウントを取る性質を持つのは、今泉ただ一人だけなのだ。
むしろ、今泉が良く思われていないまである。
何人かは僕を庇おうとしてくれる子もいるようで、こんな会話も繰り広げられていた。
『下田君ってさあ、ほんと陰キャっぽいよね~』
『し、志穂ちゃん。あんまりそういう言い方はよくないよ。下田君、大丈夫?』
『あ? なにそれ。私が悪いの?』
『そ、そんな事ないよ。ごめんね、志穂ちゃん』
『うん。よろしい。空気だけは、しっかり読もうね?』
かなり強引に意見を通している時もある。
確実に不満は出ているはずだ。
その辺りも把握しつつ、グループに溶け込むしかないだろう。
ただもう一人、今泉よりも厄介な人物がいる。
それが実は日野だったりする。
脳が焼き切れたのも、日野が原因だ。
というのも、日野はいつでも演技っぽいのだ。
だからこそ、読みやすい今泉と違って本心がまるで見えない。
奴の言動の全てが嘘っぽい気もするし、本音のようでもある。
不確定要素が多いので、危険度は最も高い。
これがトップを維持し続ける奴の処世術なのだろうか。
さらに日野については噂が錯綜しすぎて、どんな奴なのかよく分からない。
『怒るとめちゃめちゃ怖い』って噂もあるし『実は見た目よりも馬鹿』って話も聞いた事がある。
どの話も信憑性があるし、根拠が無いとも言える。
全てのパターンに対応できるように、それぞれの予定を立てて戦うしかない。
まるでスパイにでもなった気分だ。
いや、バグの例えに合わせてウイルスとでも言った方がいいか?
知らぬ間にサプライズに感染して、内部から食い尽くすウイルス。
こっちの方が僕らしいか。
そんな事を考えていると、月山から電話が掛かってきた。
「ね、下田君。お願いだから、無理はしないで」
「大丈夫。楽しんでやっているよ。予定を進めるのは好きなんだ」
これに嘘は無い。
全てを予定に当てはめる事で、僕は無敵になれる。
「失敗していいから、絶対に無理はしないって、約束して」
「了解。きちんと分かってるよ」
「終わったら、また遊びに行こうよ。今度こそ奢るからさ」
「だったら、また絵を描いてくれよ。それが欲しい」
「ん、それは任せて。とっておきのを描いてみせるね」
楽しみがまた一つ増えた。
僕にとって最高のご褒美だな。
この報酬を楽しみに、明日からも頑張ってアンチサプライズ、やっていくか。
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